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風越をうろうろしてきた

はじめに

うちの娘は軽井沢風越(かざこし)学園の幼稚園に通っている。そして何を隠そう、風越の校長の岩瀬直樹は僕の大学の同級生で大親友・大悪友なのだ。その岩瀬が2010年代のなかばだったかなあ、学校作るぞーって言い出して、そりゃすげえなあと思っていた。

そのうち、僕が再婚して子どもができて、軽井沢の岩瀬んところに遊びに来た。そしたら妻が「ここに通わせようよ」と言い出し…、岩瀬と僕は「校長先生と保護者」という、およそ自分たちの人生では一ミリも想像していなかった関係になった。

友人で保護者ってどんなんだろうなあと思ってたんだけど、まあびっくりするぐらい普通。娘の送り迎えのときに会ったら「よお」って声をかけるぐらいのいわゆる「ヨッ友」。まあでも半年に1回ほど「ビールでも飲むか」って飲んで、そこではもちろん教育の話はするんだけどちょっと違う方向の話題だし、そもそも2人とも話したことはもちろん、どうやって帰ったかすらほとんど覚えてない(笑)。

そんなこんなで1人の保護者としてフツーに風越に関わりながら日々を過ごしてたんだけど、今回「うろうろ風越」という催しに参加してみて、いろいろ考えさせられた。そこで、自分の備忘的にこちらにまとめてみた。書きたいことはたくさんあるんだけど、ひとまず、「ことば」と「つくり手」という観点に絞る。岩瀬のことは風越では「ゴリさん」と呼ぶことになっているので、ここから先はそう呼ぶことにする。

うろうろ風越

7月4日に「うろうろ風越」が実施された。うろうろ風越ってのは、一般的に言うと学校参観ってことになるのかな。この日は申し込みをした保護者が8時半に集まり、ゴリさんがファシリテーターになって、みんなで語っては見る、見ては語る、そして聞く、みたいなことをやった。終了は15時、それまでたっぷり6時間半。こんな学校参観ない。

一般的な学校参観と異なる点はもう一つあって、自分の子どもを見に行くわけではないということ。風越で何が起きているのか、風越がどういう場になっているのかを、見て語って考えるというのがうろうろ風越だと言っていいと思う。この日のタイムスケジュールは冒頭の写真。

うろうろ風越はゴリさんが校内のシステムに投稿している「毎日うろうろチャンネル」から発展したものなんだと思う(たぶん)。風越にはTyphoonというシステムがあって、それですべての連絡が行われる。学校からのお知らせ、子どもたちの記録、草刈り手伝ってくれのお願い、近所で行われるコンサート情報などなど、多種多様な情報が行き交う。ここに「毎日うろうろチャンネル」というチャンネルがある。ゴリさんが校内を徘徊して出会った子どものこと、出来事についてなどをかなりミクロな記述でアップしてくれる。そのミクロな記述から、風越でどんなことが起きているのかが、全体としてわかるというのがとてもおもしろい。

子どもたちの成長とことば

うろうろ風越では、幼稚園から9年生(中学3年生)まですべての子どもたちを見に行くことができる。だから、子どもたちがどんなふうに成長していくのかもわかる。最初にゴリさんから、見学は上の学年から順番に見た方がいいよってアドバイスがあった。それなんで?って聞いたところ、直感的なものではあるけど、その方が成長・変化がよくわかると思うということだった。下から順番より上から順番ってこと。それで、まずは9年生から見学をはじめた。

僕らが「うろうろ」していることはスタッフ(風越では、先生とか職員という言い方はせずにみんなスタッフと呼ぶ)も子どもたちももちろん知っていて、学習の妨げにならない限りは声をかけて話を聞いてもいいことになってる。それで、今なにやってんのーとかいろいろ話しかけながら見学した。

そこで感じたのは、子どもたちがみんなすごく「きちんと話せる」ということ。普段大学生と接していてもよく感じるけど、こちらの問いかけに対して正面から受け答えができない若い世代の人たちってけっこう多いんだよね。こっちが聞いてるのに、隣の人とそのことについて「どうするどうする」ってコソコソ話したり。

「風越の人たちは大人や訪問者に慣れてるんだよ」とわかったふうに片付けるのは簡単なんだけど、「慣れ」で済ませるのとはちょっと違う、なにかがあるんだろうなと思う。その「なにか」をここ二日ぐらい考えてるんだけど、今の僕にはまだよくわからない。このことはもうちょっと考えたい。

子ども時代に大切な経験

今回、僕ら参加者に与えられたお題は「子ども時代に大切な経験」について考えることだった。そのお題について、9年生と7年生の5名が昼休みに僕らの輪に合流してくれて、いろいろと経験を語ってくれた。セルフディスカバリーファシトレアウトプットデイの準備などの経験が自分たちにとって大切な経験だったという声が多かった。

自分はいつも先頭を走りたい、先頭でみんなを引っ張っていきたいと思ってたけど、セルフディスカバリーで自転車で日本海に向かっているときに一度最後尾についたことがあった。そしたらいつもと見える景色が違って、後ろからみんなを支えるというのも大切だと気づいた。

ファシトレの1回目が衝撃だった。元々人前で話すこととかあんまり得意じゃなかったんだけど、いい意味で自分らしくないことができた。

その後、「大人にこういうふうにあってほしいと思うこと」「風越から出て行った後、社会で苦労するんじゃないかという声についてどう思うか」という二つの問いに対して、どちらでもいいから選んで答えて、というやりとりもあった。以下の二つの意見は、それぞれの問いに対して印象的だった回答。

大人には子どもでいてほしいと思う。私たちは大人になったことがないから、大人のことがわからない。だけど、大人は自分たちが子どもだった経験があるから、子どものことがわかるはず。自分たちが子どものときどうだったのか、それを考えてくれるとうれしい。

他の学校に行って、もし自分たちがやりたいことができなかったら、その学校を自分たちで変えたらいいと思う。風越でできたんだから、他でもできるはず。

上の回答は9年生が言ってくれたんだけど、彼/彼女たちは5年生から風越にきているので、他の学校のこともある程度わかった上での発言。僕は、この発言を聞いて、そもそも僕らの問いの設定が間違っているんじゃないかと思った。

僕ら大人は、「風越は自由で自分たちがやりたいようにできるからいいよね、でも君たちはまだ知らないだろうけど、外に出たら大変だぞ〜」とどこかで思っている。でも、それはまさに「大人には子どもでいてほしい」という上の願いからずれてしまってるんじゃないか。大人としてわかったふうなことを言ってるけど、もう一度子どもに戻って考えてみなさいよと、まさに突きつけられたんじゃないかと感じた。

そして、ここで話してくれた9年生は、ゼロからつくっていく大変さ、自分たちがつくり手になることのある種のしんどさに常に向き合ってきたんだろうと思った。それを、「多少大変かもしれないけど、自由で楽しくていいよね」ぐらいに僕らが考えているとしたら、その認識は変えていかなきゃいけないだろうなあと気づかされた。

そして、このセッションでも、やっぱり子どもたちのことばの力というものに圧倒された。自分が経験したこと、そこで考えたこと、感じたこと、それをどう乗り越えたのかまたは乗り越えられなくて煩悶しているのか…、そういったことを一人ひとりが率直に語ることができる。「本当にこりゃすごいことが起きてるな」というぐらいしか言えないんだけど、ほんとすごいなって思った(すごい以外の語彙がないのか…笑)。

風越の特徴はいろんなところにある。自由、個別性、プロジェクト、遊び、本、森、コミュニティ…、たぶんいろんなキーワードが挙げられる。でも今回うろうろに参加して感じたのは、風越の真髄は「みんながつくり手」だということ(つくり手に関しては稲葉さんの記事、理事長のしんさんの子ども時代の話とか、とても興味深い)。それぞれが「自分ごと」としてつくり手になること、そしてその根っこには、自分自身も風越という場の中で変わっていくということがあるんだろうと思った。

モヤモヤしながら向き合い続ける

大人になるとなかなか変われない。自分が今まで積み上げてきたものがあって、どうしてもその上に積み重ねていきたくなるし、それは普通だと思う。積み上げていくことでできることもいっぱいある。でもときには痛みを伴って、今までの積み重ねから離れて変わっていくことが、さらに自分を成長させるんだろうと思う(痛みについては、おかつさんのこの記事必読!)。

つくり手になるということは、自分自身が変わっていきながら関わっていくことなのかもしれない。僕らはいろんな能力と経験を持っているから、それを使って風越の何かを変えられるかもしれないし、誰かをサポートしてあげられるかもしれない。でもつくり手として関わることの本質は、そういう関わり方じゃないんじゃないかって思った。僕が今回のうろうろで風越に「出会い直した」経験は「つくり手とは何か」を深く考えるきっかけになった。

そして、もう一つ大切だろうと思うのは、みんなが「ほんとにこれでいいのかなあ」とモヤモヤしながら歩み続けることじゃないかな。まさに、子どもたちはそうやって自分たちに、そして風越という場に向き合ってるんだと思う。それはとってもしんどくて、なんか正解みたいなのがないと苦しいし、誰かに「こうやればいいんだよ」って言ってもらうと楽になるのかもしれない。だけど、そのモヤモヤに向き合い続けるところにこそ価値があって、それが風越を風越として成り立たせている真髄なんだろうと思う。他のどこにもない学校。

当日対応してくれた7年生、9年生、途中で話を聞かせてくれたスタッフのみなさん、僕らの問いかけにいろいろと答えてくれた子どもたち、一緒に参加してくれた12人のみなさん、ファシリをしてくれたゴリさん、貴重な学びの機会をつくってくれて、本当にありがとうございました。

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