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悲しくなったら内藤哲也
誰かの熱狂的なファンじゃなくてヘコむ時があります。
その誰かが何をしても応援して、その人のことは自分が1番詳しいっていう自負があるの、いいよね。憧れる。
幼稚園の時からずっと同じ男性アイドルを応援してる友達は、今でもそのアイドルのDVD見ながら晩酌してたりします。見すぎてて劣化しないはずのDVDが再生不可能となり、数本は何回買い直してました。彼女の部屋は彼の顔がそこら中にあり、全ての番組を録画するために複数の外付けハードディスクをレコーダーに繋げています。一つのことにずっと情熱を持ち続けているっていいな。めっちゃ羨ましい。
私は根っこがミーハーだから、自分の中の「1番」の基準はコロコロ変わるし、例えば好きなお笑い芸人が出ているテレビでも、あんまり興味のないクイズ番組は1回録画を見ただけで消してしまう。最悪、見なかったりする。
つまりは1番好きな人だから、何をしてる姿でも最高!と思えないわけです、熱狂的なファンだったらトイレから出てきてハンカチで手を拭いている姿だけでも最高って思うわけじゃない、別にその時のその人が特別好きじゃないもの、私。
全部の雑誌のインタビューを読んだり、全部のライブに足を運んだりとか、したことがないの、すごく寂しい。
もちろん好きな人たちはいるけど、「〇〇をしてるときの誰々」って限定されるかもしれない。
トーク番組やラジオで話してる時のオードリー、ザックセイバーJr.と戦う時のSANADA、漫才中の霜降り明星、歌ってる志村正彦。
じゃあそれ以外の時間はどうかというと、その「自分の中で最高の瞬間」の貯金で追ってる。
「もしかしたら自分が知ってる最高に近い瞬間があるんじゃないか」って期待をして、粗品の生配信を見るわけです。
けど「ほんなら誰かを一番好きって断言できんねんな?」と聞かれたら、間髪入れずに頷ける自信がない。だって熱狂的なファンは全ての時間が貯金なわけでしょ。減っていく時間がないわけで。待ち受けにしたその人の画像見るだけで活力でるんでしょ、3日くらいで飽きるよ待ち受けは。
そいで“こんな抱えなくてもいいじゃん憂鬱“が発生した時に見るのは、内藤哲也の試合なのです。
内藤のことはデビューから見てきたわけじゃないし、なんならスターダスト時代のブーイング期には大嫌いだったくらいです。ファンにリプとか返しまくってたし、巡業先のうろついてる場所を明言してたのとか、大嫌いでした。
だけど、内藤のことをちょっとだけ好きでした。
地元の体育館に新日本プロレスが来た時、私の席は花道から3、4席隣の列の一番後ろ。花道の近くまで行って手を伸ばすのは禁止されているので、退場する選手に一応手を伸ばしてみるけど、誰もこっちまで来てくれませんでした。
でも、本隊時代の内藤哲也だけは花道を通り終わると右側、左側と満遍なくハイタッチをしてから帰ったのです。
その日にハイタッチが出来たのは内藤哲也だけでした。
「内藤ありがとう! 嬉しい! 応援しちゃう!」
と帰り道に嬉々としてスターダストTシャツを買いそうなものですが、「一回ハイタッチしたぐらいで、私が惚れると思わないで頂戴!」とヘルタースケルター沢尻ばりの厄介尖りで特別応援することはなく、数ヶ月後には内藤の試合を見て「イケ好かねーな」と舌打ちをしてましたし、熱狂的中邑ファンだったのでドームの投票はもちろん中邑対棚橋に入れました。
ある日、内藤が突然黒いキャップをかぶって、ノロノロ入場して来ました。
「覚悟を持って変わろうとしてるんだ!」という若林正恭的な感受性を持ち合わせていなかった当時の私は「は? 内藤どうした?」とだけ思いました。
だけど、内藤から目が離せなくなったのでした。
その後のG1の試合、当時は生中継はレアでほとんどが後日配信だったのですが、内藤の試合だけは全部見てしまいました。
スターダスト時代にブーイングをしていたファンも「あれ、ブーイングであってるよな?その前に内藤どうした?」という戸惑いで静まった変な空気の中、試合が進んでいきます。
あの、真面目で爽やかでファンサービスのいい内藤じゃなくなった? 急に? みたいな感じです。ただ、目が離せなくなった。
それであのロスインゴの大旋風が起きたのです。
内藤がいうところの手のひら返しを、私もしました。目が離せなかった内藤のこと、気づいたら大好きになっていました。
この経験、初めてだったんです。「嫌いだな、イケすかないな」って思ってた人のこと、大好きになるなんて少女漫画的な展開、人生で初めてでした。
両国、オカダ対内藤のIWGP戦、会場は大内藤コール、私も100%内藤を応援していました。そして3カウントを聞いた瞬間、テレビの前で号泣しながら拳を突き立て、全身の骨がピキピキ鳴るのもお構いなしにその場で3回転ぐらいしました。
ベルトを放り投げて、バックステージで「ベルトを超えた、ほら、ベルトの方からついてくるでしょ?」とスタッフが運んできたチャンピオンベルトをドヤ顔で指差すところは「何言ってんだよバーカ」と笑いました。こういうとこが熱狂的ファンじゃないんですね。
この試合って、介入も反則もあったんです。プロレスファンからしたら「ふざけんな」って話なんですけど、会場の空気とか、当時の私の気持ちとか、むしろダメージ与えたってくれ! と思ってたわけです。
誰も止められない勢いを持つ男が、ついに圧倒的な結果まで手に入れてしまう。
某番組である芸人さんが「最強のエンタメってなんだと思います?」と他の出演者に聞いていました。
私の答えは「プロレス」です。
他のエンタメと一つ決定的に違うところがあるんです。
「同じ映像を見返しても、最初に見た時に感じた純度があまり下がらない」とこです。
めちゃくちゃ面白い映画とか芸能とか、どのエンタメでもめちゃくちゃ面白いのは1回目で、2回目はどうしても純度が下がるものです。他の見方をする楽しみもありますが、決定的に面白かった1回目と比較してしまうと、そこまで心から楽しめるかなっていうのがあります。
でも、プロレスの場合、同じところ、同じ瞬間に、同じような興奮をするんです。結果はわかってるしどうなるかもわかるけど、何故か純度が下がりにくい。
だから、誰の熱狂的なファンじゃない私は、大嫌いだった、大好きな内藤哲也の試合を見直して、自分の中に不足してると思われた熱狂を再確認するのです。
内藤のチマチマネチネチした言葉を聞きながら「ちいせぇなぁ!」と笑い、でも結局ビックマッチに着てくる白スーツ姿を見て「ふーん、似合ってんじゃん。べ、別にかっこいいとか、思ってないんだからね! 絶対勝ちなさいよ!」とツンデレかましながら、粛々と楽しむわけです。アディオス。