日本語教師の資格と言語政策
資格の議論の背景・経緯
noteは本当に久しぶりの投稿になります。
久しぶり投稿の主たる理由はさぼっていたということなのですが,何度か続けて書いていた「日本語教師の資格」について,その後,状況がどんどん変化していて書きようがなかったというのもありました。
ちょっとおさらいをすると,2019年度の文化審議会国語分科会日本語教育小委員会に「日本語教育能力の判定に関するワーキンググループ」という会議体が設置され,そこで,日本語教師の資格について,かなりつっこんだ議論が行われました。ワーキンググループの議論の内容は,日本語教育小委員会でも審議されました。そして最終的に2020年3月に,第73回文化審議会国語分科会の議題として上がり,「日本語教師の資格のあり方について(報告)」という形で審議結果のまとめが発表されました。私自身は,ワーキンググループ→日本語教育小委員会→国語分科会とすべての議論に関わりました。
調査研究協力者会議
2020年度には「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」という新しい会議体が立ち上がり,私はこちらのメンバーにも選出されました。この会議の設置趣旨にもあるとおり,2020年3月の「資格のあり方」の議論を踏まえて「日本語教師の資格制度及び日本語教育機関の類型化の詳細について検討する」ことがこの会議の目的です。
さて,この会議,第1回が2020年7月9日に開催された後,しばらく開催がなく,半年以上経った2021年1月25日に第2回が開催されました。私は本務の関係で第2回に出席できませんでしたが,こちらに当日の資料が掲載されています。この中の資料4に,今後,議論が必要な事柄が列記されています。
例えば,国家資格にすることについて,
国家資格の創設という手段を取る必要性を法制的に説明することが難しい
といったことが書かれています。また,日本語教師の仕事の定義を明確にする必要があるということで,
日本語教師の業の範囲が曖昧
であり,
日本語教師が教えるプログラムの内容と,教育責任主体たる日本語教育機関を定義するのが先であり,教師という要件だけに着目する理由が乏しい
とも書かれています。
私がよくわからないのは,「日本語教育機関を定義するのが先」というロジックです。他の国家資格をみても,その国家資格を保持している人が担う仕事の範囲は明確にされていると思いますが,その人が働く場所(機関)の定義が必ずしも行われているわけではないと思います。たとえば,国家資格「ウェブデザイン技能検定」に合格した人や国家資格「公認心理士」を保持している人が働く場所(機関)が法的に定義されているわけではありません。そうすると,ここで指摘されている問題の本質は,働く場所(機関)のことではなく,「日本語教師の業の範囲が曖昧」なことであると解釈できます。これはすごい(すばらしい)指摘だと思います。
言語政策の確立
日本語教師の仕事は日本語を教えることですが,教える対象としての日本語は,法的に定義されていません。言語に関しては,国語(国家語)や公用語といった位置づけで法的に規定している国もあります。しかし,日本における日本語は法的には何も位置づけられていませんので,日本語教師の仕事の範囲を法的に明確にするのであれば,日本語の位置づけも明確にしなければならないでしょう。
私は常々,日本語教育に関する政策だけを動かすのではなく,それを包含する移民政策や言語政策をきちんと確立して,法体系全体として整備すべきだと主張しています(神吉, 2020)が,まさに,この資格の会議で政府側からその問題意識がでてきているのだと考えると,今後の議論が本当に楽しみです。
日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(第3回)は2021年2月26日(金)9時半〜 オンラインで開催されます。他にも,私は質問したいことがたくさんあり,当日はいろいろと質問するつもりです。この会議は傍聴可能ですので,興味のある方はぜひこちらから。
参考文献
神吉宇一(2020)「国内における地域日本語教育の制度設計 -日本語教育の推進に関する法律の成立を踏まえた課題-」『異文化間教育』52, 1-17.
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