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【旅日記】東京2024秋|1.東京へゆく

Mr. Blue Sky


飛行機に乗り込んで、席に座る。3人掛けのシートのいちばん窓側の席。空が見たかったから、窓側を予約していた。小窓から覗いた比翼の先にSolaseed Airの黄緑が見える。少しあかるい気分になった。空は、曇っている。

ゆっくりと動き出す景色を見ながら、この旅のタイトルを考えていた。ひとりだし、秋だし、"センチメンタル・シティ・ロマンス"って感じかな。そう思ったとき、景色のなかにANAの青がたくさん見えて、あ、"Mr.ブルースカイ"にしようと決めた。これから向かうのは、晴れやかな東京。旅が未来への入り口になればいい。そんな願いも込めて。

雲の上はとても陽射しが強い。空をずっと見ていたいけれど、陽光があまりに強くて焼けそう。窓から見える景色をほんの少しだけ残して、日よけを下げた。
途中、CAさんがドリンクサービスに来てくれた。わたしが「ホットコーヒー、ブラックで」と言うと、隣のおじさんとその隣のおばさんも同じものを注文。隣のおじさんは旅慣れていないのか、そわそわチラチラ、いろいろなものに視線を送っている。めくっていた機内誌のなかに心惹かれる記事が見つかったようで、スマホでパシャパシャと撮影していた。

わたしは音楽を聴くことにした。機内モードでも聴けるように、あらかじめ旅用プレイリストを作ってダウンロードしておいたのだ。イヤホンをして、目を閉じる。ふぅ。旅用プレイリストの優しい音楽に心は落ち着き、いつの間にかうとうとしていた。そして気がつけば隣のおじさんも、舟をこいでいた。

濡れた羽も乾かぬうち
はばたけば雲の上に

ほらね ごらんよ
夜が明ける
ほらね 夜が明ける
あなたに あなたに
知らせたいことがあると

折坂悠太/鶫

海の上から海面へと近づき、そのまま羽田空港へ。
東京に着いても、機内はまだ地元という感じだった。聞こえてくる話し声の内容、イントネーション、言葉の速度がまだ地元のそれだったから。わたしは(おそらく)同郷の人々と一緒に飛行機の外へ出て、一緒に”動く歩道”に流され、一緒に手荷物が来るのを待った。
荷物を受け取った人からばらばらに散ってゆく。わたしも小豆色のちいさなスーツケースを引き取って、タグを外し、ゲートをくぐった。

とてもお腹が空いていたので、空港で食べることにした。ほんとうは街に出て東京でしか食べられないようなランチを食べたかったけれど、幸運なことに空港のなかでも”東京っぽい色とりどりの野菜が載ったプレートランチ”を食べられる店が見つかった。テラス席でお腹を満たしながら、人でごった返す出発ロビーを見下ろす。「いろんな人がいるなあ」。まだ、東京に来たという実感はない。

京浜急行に乗って品川へ向かう。
電車に揺られてみたらそろそろ”東京”を感じるかな?と思ったけれど、東京はまだやってこない。高層ビルが見えないから? 電車が満員じゃないから? でもなんとなく、そうじゃない気がする。
”東京にいる”という感覚を持てないまま、ホテルに到着。通されたのは、こじんまりとした過不足のない部屋だった。3日間、お世話になります。荷物をほどき、ふぅーとひと息つく。ベッドの上に転がって目を閉じた。少し休もう。


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上野イクヨ
本の出版を目標に執筆を続けています📙📕📘よろしければお力をお貸しください🐆🦒🦓🦩🦚🌬️🫧