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【創作怪談9】
僕は蛇を吸い込むべく大きく口を開けたが、蛇自ら、僕の中へ飛び込んで来た。
喉につかえるような質量を感じて、吐きそうになるが堪えた。山場を超えると後はスルスルと身体に浸透するかのように蛇が僕の中に消えてゆく。それが突如、中断されてしまった。
「?!」
「和政、この蛇を戻してはいかん!せっかくお前の黒い部分を奥底から引きずり出せたのに!!」
「ワシが蛇を呑む。お前はワシに蛇を封じ込めるように動け!」見ると庇っていた筈のジーちゃんが全身全霊で蛇に食らいついていた。
「そんなことしたら、ジーちゃんが持たない!魂魄を蛇に食われて消えちゃう!そんなの、僕がバーちゃんに殺される!」
ジーちゃんはバーちゃんのジーちゃんに対する思いの深さを知らないだろ?!だから、そんな事が出来るし言えるんだ!僕は怖い!バーちゃんが怖い!ジーちゃんが魂魄ごと消えたなんてなったら、僕は間違いなく殺されるだろう。バーちゃんの素直な気持ちをさっき知ったばかりだから、リアルに怖い!だから、ジーちゃん離れてくれ!そんな泣き言ばかりが頭に浮かぶ。
とにかく僕自身も蛇を再度、吸い込もうと気合いを入れる。蛇は自分に食らいつくジーちゃんの存在が気に触ったのか、僕ではなくジーちゃんに意識を向けていた。そしてジーちゃんを少しずつ齧りだした。
「この野郎、ジーちゃん齧るな!」と叫んだ後は僕が蛇に食らいついた!三つ巴の様相だ。僕は吸引に力を込めて食らいついた所から蛇を思いっ切り吸い込んだ。身体の中に重いモノが入ってくるのを感じる。
蛇も僕が吸い込む力に少しは抗うが、戻りたいのか、飢餓なのか、強い抵抗は感じられない。
『人間とは勝手なものだ。勝手に我を放出したと思えば、また戻そうなどとは』
「うるさい!」と怒鳴ったら噛み付いていた場所を外してしまった。
『だが、確かに腹は空いた。足しにはならぬが邪魔なコイツを先に喰らおう』
言うが早いか蛇は顎を外してジーちゃんの霊体を頭から飲み込んだ。ジーちゃんの霊体が蛇の毒のせいなのか小さく固まってゆく様に見える。ジーちゃんもそれを感じて小さく呻く。
「嫌だ!ジーちゃん!諦めないで!!」
そういう僕も諦めてはいない。再び蛇に噛み付き、そこから蛇を吸う。思いっ切り吸う。だが蛇はズルズルとジーちゃんの霊体を呑み込むのを止めない。ジュポンとジーちゃんの霊体が蛇に呑み込まれていくのを目の端で見た。僕はその時点で蛇を吸うのを止めて、真正面に見据える。やはり吸うなんてまどろっこしい事はやめる。向こうから飛び込ませる方が良い。さぁ来い。
蛇はジーちゃんをまだ呑み込んで行く途中。蛇の口からジーちゃんの足首だけが出ていたが、今、消えた。
「おい!いい加減にしろ!戻るなら早くしろ!お前をこのまま消しても良いんだぞ?僕が拒絶したら、お前はもう還れないし、飢えるだけだぞ?」
蛇は少し何かを考えていたようだが、こちらに向き直り、2つに分かれた舌をチロチロとさせながら鎌首を前後に振りながらタイミングを計ってるように伺えた。
『来るなら来い!』両手を広げて、自分の身体に張るすべての結界を解いた。その瞬間を蛇は見逃さず、僕の中に全身で飛び込んできた。ドスン!と言う衝撃を身体に受け、後ろへ少しよろめく。口から何かを吐きそうだ。それを手で押さえ荒れた息を整える。大きく肩を上下させながら次第に身体の中も外も落ち着いていく。蛇は僕の体内に入った瞬間、僕が体の中で捕縛したから、苦しげにのたうち回っている。それも同じように落ち着いていく。頃合いを見て呼び掛ける。
「落ち着いたか?お前の様子次第で縄は解く。暫くはそのままだ」
『構わぬぞ?やはり慣れ親しんだこの空間は心地良い。美味なる糧も多分にあるし、あの娘とは比べ物にならぬ。うむ、小僧、取引をせぬか?』
「取引?何だ?」
『ジジィは飲み込んだが粉砕はしていない。形を崩して小さくはしたが、魂魄はまだ呑んでおらぬ』
「僕にどうしろってんだ?」
『あの娘をワシに差し出せ。ジジィの魂魄と交換だ。でなければジジィはジワジワと魂魄ごと溶けてワシの一部になる』
「僕がそんな事を許すと思うか?」
『許すも何もお前はあの娘をきっと連れてくるだろうよ?なぁ和政?』
「馴れ馴れしく呼ぶな!」
『少し疲れたから我は休む。次に目覚めたらあの娘に会えると良いのぅ』
「僕はまだ承諾してないぞ?それに僕からも取引を提案する!それは」