「スタートアップへ転職する前に知っておきたいこと」イベントレポート
2022年4月22日、mento主催「スタートアップへ転職する前に知っておきたいこと」イベントを行いました。モデレーターをmento CEOの木村がつとめ、キャスターの石倉秀明さん、YOUTRUSTの岩崎 由夏さんにお越しいただきました。大企業やメガベンチャーを経験し「働き方のアップデート」に取り組む3人のスタートアップ経営者でお話ししました。
(記事中一部敬称略)
スタートアップといっても、フェーズや規模は様々
最初にスタートアップの定義について、木村から紹介しました。スタートアップとひとことで言っても、企業によってフェーズや規模などは様々です。
「スタートアップの特徴を捉えるポイントの一つはシリーズ。明確な定義はないのですが、一般的には何回資金調達を実施したか、株式を発行したかでシード、シリーズABで分けられています。N-?は、あと何年くらいで上場するかを示しています。このふたつによって組織の成熟度が異なります」
次に着目したのは従業員数。スタートアップというと、従業員が少ないというイメージもあるかもしれませんが、幅があることがわかります。ここでは、YOUTRUSTやmentoは副業やインターンの人数もかなり多い点について触れられました。
岩崎「副業をしているメンバーのなかには、完全に副業の方と採用のためのお試し入社の方がいます。なるべく入社前にお試しで副業してもらうようにしています。スタートアップって、一人ひとりが関わる範囲や人数も多いので、お互いに『入ってみたら違った』というのを避けたいなと。特にSlackでは、社員の就業時間、関係性や雰囲気がわかったりしますね」
石倉「以前だと、副業は本業が終わったあとの深夜や休日にしかできなかったが、今ではリモートワークやコミュニケーションツールの進化によって、副業をしやすくなりました。転職する際に副業をうまく活用すると良いと思います」
長時間労働が当たり前だった時代から、変化している理由
ここから事前のアンケートで特に聞きたいとあがっていたテーマを話していきました。まずは働き方。スタートアップ=長時間労働のイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。3人からリアルな働き方と、生じている変化の理由について話していきました。
岩崎「例えば、土日も深夜26時まで働いている、子育てとの兼業はできないのではないかなど、スタートアップは労働時間が長いと誤解されていることが多いです。結論からいうと、うちは結構ホワイトだと思いますね。私自身も朝8時半に子どもを預けて18時くらいにあがって迎えにいって、そのあとは育児や家事をするというライフスタイルなので、1日の労働時間は9〜18時くらいです。弊社は経営陣には家族がいるメンバーが多いので、社内全体にそのような働き方が浸透していると思います」
岩崎「理由としては、採用の観点が大きいのかなと。以前は企業側が強く求職者は企業を選べませんでしたが、今は求職者の売り手市場。となると、長時間労働の会社は選ばれなくなってきますよね」
石倉さんの会社も、18時になったらSlackがオフライン、つまり終業するメンバーがほとんどとのこと。理由についても「長時間労働を課すと採用ができない。となると、長時間労働にする合理的な理由がひとつもない」と採用の観点が大きいと話します。加えて、ベンチャー・スタートアップに長く携わっている経験を踏まえ、変化している理由として中で働く社員が多様になっていることを挙げました。
「2008年にリブセンスに入社したときはスタートアップやベンチャーは死ぬほど働くのが当たり前で、月120時間働くぞみたいなときもありました(笑)なるべく長く働けるように、徒歩圏内に住んでいるメンバーも多かったです。その頃は、学生起業家が多かったり、社会の一般的なレールから外れた一部の人が選ぶような狭い業界だったりしたのが、変わってきているからだと思います。今では色々な人の選択肢になった。結果、経験を積んだベテランが入社したり、学生ベンチャーだった経営者の年齢が上がってきたりして、多様な人が働くようになりました。昔のように、若くて長時間労働できる人ばかりではなくなったいうのも大きいと思います」
木村は業界の変化もあるのではと話します。
「長時間労働だと、長く働き続けるのって難しいですよね。だから投資家もサステナブルなホワイトな働き方を推奨している印象があります。あとは、ビジネスの流行りもあるのかなと。例えば以前モバイルゲームが全盛期だったときは、その業界はレッドオーシャンでなるべく早くリリースして改善することが求められた。ですが、今はそういうビジネスを選ぶ企業が減っている、その結果、長時間労働を課さなくなってきたのではと思いますね」
リスク以上に大きな「キャリアとしてのリターン」
次に取り上げたテーマは「年収」。これも働き方同様、ネガティブ=年収が下がるのではとイメージされていることが多いことに対し、3人は口を揃えて「むしろ今はスタートアップの方が年収が高い所も多い」と話します。
岩崎「企業の採用支援をしていて見ている範囲だと、スタートアップでも日系上場企業と同じくらいの年収が出せるようになっていると感じます。本当に創業初期だとお金がないので、多少下がることはあると思うんですが、大きくなればすぐに戻るという印象です」
石倉「弊社だと最近執行役員の年収のクラスの上限を上げて、2500万にしました。多少はマイクロソフトやグーグルのような外資企業にも近づいたと思います。そうすると、採用においてもそのあたりの方をターゲットにすることができる。年収が上がっているのも、採用の要素が大きいと思っていますね。より経験豊富だったりスキルの高い方を採用するためには一定日系大企業や外資系の企業の年収に合わせる必要があると思っています」
ここまでで働き方や年収など、デメリットだと思われている点について誤解を解いていきました。それでも今の環境をやめてまでスタートアップに転職するのはハードルが高いと感じる方も多いと思います。まだまだリスクが大きいと思われがちですが、3人からはそれ以上に大企業ではなかなか得られない「リターン」があるといいます。石倉さんは、上場タイミングで実績を残したことが市場価値を高めてくれたと話します。
石倉「リブセンスが社長の年齢が史上最年少で上場したとき、僕はメイン事業の責任者をやっていたんです。この経験によって実力以上に市場価値が高くなって、転職するときに書類が落ちませんでした。スタートアップでの上場や大きなインパクトを残した経験は、長い期間効くキャリア的な報酬になると思います」
人数が多くないスタートアップの特徴のひとつとして、年齢に関係なく役職につけたり権限を多く持ったりすることもよく言われています。実際に社内ではどのようなことが起きているのか、また役職に就くことでどのようなことが得られるのでしょうか。
岩崎「自分自身が経営者になって、経営者としてどうするべきか、どう組織を動かしていくかという視点を持つようになりました。これは、大きな会社にいたままだと得られなかったですし、得られたとしてもだいぶ先になっていたと思います」
石倉「スタートアップでは役職につきやすいというのは本当に思いますね。大きな会社だと部署やポジションが増えていかないので、椅子の数が変わらない。だけど、スタートアップって椅子の数がどんどん増えていくし、それに社員よりも早く増えていくっていう謎な現象が起きる。そうすると、一人ふたつくらいの椅子に座っていることも多いですよね」
木村はスタートアップの経営者やメンバーとして働く良さについて「価値提供をしている手触りがあること、それがキャリアとしての報酬にもなる」といいます。
「経営から顧客まで全部に関わるので、自分で手漕ぎボートを漕いでいる感がありますね。これは、経営者ではなく初期のメンバーの多くが感じていることだと思っています。調達できたり売上が上がったら大喜びしたり、みんなでひざをつけあわせて課題に対して改善策を考えたり。それに、自分で考えたことをその通りに実行するので、自分ごととしてビジネスができます。この経験を持ってる人ってどの会社でも欲しいのではと思いますね」
大企業からスタートアップへの転職する際に大切な “アンラーニング”
では、いまスタートアップはどのような人を求めているのでしょうか。最初に岩崎さんは「違う景色を知っている人」を挙げました。
岩崎「フェーズによって異なると思うんですが、今だと規模の大きな会社で働いた経験がある人を採用したいですね。5人、50人、100人とそれぞれのフェーズで組織は全然異なります。同じような規模の経験を持っている人だけだと、組織が拡大したときに対応するのが難しいので、より大きな企業での経験がある人が欲しいなと思います」
大企業とスタートアップでは、考え方や仕事の進め方、使用するツールなどが異なる場合も多く、求職者は慣れる必要があり、その点も懸念のひとつになるかもしれません。採用する側としても、どれくらい柔軟に変化できそうかは重視すると話します。
岩崎「違う環境から入社する場合、今までのものを手放す、アンラーニングしないといけない。それを本人が受け入れられるかが不安ですね。20〜30代はそこまで固執することはないと思うのですが、例えば一社で20年働いている人とかだと、どの程度カルチャーフィットができるかどうかは注意して見るようにしています。フェーズの変化を含めて何事も楽しめる人がいいですね」
次に欲しい人材についてあげられたキーワードは「即戦力」。木村も「人数が少ないと、育成する余裕がないので、やはり即戦力として働いてくれる人がほしいですね」といいます。石倉さんは「即戦力」の解釈を話したうえで、経験やスキルよりも「やったことがないことにも前向きに取り組めるかどうか」を見ていると話します。
「経験とスキルと能力の3つを分けて考えると、やったことあることが経験で、経験を経て再現できるようになったことがスキル、経験をスキルに変える力が能力だと思うんです。スタートアップに必要なのは能力なんですよね。やったことがないようなことを調べたり人に聞いたりしながらやっていかないといけない。この経験・スキル・能力の変換を早くできるようになる人が即戦力なんだと思います。なので、今まで採用するかどうか最終的に悩んだときは、経験は足らないけど最後までやりきれるという人を採用してきて、正解だったなと。逆に、経験があるけどやりきれる感じがしない人は失敗するケースが多いです」
スタートアップの楽しさは、現実と理想のギャップがあるからこそ
最後に参加者からの「世の中を知れば知るほど理想と現実のギャップにショックを受けています。みなさんは自分の事業が目指す姿と現実のギャップをどう捉えて埋めてるか」という質問に対して答えていきました。3人ともそのギャップがあることが楽しさにつながっていると話します。
石倉「スタートアップで働いている人って、そのギャップを感じているからやっているんだと思っています。世の中のギャップや目指したい社会に近づくために、みんなで考えるのが面白いと思います」
木村「ギャップがなかったら何に頑張っているかわからなくなるので、どうしても埋めたいギャップを見つけたときが、一番楽しかったりします。一方辛いこととすると、自分のできることの小ささに苦しむことはありますね」
最後にはスタートアップをより多くの人の選択肢にしていきたいという話に。石倉さんはスタートアップは市民権を得られつつも、まだまだ特別視されていると感じているそうです。
石倉「スタートアップを特別視されないようにしたいと思っています。やりたいことがあったりキャリアとしてすごいことを考えたり成長意欲が高い人ばかりが集まっていると誤解されていることがまだまだあるなと。ですが、事業や会社の状態がまだまだ未熟なだけで、やってることは普通に仕事をしているだけなんですよね。ミーティングして、決めて、実行して、数字をとって、振り返る。だから僕たちも普通の人ですし、特殊な能力を持っているわけでも仕事をしているわけでもないというのは、最後に伝えたい点ですね」
木村は自身が実際に大企業で感じていた課題と起業した理由から、起業やスタートアップで働くハードルを高く設定しすぎなくてもいいのではと話しました。
木村「実際にリクルート時代に新規事業の案をだしていたものの、通るイメージがわかなかったんですよね。自分でやりたいことがあったので、大企業でやることは合理的ではないと思い、起業しました。ちょっとでもやりたいことがあるのであれば、共感しあえる仲間を集めて起業するのがいいと思います。やりたいことがないと起業してはいけないと思われていることもありますが、スタートアップで現場を体験すると考え方が変わると思いますね。
あとは、スタートアップでは、既成のものを受け入れすぎず、中長期的な視点を持ちながら手を動かせる力が重要だと思っているので、大企業のなかで発言や行動しにくかったりで、ウズウズしている人がスタートアップに向いていると思います」
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