スタートアップのコーポレート部門に求められるスキルとは? 成長フェーズで変化する役割を紹介
企業の成長ステージは、大きく4つのステージに分けられ、経営者は段階に応じて求められるスキルや役割に応じた適切な施策を実施することが求められます。
この記事では、スタートアップ・ベンチャー企業の成長ステージはどのようなものがあるのか、また成長することによって生じる課題といったことについて紹介します。
経営者が頭を悩ませる、コーポレートガバナンスや必要となるリスクテイクの思考についても紹介します。
ベンチャー企業の成長ステージ
スタートアップ・ベンチャー企業において、コーポレートの役割は企業の成長ステージによって異なります。ベンチャー企業の成長ステージを大まかに、以下の4つのステージに分けて紹介します。
創業期
上場前
上場後
上場以降
また、同一の業務でも成長のステージによって求められるスキルは異なります。経理の場合、創業期は「入力〜月末秋末の締めの門番」といった役割ですが、上場直前やそれ以降では「グループ会計や管理会計」といった役割へと変化します。
このように、成長ステージに合わせて、人材の成長や入れ替えを含めた検討が必要です。
創業期
一般的には、会社を立ち上げてからしばらくの期間(5年程度)が創業期にあたり、従業員の数も限られた人数(〜50人程度)しか所属していない期間です。また、この期間は売り上げや利益もあまりなく認知度も低いことが多いです。
創業期では、部署や部門ごとでのコーポレートの専門的な人材はいないことが多 いです。そのため、創業メンバーが必要に応じて場当たり的にその役割を担当することで対処運営がされます。
上場前
このステージに該当するのは従業員数が50人〜150人程度の規模で、安定した黒字営業の企業です。この頃になると事業が成長によって安定して、株式上場やM&Aなどを考え始める企業も増え始めます。
また場当たり的に行われていた専門的な業務にも、コーポレートの特定の機能に対して明確なニーズが高頻度で発生するようになります。
これにより、コーポレートの専門人材の役割分担が行われ、自ずとある程度の会社内の組織体制が確立されるようになるのです。
上場後
多くのベンチャー企業は、上場の段階でコーポレートの機能を部署や部門ごとに割り振ることで分化させたり、縦割りの組織体制を敷くといった方法で管理体制の強化を図ります。
これは上場のための証券取引所の審査をパスするために必須となるため、上場を行なった企業は自ずとこのようになるのです。
上場以降
一般的に、上場を行なった企業で、従業員数も1000人を超えるような規模の企業の場合、コーポレートの専門的な役割を持つ人材管理にも変化が現れます。
組織体制が整備されるまでは、一部の専門的な知識を持つ人材に役割を担当してもらって業務を行うといった属人的な管理となることが多いです。しかし、業務のマニュアル化やフォーマット化を行うことによって標準化するといった管理方法に移行する企業が増えます。
企業成長によって浮上する課題
スタートアップ のベンチャー企業の場合、時として企業の規模が一般的な企業よりも急激に成長することも多いです。急激な成長スピードで発展すると、一例として、以下のような課題も発生します。
社内連携コスト増
会社全体情報集約の工数増
社内連携コスト増
企業が急成長することによって発生する課題ですが、人材不足による社内連携のコストが増大します。増大する理由としては、以下の2点が挙げられます。
①ミドルマネジメント層の不足
急成長企業で発生する課題が、ミドルマネジメントを担う層が不足することです。ミドルマネジメントとは、経営陣と現場の橋渡しのような役割をする人材です。現場の業務に精通しつつも経営者の目線で進捗の把握や指示を行う立場の人材のことで、いわゆる中間管理職にあたる人材のことを指します。
主に部長や課長の役職がミドルマネジメントに当たり、部門の運営における重要な役割をこなします。ただし、経営に関する責任は負わない点が会長や社長、取締役員といったトップマネジメントとは異なります。
ミドルマネジメントは、経営陣と現場の橋渡しだけでなく、部門や部署ごとにいるミドルマネジメント同士での情報共有や連携を行います。このような、円滑に業務を行う役割も併せ持つため、企業の成長に欠かすことができない存在です。
この問題の解決策は、内部昇格による初期メンバーの活躍を期待する方法や、外部からミドルマネジメントの役割を担う人材を採用する方法です。
現在いるメンバーからミドルマネジメントを担ってくれる人材を期待することが最善の方法となります。ただしどうしても人材が足りず、ミドルマネジメントの問題が成長を阻害となるようであれば採用を検討するといった方法が良いでしょう。
②経験の不足しているマネージャーの増加
急成長企業では、ミドルマネジメントを行う層の不足が起こる傾向があります。マネジメントは慣れるまでは難しい業務なので、大手の企業であれば40代前半などある程度経験を積んでから就くことが多いです。しかし、スタートアップ・ベンチャー企業の場合はその限りではありません。そのため、マネジメント経験のない社員や若手社員にもミドルマネジメントに就く機会があります。しかし、その場合は経験不足から業務をうまく回せないなどの問題が発生します。
この問題の解決策としてはマネジメント候補の人材には、メンターとしてマネジメント経験者をつけることでノウハウを学ぶといった方法が有効な手段のひとつです。
ただしスタートアップ・ベンチャー企業では、そもそもメンターとなれるような人材自体が不足していることも多いため、社外の人材に頼る必要がある場合もあります。社外の人材に頼る場合はその分コストもかかってしまいます。
会社全体情報集約の工数増
企業の成長に伴って、社員数の増加や部署・部門数が増加します。急成長を遂げた企業では、コミュニケーションや連携が社員数の増加や部署・部門数の増加によって問題となることがあります。それは一般社員間だけでなく、経営陣と現場の間でも発生します。
人数が限られているときであれば経営者が直接現場の声を拾うことができていても、社員数の増加や部署・部門数の増加によって徐々に会社全体の情報集約が困難です。それは、経営陣が抱える業務の増大や現場の社員一人一人にかけられる時間の減少してしまうからです。
こういった問題は、連携やコミュニケーションを取るための制度や間を取り持つ人材であるミドルマネジメントを行う層がいることである程度解決することが可能です。しかし、急成長によって追いついていない場合、情報集約のための工数は増加してしまいます。
スタートアップが行うべきコーポレートガバナンス
急成長した企業では、時として目的や目標を明確にせず、コーポレート機能の強化をしなければならないといったことに囚われてしまいます。しかし機能の強化だけに注力すると、必要な専門性や採用人数などを整理せずにバックオフィスの人材を採用するといったことが起こり得るのです。企業で重要視されるコーポレートガバナンスなどの会社を守るための仕組みについては、特に苦手意識を持っている経営者も多くいます。
苦手意識から、「全体像がどのようなものか理解できていないが、不祥事を防止するために上場前にやる必要があるもの」といった曖昧な認識しか持っていないことも多いです。
そのため、コーポレートガバンンスやコーポレート機能の強化のどちらも、正しい認識を経営者が持っていない状態だと、後回しにされてしまいがちとなります。それは、「手間ではあるがやる必要があるもの」といった曖昧な認識しかできていないからです。
それでは、スタートアップ・ベンチャー企業の経営者は、コーポレートガバナンスやコーポレート機能の強化についてどのように向き合っていくと良いのでしょうか。
コーポレートガバナンスという言葉でイメージされるのは「企業で起こる不祥事防止のための仕組み」かと思います。しかし、それはコーポレートガバナンスの一つの側面でしかありません。
コーポレートガバナンスには、「中長期的な企業価値の向上」「効率的な経営」「持続的な成長」といった重要な側面もあります。これらを統合したものをコーポレートガバナンスと呼びます。
コーポレート機能の強化と同様に、コーポレートガバナンスの整備で想起されるテーマとしては以下のようなものがあります。
監査機能
社外取締役の役割
取締役の選任
取締役会の運営方法
報酬の決定や開示
グループ会社の管理
ESG対応
サクセションプラン
経営と執行の分離
資本市場との対話(IR)
このように、簡単に挙げられるものだけでもこれだけの数があるのです。スタートアップ・ベンチャー企業では、ビジネスを変革することによって社会に新しい価値を生み出します。そのためには継続的なリスクテイクが不可欠です。そういった意味で、スタートアップ・ベンチャー企業にこそコーポレートガバナンスを整備することが重要です。コーポレートガバナンスが企業に対して及ぼす影響の方法によって分類される2つの型について以下で簡単に紹介します。
組織型コーポレートガバナンス
市場型コーポレートガバナンス
組織型コーポレートガバナンス
組織を結成することで、株主が経営陣に対して監視する仕組みをとっているのが組織型コーポレートガバナンスです。
株主の利益に沿わない経営者の解任と新たな経営者の選任を、株主が株主総会にて行うことができる。
取締役などの経営者は、会社に対する忠実義務と注意義務を負う。
上記に反して会社に損害を与えた時は、会社に対する損害賠償義務を負う。また、株主が会社の代理として取締役などに対する損害賠償請求を行うこともできる。
株主の意に沿わない意思決定を頻繁に行う経営者は、株主総会にて解任される可能性があります。また、仮に会社に損害を与える結果になった場合は株主代表訴訟と呼ばれる、株主が会社の経営者に対する損害賠償請求が可能です。これらは、株主の利益保護のための経営陣に対する抑止力の機能を持ちます。
市場型コーポレートガバナンス
株式市場(証券市場)を通じて行うガバナンスが市場型コーポレートガバナンスです。
経営者の経営の仕方が悪く、業績が悪化によって利益を産まないと株主に判断された場合、株主は市場で株式を売却することによって株価の下落や低迷を発生させます。株価の低迷は、新株発行による資金調達が難しくなり、株価の下落は会社の信用の低下に繋がるため、銀行からの借入による資金調達も困難となります。
つまり、株式の売却による株価の下落や低迷は、株主の利益に反した経営を抑制するプレッシャーを経営者に対して与えることが可能です。
仮に、経営者の経営方法が改まらない場合は、M&Aが脅威としてコーポレートガバナンスでの重要な役割を果たします。
このように株式市場の仕組みを利用した経営陣に対する抑止力の行使のことを市場型コーポレートガバナンスと呼びます。
スタートアップ企業が考えるべきリスクテイク思考とは?
コーポレートガバナンスは、「中長期的な企業価値の向上」「効率的な経営」「持続的な成長」といった側面もあると紹介しました。
企業がこれらの実現を目指す上で、利益をあげて成長するためにはリスクテイクの考え方は重要なものとなります。一方で、テイクした(受け入れた)リスクの管理が適切に行われていなければ、思わぬ損失を招き、企業価値を損なう恐れもあります。企業の「持続的な成長」の実現は、経営者の責任のもと行われ、コーポレートガバナンスとリスクテイクのバランスを考えることは重要です。
それでは、コーポレートガバナンスの実現を目指す上で、スタートアップ・ベンチャー企業が考えるべきリスクテイクの仕組みはどのようなものとなるでしょうか。
以下の4つのポイントに分けてスタートアップ・ベンチャー企業が考えるべきリスクテイクの仕組みについて紹介します。
リスクの可視化
リスクテイクのモチベーション強化
財務体質強化・開示
リスクの可視化
具体的にどのようなリスクが起こり得るのか、リスクの中身がわからなければリスクの管理を行うことはできず、リスクテイクもできません。
「リスクの可視化」とは、起こり得るリスクを分析し、それによって発生する可能性や発生した場合の影響度の大きさを定量的に可視化することによって、そのリスクをテイクすることができるのかどうかを検討することが可能にするための工程です。
リスクを可視化することによって、テイクしたリスクが発生した場合も、リカバリーの方法の検討や、想定される最悪の損失を事前に認識しておくことが可能です。
リスクを可視化しておくことで、積極的なチャレンジをリスクを恐れるあまり出来なくなるといったことも減らすことができるでしょう。
リスクテイクのモチベーション強化
リスクテイクは、「ハイリスクを覚悟して危険を冒したとしても、リターンとして得られる大きい利益のために動くこと」です。
そのため、ただハイリスクを冒すのではなく、前もってどの程度のリスクがあり、失敗した場合どのような不利益が発生するのかを把握して動きます。
これによって、成功した場合に得られるリターンの大きさと比較した上で、危険への準備を万全としてリスクをテイクします。
そのため、リスクテイクをすることに大きなメリットがなければ、社員はあえてリスクテイクを行ってハイリスクな行動を選択しません。
リスクテイクを行った結果、自社の成長へ貢献した時に適正な報酬が反映されるといった、結果に対するメリットを明確に提示することによってモチベーションの強化を行いましょう。
この点の欠如が、日本企業をこの30年間低成長にとどめた大きな要因の一つでもあります。企業が持続的に成長するためには、リスクテイクによってある程度リスクを受け入れながらも利益を獲得するための行動が必要となります。社員がリスクテイクに消極的にならない体制を整えることが重要です。
また、成功した場合の報酬だけでなく、失敗した場合についても明確に提示しておくことが大切です。
いくら事前にリスクについて検討していたとしても、ハイリスクであれば必ずしも成功するとは限りません。
適正なプロセスのもと行われたリスクテイクの結果で失敗してしまった場合に、懲罰人事が行われるといったことも社員がリスクテイクに消極的になる原因となるため注意しましょう。
財務体質強化・開示
多くのスタートアップ・ベンチャー企業は、バックオフィスが十分でないことが多いです。
そのため、経理財務以外でも、人事や法務、総務といった部署でも専門の担当者が配置されていることはありません。そうなると、経理財務の担当者が他の部署の業務を兼任して行うことも多くあります。
しかし、事業の持続的な成長を考えている企業では、日々、資金ショートとの戦いが避けられません。
日々の支払いに充てられる資金がショートしてしまうと会社は倒産してしまいます。特に、スタートアップ・ベンチャー企業では、将来に大きな利益を産むための多額の投資が必須となるため、経理財務の役割は非常に重要なものとなります。
特に、上場をする企業は取締役規程や社内規程、内部監査規程の整備やガバナンス体制の構築といったコーポレートの強化は必須です。
「コーポレートの強化が必須」は、自社にどのような人材がどれだけの人数必要なのかといった、強化の中身を整理せずにコーポレートの専門人材を増やしてしまうことも多くあります。コーポレート内でもどの専門人材を増員するのか、それともゼネラリストを採用するのかといった点を整理することが大切です。
バランス感覚を持ちながらサポートしてくれるコーポレート人材の採用、支援会社を選ぶべき
自社の上場を前にしたスタートアップ・ベンチャー企業の経営者が、共通して頭を悩ませるテーマが「コーポレートガバナンス」についてです。
コーポレートガバナンスは、企業の成長には欠かすことの出来ない要素の一つです。しかし、経営者・事業者サイドの社員どちらからも苦手意識から取り組むことを面倒と思われることが多いです。また、コーポレートガバナンスに向き合いつつも利益のためにリスクテイクを行う必要もあり、そのバランスに苦慮することでしょう。
そういったバランスをうまく考慮しつつ、運営のサポートを行ってくれるコーポレート人材の採用や、支援してくれる会社のサポートを受けるといったことも検討してみてはいかがでしょうか。