宗教初心者と眺める持続可能な社会(2)
1.はじめに
現在、先進国は低い出生率に悩んでいる。
そんな中、いくつかの宗教や宗派では、高い数字を出している。
今回は、出生率の面で数字を残している宗教を見ていきたい。
なお、少子化の善悪については、ここでは議論しない。
2.少子化とは
少子化の定義は、内閣府経済社会総合研究所の『少子化対策と出生率に関する研究のサーベイ―結婚支援や不妊治療など社会動向の変化と実証分析を中心とした研究の動向―』に、以下のような記載がある。
人口置換水準は、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計-平成18年12月推計の解説および参考推計(条件付推計)-』に次のような記載がある。
簡単にまとめると、「亡くなる人より生まれる人が少ない状態が少子化」ということを基準を設定して定義しているわけである。
ただ、「水準をはるかに下まわり」や、「水準)を相当期間下回っている状況」など、程度や期間において、定義に曖昧さが残っている。
つまり、少子化という言葉は、文脈によって意味合いが変化してくるということであり、使う上でも読むうえでも注意が必要だ。
3.宗教勢力の人口
先の考察でも挙げたが、再度宗教勢力の人口推移について取り上げる。
これによると、大きな枠組みではイスラム教勢力が拡大すると考えられている。
ただ、キリスト教やユダヤ教でも勢力を伸ばしている宗派が存在する。
それは、キリスト教におけるアーミッシュ、ユダヤ教における超正統派だ。
これらは、調べてみるだけではよく理解できないので、現地を取材した人の動画を紹介する。
4.各宗教の生活について
4.1.イスラム教
・アフガニスタン
アメリカ合衆国中央情報局のThe World Factbookによると、2023年(推定値)の合計特殊出生率は4.53。
政治や経済情勢は、日本で例えるなら、第二次世界大戦前後の状況といえるかもしれない。
・パキスタン
アメリカ合衆国中央情報局のThe World Factbookによると、2023年(推定値)の合計特殊出生率は3.39。
日本で例えるなら、高度経済成長期に相当するかもしれない。
・バングラデシュ
アメリカ合衆国中央情報局のThe World Factbookによると、2023年(推定値)の合計特殊出生率は2.08。
パキスタンと似た状況のように思える。
また、厳格にみえるイスラム教においても、都市部で情報を多く得ることのできる大学生などは、教義から外れる行為をするようだ。
4.2.キリスト教(アーミッシュ)
多くの宗派に分かれているようだが、基本的には近代以前の生活を保持する集団のようだ。
4.3.ユダヤ教(超正統派)
この動画ではアメリカ、ニューヨークの超正統派だが、当然イスラエルにも存在する。
もちろん、そのどちらも先進国である。
5.まとめ
多くの社会は、発展に伴って多産多死、多産少死、少産少死と移り変わっていく傾向があるとされる。
動画で登場したイスラム教の3か国は、確かに出生率は高いものの、どの先進国も通ったような一般的な流れの範囲内のように思われる。
またイスラム教は、次の記事にもあるように、割と柔軟に人口調整を行っている。
以上のことから、イスラム教徒の人口拡大は、イスラム国家の発展とともに緩やかに失速する可能性が高いと推察する。
アーミッシュは、主にアメリカに信者が多い。圧倒的な先進国ではあるものの、生活様式は近代以前が基本であり、その時代の出生率に近いと考えることができる。
明らかに浮いているのは、都市部で多産社会を実現しているユダヤ教超正統派だ。
遅くとも古代ローマより人類が悩まされてきた、都市部少子化問題に対する1つの解答を提示しているといえるだろう。
アメリカは、先進国でありながら都市部と農村で極端な多産社会を実現しているコミュニティが存在していることになる。
特殊な事例ではあるものの、先進国でも少子化を阻止できる可能性は十分あるということだ。
6.結論
少子化を抑える鍵は、コミュニティの意思統一なのではないか。
特に、都市部において多産社会を実現するには、性別を問わず、コミュニティ全体で多産を強く奨励できるかというただ1点次第なのではないかと考える。
日本では、明石市のように、多産社会とまではいかないものの、ある程度合計特殊出生率の向上に成功した地域が存在する。
こうした地域では、積極的な育児支援政策を見て移住を決めた人も多いと聞く。子育てをする意思があり、育児支援政策を支持する人が、明石市などに集まったわけである。
これはつまり、緩やかではあるが、コミュニティの意思が統一された状態になったといえるのではないか。
この状態が続けば、世代が代わった後も、子育てをする意思がある人、育児支援政策を支持してくれる人が集まる可能性が高い地域ができたことを意味する。
このような地域は、日本の出生率を語るうえで、現在将来問わず重要なポジションを占める地域となるだろう。
7.感想
少子化が進み人手不足に悩む現在、子育てに割けるリソースは限られている。
であれば、こうした明石市のような地域を特区化してしまえば、限られたリソースをより効率的に投入することができ、行政も企業も市民も満足できる地域になるかもしれない。
子は親を見て育つ。子育てをする家族が多く存在する環境で育った子供たちは、その価値観を次世代につないでくれる可能性が高いのではないか。
都市は、歴史的に見ても、農村や移民によって人口を支えられてきた。
都市には仕事があるから人が集まる。都市には人が多く、意思の統一が困難なので、多くの課題が発生し、課題解決が困難となる。
ユダヤ教超正統派のような、強い意志を持った集団を形成することは非常に困難なので、都市での出生率向上を諦め、郊外や農村の出生率向上に努める方が現実的なのではないか。
自由競争を重視した経済都市エリア、技術開発を重視する学術都市エリア、子育てのためのリソースを揃えた育児向け郊外エリア、介護のためのリソースを揃えた介護向け郊外エリア、自給自足と共助によるスローライフを実現する農村エリアなど、地域ごとに役割を設定し、リソースを集中させ、意志の統一を図り、それぞれに適した異なる社会制度を用意するといったことが、少子化あるいは各種社会問題解決のための現実的な解答ではないかと考える。
8.おわりに
SDGsという理念は、問題を1か所に集めすぎているのではないか。
環境や資源だけを考慮した持続可能な社会であれば、アーミッシュのように近代以前の社会に戻せばよいわけである。
そこに飢餓、教育、ジェンダー、エネルギー、働きがい、経済成長、産業基盤、平等、街づくり、公正な組織、資金調達などといった問題を詰め込み、都市も農村も先進国も途上国もごちゃごちゃにしてしまった。
少子化に伴う人手不足は、ジェンダー平等を促し、生産性向上を促し、人口減少に伴って環境や食料、資源、エネルギー問題もわずかに解消されることになる。
それゆえに、少子化は悪ではないと主張する人も存在する。
上記のように少子化によって解決が進む問題もあるが、少子化を解決しないとSDGsで挙げられている経済成長や産業基盤、住み続けられるまちづくりなどの項目に問題が生じる可能性がある。
SDGsのように複数の問題を1か所に集める方法は、問題提起のためには有効な手段かもしれないが、問題解決の手段としては不適切だと考える。
二兎を追う者は一兎をも得ずと言うが、SDGsは17もの兎を追っている。欲張った結果何も解決できないという、典型的な失敗例になりかねない。
この問題にかかわる興味深い本がある。
今回の話題に興味を持った人、あるいは以下の2つの記事を読んで興味を持った人は、以下の記事で紹介されている本を読んでみると良いかもしれない。