サイドエフェクトと呼ぶもの
人生で初めてアパートの名前を決めた。
遡ることほぼ半年、アパートのオーナーである父より突然連絡があった。
「建物を新しくするついでに、名前は君に決めてもらうことにしたよ。日本語でも英語でもドイツ語でも、なんでも好きに考えてね☆」
たまげたことだ。そんな大切なことを自分以外に決めてもらうのでいいのだろうか?
心配したが、命名することへの好奇心によりそれはすぐに薄れてしまった。
ワールドトリガーという漫画がある。
そこの登場人物はしばしば特殊能力を持つが、それらを総称して‘ サイドエフェクト’としている。
「嘘を見抜く」「未来予知」「感情受信体質」「聴覚強化」「睡眠学習」「動物との意思疎通」など、さまざまであるが、炎を出したり空を飛んだりといった超常的なものはない。あくまで人間の能力の延長線上のものに限られる。
実は私にもサイドエフェクトが存在する。
「ランダムなアイデアの生成 」
とでもいえばいいのか。
自分の中に、必要な時思いもよらないヒントをくれる人がいる(奇妙な話ではあるが)。
特に意味もなく、君をつけるなどして「サイドエフェクト君」と呼んでいる。
今回のアパートの名前も、サイドエフェクト君が一言だけヒントをくれた。
「Mondがつくやつ」
そう宣うのだ。Mond?なんだそれは…?
こんなふうに、自分がまったく意味のわかっていないところから始まる。
そこから先は教えてもらえない。
その後「mondとは」「mondを含む単語 英語/ドイツ語」などの検索結果をもとに、無事名前をつけることが出来た。
サイドエフェクト君がなぜいるのか、何のためにいるのかはわからない。
もしかすると、私はいわゆる頭のおかしい人間で、サイドエフェクト君も脳の欠陥の副産物なのかもしれない。
しかし、私はそれをおもしろいと思う。
自分ひとりで考えている時の、観念から開放されるひとつの手段かもしれないと、一種の希望を抱いているからだ。