野口悠紀雄先生の円高・デフレ礼賛は「体罰的スポ根理論」
先日、円高・円安についてご質問頂いたので見解を示しておきます。
日本では、左右問わず、野口悠紀雄先生の円安批判がもてはやされています。頭が痛いです。もはや「頭痛が痛い」レベルです(使い方合ってる?)。これだから「失われた10年」が20年になり、30年に突入しているのです。
野口悠紀雄先生の理論は、簡単に言うと新自由主義以上の「体罰的スポ根理論」です。
野口悠紀雄先生曰く、デフレは「構造改革の過程」であり、「超緩和政策を長期にわたって継続すれば、円安が引き起こされ、これによって物価下落は表面的には阻止される」が、それは「消費者の立場からすれば…物価下落による生活水準向上の可能性の喪失」なのだそうです。確かに企業は苦しくなるが「それは、企業が従来の活動を継続することを前提とする」ためで、「デフレ阻止政策をとるか否かは、構造調整の痛みの大きさにひるんで安易な道を選ぶか、それとも産業構造の大きな改革に向かって前進するか、という選択」なのだそうです(何れも『週刊東洋経済』2001年5月26日掲載の野口悠紀雄先生の論考から)。
これ、要するに企業努力して、デフレに適応した生産性向上とか製品価格低下策を取れ、できない企業は努力不足なのだから「旧構造の温存」をしないためにも淘汰されれば良い、ということです。
恐ろしいことに、日本ではデフレ不況下でこの「野口悠紀雄理論」が実行されてしまったため、「企業努力」として賃金カット、人員カット、雇用の非正規化が行われました。その結果、格差と貧困が拡大し氷河期世代をはじめ多くの人が今も苦しんでいるのです。デフレ不況下の「失われた30年」は、確かに「物価下落」によって安いモノが大量に出回りました。ファストフード、ファストファッション、100円ショップ…でもそれは、賃金が上がらないことの裏返しなのです。そして、安いモノは技術や経験が必要とされる「高品質・高価格」なモノを駆逐し、環境にも悪影響を与えています。
さらに、「野口悠紀雄理論」には、円安・円高とインフレ・デフレの認識に根本的かつ致命的な誤りがあります。重要なのは、円安・円高は相対価格変化、インフレ・デフレは絶対価格変化だということです。
現在の燃料価格などの物価上昇は、コロナ危機やウクライナ戦争などの対外的要因による相対価格変化であり、生活や企業活動への悪影響が出ないように短期的には金融緩和や減税や補助金で対応する必要があります。そして中期的にはモノの値段に対しての労働の相対価格を上げる、つまり賃上げに全力投球するべきなのです。しかしデフレだと賃上げができないことは、この30年でみなさんもよくお分かりだと思います。だから、デフレ脱却がまず必要なのです。これはマクロ経済政策の基本のキです。
残念ながら、本来ならこの「野口悠紀雄理論」を批判するべき左派・リベラルですら、「野口悠紀雄理論」を使って政府と日銀批判をしています。これは、「野口悠紀雄理論」と真逆の「アベノミクスでデフレ脱却」方針を打ち出したのが超右派の安倍首相だったので、「デフレ脱却」や「金融緩和」が安倍首相と結びついてしまっているのでしょう。まさに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ですが、残念ながら、野口悠紀雄先生をもてはやすと格差・貧困は拡大します。経済に関する理解を深めなければ、いま必要な政策が何なのかを判断することはできないのです。
同じ野口でも、耳を傾けるべきは野口悠紀雄先生ではなく野口旭先生です。幸い、日銀の政策審議委員には、悠紀雄先生ではなく旭先先生が入っています。だから「野口悠紀雄理論」が実行される可能性は非常に低いのですが、参院選に向けて野党が「野口悠紀雄理論」で円安批判を行えば、それは民主党政権の誤った経済政策を繰り返すことになります。
ちなみに、悠紀雄先生は旭先生の『経済学を知らないエコノミストたち』に「マクロ経済論議の「常識」」がない「著名な経済学者」として言及されています。
ということで、円高・デフレ礼賛は「体罰的スポ根理論」 であり、「失われた40年」への道だということをぜひ多くの方に分かって頂きたいと思います。
参考文献
野口旭『経済学を知らないエコノミストたち』日本評論社、2002
野口旭『反緊縮の経済学』東洋経済新報社、2021
朴勝俊「実質実効為替レートは高いほうがよいのか?」https://parkseungjoon.hatenadiary.com/entry/2022/01/28/103932
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