テュルク諸語版『星の王子さま』蒐集活動のその後(キルギス語版とカシュカイ語版について少々)
今年の春くらいまで、『星の王子さま』の他言語版を集めるという活動にはかなり熱が入っていました。なんなら1月の「言語学フェス2022」というイベントはドンピシャのテーマでトークもやりましたしね。
が、最近はちょっと停滞気味になってきました。というのも、気づいてしまったのです。テュルク諸語版の蒐集については、今入手可能なものはだいたい手に入ってしまったことに。
とはいえ、関係者のご厚意もあって最近入手できたものもあったことはやはりここで言及しておきたいと思います。なんといっても、キルギス語訳が手に入ったのは大きかった。こちらは現地在住の方がご厚意でご当地で購入してくださったものです。
キルギス語では"Кичинекей ханзада"(ラテン文字への転写例としてはKichinekey xanzadaくらいでしょうか)となっていますね。Кичинекейがおそらく「小さい」くらいの意味の形容詞、xanzadaは「王子さま」だと推定されます。ハーン(xan)の息子(zada)ということでしょうからね。
キルギス語そのものについても、いつか少し触れたいなと思っています。テュルク友の会にもキルギス語のエキスパートが最近参加してくれましたしね。語学書がそのうち日本で出版される可能性にも期待したいところです。
さてもう一冊は、カシュカイ語。
へえ、そんな言語もあるの?とか言わないでくださいね…ありまんねん。そういうテュルク系言語が。こちらも先輩蒐集家の方にご教示いただいて、トルコから直接取り寄せた一冊です。
カシュカイ語も、イランで話されているテュルク諸語のうちの一つ。リンク先のとおり、日本語ではまだ統一的な名称が定まっていないようですが、本記事以降は「カシュカイ語」と表記しようと思います。
テュルク諸語の中ではやはり南西語群(オグズ語群)に属する言語でして、この語群の中でも南部語群という分類をされることが多いようです。なるほど左様に、訳文をざっと見た限りではアゼルバイジャン語とかなり似ているなという印象があります。
なおこの本の圧巻は、なんといっても『星の王子さま』の本文に入る前のカシュカイ語の概説の部分。
本文は残念ながら、ペルシア文字を使った表記はなく、全文ラテン文字に転写したうえで提示されているのですが、カシュカイ語の背景、および訳者へのインタビュー、さらにカシュカイ語の文法解説、翻訳テキストと続きます。そしえt巻末には語彙索引まで載っているという万端ぶりです。
力作どころの話ではないのです。専門書の雰囲気すら漂う、ほかの翻訳シリーズと比べてもかなり異色の構成となっている一冊だと思います。
そう、たしかに。こういう労作、力作に出会うことがあるから『王子さま』蒐集シリーズはやってよかったなと思うこと多々あったのでした。
実際、いろんな思い出がありますもんね。ずっと言ってますが、クムク語版などを手に入れたときは本当にうれしかったですし。
とはいえ、前述の通り。お金を出せば入手できるぶんというのは、これでだいぶそろってしまいました。あとは世界のどこかに存在するのがわかっているぶんのテュルク諸語版ですと、アルタイ語とトゥヴァ語の2つがあるのですが、相変わらずこの2冊はどうやって入手したものか、途方に暮れているところです。
アルタイ語の翻訳者の方には、ダメもとでFacebookで友達申請してみたら(私はこういうとき、挑戦してみるタイプの人なのです)あっけなくOKしてくださったのですがね。その後のなんやかんやで、なかなかそのお話を本人にご相談できないし、アルタイ共和国じたいがロシア連邦の中の国ということもありますから、どちらにせよ郵送も難しいご時世ということも相変わらずです。
コンプリートっていうのは、かように困難な道であることですねえ…まあしかし、アンテナは常に張り続けておかないとな、とは思っています。将来的にまたテュルク諸語のどれかで翻訳が出る可能性もありますし。
それと、ひょっとしたらそろそろ蒐集の方針も拡大してもいい頃合いなのかもしれません。たとえば、モンゴル語とかブリヤート語とか、アルタイ諸語の1グループたるモンゴル諸語蒐集にも拡張していってみるとか…
でもなぁ…中東の諸言語もそうですが、またお金かかっちゃう事案なんだよなあ…いったいどこを目指すのか、自分…という問題はありますのよね…