月明かりの下で
さっきまでおえつを堪え号泣していたのが嘘みたいに、彼女はケラケラと笑い半歩先を歩く。
「ライアン・ゴズリングのダンス、ぎこちなくて最高だったねー!」
と、たまに振り返りながら。
夜に外出するのは久しぶりとあって「なんか良さそう」とあらすじをよく確かめず映画に誘った。予想に反し決してハッピーエンドとはいえないストーリーの展開に僕はもやもやを抱えてしまったのだけれど、彼女はとても満足そうだ。
ワンピースの裾を揺らしながら歩く彼女は さながらスクリーンの中のエマ・ストーンのようで、なんとなく引きずったままの映画の余韻と彼女の泣き顔がよみがえり、もやもやは なかなか減らない。
コツコツとヒールの音が響く。
くるくる変わる表情とは対照的に、ブレることのない信念をお腹の底にどっしりと抱え生きている彼女が、あんな風に涙を流すほどの相手とはいったいどんなヤツなんだろう。
そう思いながら、僕は自分の小ささにひとつ、ため息をもらした。
「どうしたの?」
声にはっとして彼女に目をやると、今にもこぼれ落ちそうな大きな瞳がきらきらと輝いていた。
この真っすぐな眼差しの先にいるのは、他ならぬ僕なんだ!
月明かりの力を借りて、そっと彼女の手をとる。
瞬きのあとに見せてくれたほほえみに明るい未来を確かめ、僕は彼女とふたたび歩き出すのだった。
-おわり-
〜本日のThank you for the music〜
「すぐそこにNEW DAYS / 森山直太朗」
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