鬼畜ゲーム・ブラウザ三国志の話(その2)
ドワクエのライバル・土佐藩
孤高の盗賊ウヒョ助を、温情で引き込んだ小国のボス、タン爺。地方の片隅にある、天下統一には程遠い、小さな国の一つであった。しかし天下統一に必要な7つの城塞、その一つの攻略権利を持っていた。
そこに目をつけた大国が「うちと合併して、大きくならないか?」と話を持ちかけてきたのだ。小さいけれども有力な活気ある国を、大国がどんどん吸収して大きくなる。実際の人類の歴史、国家の成り立ちを眺めているかのようかのようである。
その頃の盗賊ウヒョ助。
今までのトガッたキャラはどこへやら、あっという間にみんなと仲良くなっていた。チャットで面白いことを言って仲間を笑わせる、ただのお調子者に一晩で成り果てていた。
しかし心のうちでは、優しいボスのタン爺に忠誠を誓い、この男に天下を取らせてやろう、このウヒョ助を仲間に誘ったことが、人生のでっかいターニングポイントと思えるくらいの働きをしてやろうと、静かに燃える一兵卒であった。
そう、わしは新入りの一兵卒なのである。
馬も持っていないような足軽だ。チームの中では、最下層である。
そのくせに野望を抱いていたのであった。
そんな時に聞かされた、大国との合併の話。
悪い話ではない。良い話だ。
国が大きくなれば、天下統一を、あの最強チームのドワクエと競い合うことができる。ただし、わしが自分のボスだと思ってるタン爺は、皇帝から幹部に格下げにはなるであろう。別の見知らぬ男が自分のボスになるのだ。
(気にくわねえな… よし時間をかけて、内乱を起こしてやろう)
盗賊ウヒョ助がニヤリと笑った。
この男、埋伏の毒である。
かくして合併の話は無事まとまり。
わしが所属している国はいつしか、ドワクエと匹敵するくらいのメンバー数を抱えた巨大帝国、実質のライバルとなった。
その国は「土佐藩」という名前だった。
大国を率いる皇帝の名前は「ライト」
名古屋に住んでいる、お医者さんである。
お金持ちだけあってカードもすこぶる強い。
しかし穏やかな人柄で、求心力もあった。
一言でいえば「良い人」である。
(ハート弱そうだな、じゃあ潰せるな…)
と、一兵卒は不敵な笑みを浮かべた。
盗賊が鳴らす太鼓
どの国にも、トップの座に座る皇帝と、その幹部がいる。
ブラウザ三国志では、役職として誰かがその大役を引き受けなければならないのだ。面倒な仕事は多いが、チームの中では「偉い人」になれる。
このゲームでは、5つの役職があった。
盟主: いわゆる皇帝。チームのリーダーである。
盟主補佐: リーダーの側近。ナンバー2。
大督: 国内の秩序を守る人
軍師: 戦争の指示を伝える人
外交官: 他国と交渉をする人
わしがボスだと思っていたタン爺は、記憶では確か外交官になった。
とにかく幹部ではあるが、ナンバー1でもナンバー2でもないのである。
一兵卒ウヒョ助は、気に食わなかった。
ほとんどの幹部が、自分たちを吸収した側のメンバーで占められていたからである。同じように考えていたメンバーは多く、このあたりから「派閥争い」の香りがふんわりと漂い始めていた。
幹部は基本、偉そうにしてるだけで、実際はあまり働かない。
同盟を組んでいる他国との外交チャットで、いかに自分がリア充であるか、そしていかに強いカードを持っているかで、夜な夜な会話してキャッキャしてるだけである。
面倒な仕事は、やる気のありそうな下の者にまかせがちだ。
しかし下の者は、ご褒美もないのにそんな仕事はしたくない。
特に一番面倒なのは「城塞まわりの領地整備」である。
これが本当に面倒くさい。
大事な城塞まわりの領地を他国に奪われないように、自分たちで埋め尽くし。さらに戦争の上手い人や、アクティブな兵士に、その領地一つ一つをしっかり守ってもらう配置を作らなくてはいけない。彼らに戦争用の砦を建ててもらわなくてはいけないのだ。
「すみません、そこの領地、◯◯さんにゆずってもらえませんか?」
「嫌だよ! ここは俺が村に育てようとしてた領地だぞ!」
「でもあなた、あまりログインしませんし、留守に攻められたら…」
「おまえらが俺を守ればいいだろ! 嫌だ、絶対ゆずらねえ!」
仲間内で大モメである。
なにせ大所帯、千人に届きそうなほど自国の仲間がいるのだ。
個人主義のワガママなヤツが多すぎる。
そんな交渉を、一人づつにいちいちお願いして、そのたびに怒鳴られるのだから、誰もやりたくない。でも天下統一するためには、大事な防衛の準備である。
「じゃあ、わしがやります」
一兵卒のウヒョ助が名乗り出た。
その頃には、みんなとよくチャットで会話している、楽しげな兵隊がいると噂にはなっていた。わしなら交渉できます、と名乗り出た。
そうして一兵卒のまま、城塞防衛準備の担当となった。
1ヶ月毎晩、領地交渉のメールとチャットを丹念に続けた。領地の交換条件などお互いの言い分をしっかり聞き、説得し、優しくなだめ、時には無駄に人生相談などを朝まで聞き。さらには自分の大事な領地まで、仲間に差し出して、防衛の要づくりを進めた。とてもしんどい作業であった。
しかしその間に、親密に話せる仲間がめちゃくちゃ増えたのである。 幹部たちとは距離が遠すぎて会話はできないが、ウヒョ助とならできるという大勢の味方をこっそり増やしていた。
そうなれば、こっちのものである。
大所帯の国の中、無駄に知名度があるから、ヤンチャもできる。
面倒くさい仕事を引き受けてくれてるので、幹部も文句が言いづらい。
そのうちわしは「ハゲネコ通信」という新聞を勝手に発行し始めた。
全メンバーに書簡を一斉に送付するのである。
ハゲネコとは、当時のわしのプレイヤー名である。
ブラウザ三国志の世界情勢、そして内部の情勢を伝え、みんなを励まし士気を高める内容の、面白トーク満載の新聞であった。仲間は笑って盛り上がった。幹部をイジリ、幹部も笑っていた。
Mリーグ関連で、わしが今やってることと同じである。
盛り上げるのだけは、無駄に上手なのだ。
いつしか盗賊ウヒョ助は、土佐藩で幹部よりも目立つ存在になっていた。
ドワクエと土佐藩の同盟
ブラウザ三国志で2大強国となった、ドワンコ率いる「ドワクエ」と、わしが所属する「土佐藩」
戦闘力ではドワクエが圧倒的であり、人数では他国吸収を繰り返す土佐藩が圧倒的であった。いざこの2国が戦争になれば、サーバーが落ちるくらいの大戦争になるのは間違いなかった。
しかし、この2国の皇帝はどちらも頭が良かった。
ボス同士の話し合いで友好同盟となり、諸国を制圧し始めたのだ。
もう無敵である。アメリカと中国が組んだのだ。
はむかえる国はない。
世界に7つある城塞は、ドワクエと土佐藩が2分する形になった。
しかし面倒くさい男が一人いた。
いつだってそう、ウヒョ助である。
「意地のぶつけ合いの戦争ゲームだろ!
ライバル同士が仲良くしてどうするんだよ!」
お得意の野次である。
しかもみんなが楽しみに待ち望んでいる、わしが発行してる新聞で、自分たちのボスである皇帝のライトさんを野次りまくるのである。このあたりから、皇帝が精神的にまいってきたのか、発言しなくなってしまった。
さらにわしは、ドワクエのかわんご社長の本拠地目の前に、攻撃用の砦を建設、挑発をしまくった。
そのたびに幹部が、ドワクエに説明と謝りに行く。
その繰り返しである。
しかし人気者なので、追放処分もできす、困り果てる幹部たち。
今思えば、わしが麻雀界隈のツイッターでやっている、面倒くささがそのままである。これは性分なのだ。楽しい方にも、ヒリヒリする方にも、両方で盛り上げたいのだ。
そんなこんなで。ドワクエと土佐藩は戦争するに至らず、5ヶ月経過。
シーズンの終わりを迎えようとしていた。
このまま2大強国が仲良しこよしで、天下統一もしないまま終わってしまうのか?
伝説の天下統一ジャンケン
「天下統一」を達成するには、7つの城塞をすべてを手にしなければならない。しかしドワクエと土佐藩は友好同盟のまま、片方が3つ、片方が4つ持って半分こしたまま、シーズンの終わりの6ヶ月を迎えようとしていた。
今から戦争しても、強国同士の戦争、絶対数日なんかでは終わらない。そしてお互いが大怪我をおったまま終了する。
そんな時、ドワクエ側から、ある面白い提案が持ち込まれた。
「いっそ武将ジャンケンで、城塞を賭けませんか?」
武将カードを使ったジャンケンで、負けた国が所有する城塞をすべて、勝った国に引き渡す。これで勝った方はそれで城塞7つコンプリート、天下統一である。
武将ジャンケンとは、武将カードを使ったジャンケンである。
武将カードにはそれぞれ属性がある。
「弓」「馬」「槍」である。
弓は槍に強く
馬は弓に強く
槍は馬に強い
このジャンケンに似た特性を使って、お互いの国から「5人の代表者」を出してジャンケン勝負。お互いのカードを一騎打ちでぶつけあって、属性で勝ち負けを決めるのだ。3勝を先取した側が勝利である。
両国、仲間たち全員に説明をし、納得してもらったところで、この最後の大祭りが開催されることになった。ブラウザ三国志史上、初めての天下統一が見られる瞬間である。
問題は、代表5人を誰にするか?
やはり、そこは幹部の5人であろう。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。
大将はもちろん、お互いの皇帝。
ドワクエはかわんご社長、土佐藩はライトさんである。
シーズン終了直前、いよいよ開催された天下統一ジャンケン。
ドワクエの先鋒は、ドワクエの主要幹部であり、のちには次のシーズンでドワクエ2代目皇帝となり、土佐藩をボッコボコに打ち倒すことになる「ゲンサン」
そして対する、土佐藩の先鋒は…
あの日の盗賊・ウヒョ助であった。
とうとう代表5人に選ばれるほど出世していたのである。
役職は一兵卒のまま。
ドラマ「風林火山」の、足軽大将のまま軍師になった山本勘助みたいなキャラになっていた。
ファイナルバトルの先鋒二人の激突は、槍vs槍で引き分けに終わった。
中堅戦には、タン爺が出た。
そして台本があるかのごとく、決着がつかないまま、大将戦までもつれこんだ。かわんごvsライト。お互い大勢の仲間を背負っている。緊張感の中、最後の一騎打ち。あいこが続いた、その結果…
土佐藩が勝利した。
わしの所属していた国が、初の天下統一を果たしたのである。
その後、かわんご社長による壮大な「ブラウザ三国志おつかれパーティー」が開催された。負けたのに、敵味方関係なく楽しめる、こんな壮大なオフ会を開くのだから大人物である。
わしは出席しなかったが、タン爺さんとのミニオフ会は開いていた。
エリート社員の彼が「マレーシアの屋上プールがある高級ホテル」でブラウザ三国志をやっていたと聞き、多少イラッときたわしは「いっそこいつじゃなく、わしが皇帝になってやる」…という新しい野望を秘めて、第2シーズンを迎えることとなった。
その後のブラウザ三国志
「今度は本気で戦争しましょうね」
…と、ドワクエと土佐藩が約束し始まった、第2シーズン。
ドワクエの皇帝は、わしとジャンケンで激突したゲンサンが就任し。
土佐の皇帝には、わしが(いつかトップに担いでやる!)と誓った、タン爺さんが就任した。
わしの野望がひとつ叶ったのである。
先代の皇帝ライトさんは、いろいろ疲れ果ててしまい。
幹部職を引退して、ゆっくりカードを育てる隠居老人になってしまった。
おそらく原因は、9割わしの野次のせいであろう。
土佐藩は、前シーズンに天下統一したせいで「私も入れてください!」といいう兵士が大量に集まった。大量に集まりすぎたせいで、1つの国でいるのは難しく「北西」「北東」「南西」「南東」の4ブロックで、土佐藩はそれぞれ4つの国に分けられた。
北東地域の皇帝に、ウヒョ助が就任した。
出世したものである。
あの日のフリチンの盗賊が、数百人の大所帯の皇帝である。
しかし、4つの国を束ねる大皇帝は、タン爺さんである。
そしてシーズン中盤、ドワクエと土佐のガチ戦争がいきなり始まった。
結果は散々たるものであった。
我ら土佐藩の大敗北である。
どんなに人数がいようと、ドワクエの戦争の上手さには歯が立たなかった。
ドミノ倒しのように次々と仲間たちが倒れ、一瞬で負けてしまった。
「昔のよしみがありますし、決着はついてスッキリしましたので」
戦勝国ドワクエの第2皇帝ゲンサンは、とても器の大きい人物であった。本来なら、負けた土佐藩は丸裸にすべて奪われても文句が言えないのに、すべて元どおりに戻してくれたのである。もうドワクエと喧嘩はやめよう、絶対かなわないとみんなが思った。
しかし、せっかく命拾いした土佐藩だが、あまりにも所帯が大きくなりすぎていた。わしと同じく、別のブロックの皇帝だった血の気の多い男が「奇襲してドワクエにリベンジしよう」と言い出したのだ。
わしは再挑戦はともかく、その男のタイミングや戦略には反対した。あまりにも計画が早急で雑だったからである。個人の「悔しい」の感情だけで動いている。
そして何より、わしも大勢の仲間を守る立場になった以上、仲間を無駄にノリだけで傷つけたくない。可愛かったので守りたかった。
彼と大喧嘩になった。
土佐藩のナンバー2と、ナンバー3の喧嘩である。
大皇帝・タン爺も抑えられなかった。
そしてその血気盛んな男の暴走で始まった、ドワクエとのリベンジ戦。
一瞬でボッコボコにされる土佐藩。
恩知らず相手に怒ってるドワクエは、さらに強かった。
「言わんこっちゃない! 言わんこっちゃない!」と叫ぶウヒョ助。この頃から、想像力のない馬鹿は嫌いなのである。
しかし、ドワクエはやっぱり優しかった。
また許してくれたのである。
しかし3度目はもう許されない。
残りの一ヶ月は、敗戦処理である。
いまだドワクエにリベンジしたいと暴れ出す仲間の暴走を抑え、何かトラブルあるたびに、ドワクエの皇帝に謝りにいく、それが敗戦国・土佐藩の皇帝の最後の仕事である。とても面倒くさい。しかも屈辱的だ。
タン爺は皇帝の役目から逃げ出した。
彼はわしと同じく、戦争反対側であった。
なんでそんな尻拭いを自分が…という気持ちはよく理解できた。
もう誰もやりたがらない皇帝の仕事。
しかし一人だけ責任感が強く、放り出せない性格の男がいた。
わしである。
こうして、あの日の盗賊は、土佐藩最後のラストエンペラーとなった。
「ドワクエに俺一人でも攻撃する!」と暴れ出す仲間がチラホラ現れる。いちいち「仲間のために我慢して、おとなしくしてください」と説得する。でも勝手に攻撃する。そのたびにペコペコ謝りに行く。
「反逆者を追放して、責任持って潰せ」という戦勝国からの命令。
しかしわしにはできなかった。悔しい気持ちもわかるし、かつては一緒に戦った仲間なのだ。追放のボタンが押せない。
「追放だけはカンベンしてください。そのかわり自分が来期、カードを捨てて隠居しますので…!」と、土下座したらなんとか許してくれた。
その後、第3シーズン、わしは約束どおり隠居していた。
土佐藩はもう消えていた。
地方の片隅で、こっそり名前を変えてどこの国にも属さず、歴史の流れを眺めていた。諸国がドワクエ包囲網で大戦争が起こり、盛り上がっていた。
第3シーズンの終わり頃、うっかり隠居がバレてしまった。
かつてわしが皇帝時代に集まっていた仲間が、またオマエがリーダーでやろうと誘ってくれたのだ。あの誰もやりたがらない敗戦処理で、仲間をかばって守り続けていたのが、印象に深かったのであろう。嬉しかった。
第4シーズン、わしは国をまた立ち上げた。かつての仲間が大勢集ってきてくれた。すごく嬉しかった。守りきろうと頑張った結果、第8シーズンまで一緒に遊んでくれた。こんなに長く、同じ仲間で仲良く遊んだ国も少ないのではないだろうか。
そしてその最後の第8シーズン、とうとう2度目の天下統一を果たした。その時は外交官の幹部としてである。自分が皇帝になろうとは思わない、仲間を守りきって、ハッピーエンドまで導いてあげられたなら、それでいいのだ。
それを良い卒業の形として、わしのブラウザ三国志の4年間の青春が終わった。本当に楽しかった。
あんだけ夢中になれるゲームは、もう二度と現れないであろう。
あのゲームを知る者は、みんながそうではないだろうか?
………
…と、ここまでキーを打ったところで、流れるスタンド・バイ・ミー。
あの映画の終わり方である。
(おわり)