ギルド

 「人間という仕事を 与えられて どれくらいだ」そんなこと考えたこともなかった。「人間」であることは当たり前だったから。

 13歳の夏に出会った。世間一般で青春と呼ばれる時期の中には、常に彼らの音楽があった。中学生から高校生までの間、BUMP OF CHICKENは、まさしく僕らのヒーローだったんだ。嘘じゃない。バンドというもののカッコよさと、歌が持つ感動と、時に世間と世界への皮肉を。

 彼らは飾らなかった。かっこつけていたように見える人もいるかもしれない。でも、それは中高生が抱えていたジレンマと憧れを体現してくれてた。僕たちが思っていたこと全部、代弁してくれたんだ。

 仲間でカラオケに行くと、みんながバンプの歌を唄った。誰かが口火を切ると、なんとなく「バンプ縛り」みたいなものが生まれて、競うようにみんなが曲を探しだす。メジャーな曲もアルバム収録の曲もカップリングも。それほど自分から誰かに伝えたかった。誰かに唄われるのがなんか嫌だった。でも、誰かが唄うその曲をみんなが全力で聴いて、口ずさんでいた。

 星の数ほどいるアーティストの中で、僕らの少しだけ前にいて、その上で寄り添ってくれているように感じる人たちは、他にいなかった。藤くんが語る音楽は切なくて、なりたい自分になれない自分とか、カッコつけて女の子にしたいこととか、失敗したこととか、全部包んでくれていたんだ。

 大きなことを言わせてもらうとだけど、バイブルだった。『FLAME VEIN』『THE LIVING DEAD』『jupiter』『ユグドラシル』。特にこの4つの物語は、僕らを慰め、励まし、勇気づけてくれた。

 中学生なんて、部活と勉強と面白くて笑えることと女の子にどうやったらモテるかくらいしか考えてない。例に漏れず、僕もそうだった。中3の8月。部活も引退して、高校受験の事をそろそろ考えないといけなくて、好きな女の子は振り向いてくれなくて、まあ一般的な中学3年生として過ごしていたわけだ。

 「バンプのアルバムが出るってよ」

 興奮して伝えてきた友達がいた(そいつは今バンドマンとして多くの人たちに元気を与えている)。当時の僕らにはそれだけで十分で、早く発売されないかなって心躍らせてた。

 そのアルバム「ユグドラシル」は、僕らにとってまさに青春の1ページになった。カラオケで唄って、登下校で聴いて、勉強しながら聴いて。家で一人になった時、フラれた時、志望校の判定が悪かった時、親と喧嘩した時、励ましてくれた。

 全部の曲を愛していたけど、その中でも「ギルド」は大きな抽象性と葛藤を持って僕に届いた。

 「人間という仕事」ってまだ若い僕は考えていなかった。「人間」として生きていることは当たり前で、今も僕らはそうやって生きている。でも、中学・高校生には重すぎるテーマだ。日々の生活は待ってくれないから。その忙しさは、大人のそれとはまた違って、感覚的に迫ってくるもの。理解できないままに色んな問題が起きて、解決できてもできなくても流れていく毎日。僕にとって、それは学校生活であり、部活であり、その中の人間関係であり、家族だった。

 「ギルド」が語るのは、僕らの生き方について。日々の生活に精一杯だった僕らに、「人間という仕事」なんて大それたことを考える機会もきっかけも余裕もなかった。つまり、バンプを知らなければ考えることもなかった。「ギルド」は間違いなくいい曲だ。でも、ただのいい曲じゃない、問題を提示された。

 こうして高校生の僕は、「生き方」について考えるようになる。普段は忘れそうになるんだけど、この曲を聴くたびに思い出すようになった。そんな確かなものじゃない。「大言壮語も吐いてやろう」。「バトルクライ」「リリィ」で唄われたみたいに、確かな意図があったわけじゃない。大きなことについては、特に具体的にイメージをすることもないまま。だけど、何となくあるってことを分かってきた。

 いつの間にか、「ギルド」は時々僕の頭の中に現れては、生きる意味とかを考えさせてくれるきっかけになっていた。

 高校を卒業して、大学生になって、社会人になった。藤くんが語っていた「仕事」に自分が関わるようになった。初めて、ちゃんと「ギルド」(職業)に向き合うようになったんだ。「ギルド」は「仕事」であり、「生き方」。僕は、教師になった。偉くもなんともない。でも、人と向き合うことを強いられる毎日だ。

 辛いな。きついな。って思うことは何回もある。でも、「生き方」だということを「ギルド」から学んだ。「人間という仕事」は、僕にとっての教師。そのことを理解した。

 世界は自分のモンだ。その姿で生きるべき。気が狂うほどまともな日常であっても、その日常を生きるのは僕らなんだから。

 ギルド。仕事。生き方。バンプオブチキン。臆病者の一撃は生きている限り、続いていくんだ。藤くん、結婚おめでとう。

 

いいなと思ったら応援しよう!