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ALPS水海洋排水・政府が隠したストーリー フクイチから海洋排水できなければ 政府のエネルギー政策は破綻してしまう 答えのカギは青森県・六ケ所村にあった
2023年8月24日、東京電力と日本政府は福島第一原発から「ALPS処理水」の海洋への放出を始めた。
2011年3月にメルトダウン事故を起こしたウラン燃料棒(またはウラン・プルトニウム混合)の、溶け落ちた残骸(デブリ)を冷やした水。これを「ALPS」(多核種除去装置)なる濾過デバイス(冷蔵庫に入れておく「キムコ」みたいな吸着剤の集合体)を通したものが「ALPS水」である。
これを海洋に投棄してよいのか。世論は賛否に分かれて沸騰した。処理後の水をどう呼ぶのかすら「汚染水」か「処理水」で分かれ、海洋に「投棄」するのか「放出」するのかすら二分した。
(注)私は中立的な立場を取るため「ALPS水」「海洋排水」と呼んでいる。
●世間が忘れていた原発事故なのに突如ALPS水で議論沸騰
福島第一原発事故を発生以来13年近く取材し続けている筆者にとって、これは驚きだった。福島第一原発事故そのものが、長らく世論が忘れた話題だったからだ。
私はずっと原発事故を調べて本を書き、記事を書き続けている。が発生から2〜3年を過ぎたあたりで
「出版社に断られる」
→「出しても売れない」
→「読者に読まれない」
→「売れないので出してもらえない」
という負のサイクルが当たり前になっていた。
ネット媒体にまで断られ、しかも報酬が安い(取材の旅費も出ない)ので、こうして「note」で発表している。出版社も読者も「フクシマ」や「ゲンパツジコ」には飽きたらしい。
→Amazonの私の著作リストはこちら。
それが突如として、原発事故発生初年に劣らないぐらいの大騒ぎになった。
●政府一丸「ALPS水は海に捨てても安全」キャンペーンの洪水
原発の所管官庁である経済産業省や東京電力が会見やコメントを公表するのは仕事だから当たり前として、岸田文雄・総理大臣(首相官邸)はじめ、原発とは法律の所管では関係のない外務省までが大規模な宣伝をマスコミやネット、SNS, 広告で「ALPS処理水は安全」の大規模なキャンペーンを始めた。これが私には驚きだった。
なぜ、日本政府はこれほど必死なのだろう。
それが私が一番最初に感じた違和感だった。
前出のように、日本のエネルギー供給の安定化を担当し、原子力発電を今も不可決と考える経済産業省や、事故当事者である東京電力が「ALPS水は海に流しても安全キャンペーン」に熱心なのはまだ理由が理解できる。
しかし発生から2〜3年を除いて、事故から12年5ヶ月、どちらかといえば世間は原発事故について忘れていた。福島第一原発について新しい情報を流すのは原子力規制委員会や復興庁、東電ぐらい。それも専門的で細かい情報がチョロチョロと出てくるぐらいで、世間の注目を浴びることなど久しくなかった。
それがALPS水に関しては「政府一丸となっての総力キャンペーン」に突如変身したのだ。
●「12のウソ」出版後に気づいた、もうひとつの大きな秘密
とりあえずの第一報として、私は2023年11月に「ALPS水海洋排水 12のウソ」(三和書籍)という本を出した。
![](https://assets.st-note.com/img/1705945915850-Qm1LCd7bX7.jpg?width=1200)
政府や東電の流す情報を調べていくと、ウソ、隠蔽、事実誤認、世論を誤解に誘導するミスリード、国際政治上の悪手などが多数見つかった。それを12(書いているうちにもうひとつ増えて、実は13書いてある)の章を立て、それぞれエビデンス(証拠)をつけて列挙した。
しかし実は、調査に着手できず、本にも収録できなかった疑問がひとつ残った。
それが前述の「最初の違和感」=「なぜ、日本政府はこれほどALPS水安全キャンペーンに必死なのだろう」という点だ。
メルトダウンしたデブリ(残骸)を冷却した水の処理方法は、政府・東電の楽観的なシナリオでも3〜40年かかる廃炉プロセスの、ほんの一工程にすぎない。そもそも、猛烈な高線量の放射能を放つデブリ600〜700トンの抜き取りと保管(最終処分)こそが廃炉の「本丸」なのである。
交通事故を起こした自動車の車体がぐちゃぐちゃになったので、洗った。その水が毒物を含んでいる。どう処理すればいいだろうか。
例えてみればそんな「小さな論点」であり、そもそも交通事故の原因はなんだったのかとか、スクラップになった自動車の車体そのものをどうするのかという「本筋」からすれば「枝葉」である。
それにしては、この政府一丸となったキャンペーンは大げさすぎる。どうもおかしい。
本を出したあとも、この「なぜ」という疑問は頭を去らなかった。
ウンウン唸っているうちに考え至ったのは、私の「ALPS水の海洋排水は本筋ではなく枝葉」という前提が間違っているということだ。
つまり日本政府にとっては、これは「枝葉」ではなく「本筋」だから、安全キャンペーンに必死だったのではないか。
何か、より大きな政策の根幹を左右する、死活的に重要な「試金石」がALPS水の海洋排水だったのではないか。
そう考えたほうが自然かつ合理的な說明がつく。
そこで私は時間・空間軸を広げて、より大きなビッグ・ピクチャーの中に「ALPS水海洋排水」を置いてみた。「福島第一原発事故」というピクチャーすら超えて、資料を調べ、さらに大きな絵図をあれこれ描いてみた。
すると、ある瞬間に、それまでバラバラで意味をなさなかった無数の点がするすると結ばれ、ひとつの絵を描き始めた。
自分でも「あっ」と声が漏れた瞬間だった。
私は、自分の仮説が正しいことを確かめるために、東京で調べた資料をかばんに詰めて、旅に出た。
行き先は青森県・六ケ所村である。
そこで、自分の仮説が正しかったことを確認した。政府が隠したまま、マスコミも見過ごした、もうひとつの大きなストーリーがあることがわかった。以下、それをご報告する。
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