メランコリー、のようなもの #5
あっという間に土曜になり、僕は少し早めに吉祥寺駅に着いた。住んでみたい街、吉祥寺。若い恋人たちのデートの街、吉祥寺。お洒落でどことなく渋い街、吉祥寺。行ったことあるのは、アーケードにハモニカ横丁。地下のヴィレバンで時間を潰して、ウォシュマンズを冷かして、ラッシュに匂いを感じながらぶらぶらと歩く。ただそれぐらい。
西東京の大学生が行くところはだいたい決まっている。最寄り駅で飲むか、ちょっと栄えている街(八王子、立川、国分寺)で飲むか、背伸びして都心(新宿、渋谷、池袋)に出るか。ただ、その中でも吉祥寺は、ちょっと異質だった。
23区外でありながら、住みたい街ランキングで常に上位の街。駅はあるけど武蔵野市。それでも名前が独り歩きしているだけではない。謎に確固たる地位を築いている。それが吉祥寺でお寺の名前。
昼飯をどうするか気になる。いつもなら、駅から近い家系ラーメンの雄である洞くつ家に行って、キャベチャーダブルにトッピングは海苔増し、麵固め、油少なめ、味濃いめを頼む。でも、一応のデート(ダブルデート)の前にラーメンは全然違う。だから、腹を空かせたままにした。
待ち合わせの時間の15分前に駅についた。公園の方には実は行ったことがなくて、何があるのかなって思ってた。デートコースとして有名らしいけどよく知らない。何が起こるのか分からない時って不安にもなるけど、一方でわくわくもする。どうなるか読めないことは、突発的に起こる時もあれば自分が否応ながら導いてしまうこともある。そして今日は間違いなく後者だ。
喫煙所で煙草を吸った後に、改札に戻ってきてサイダーガールを聞いていたら時間ぴったりに彼女が来た。
「お、ちゃんと来てる。サークルの時と同じだ」
「いつもそうじゃん。遅れるの好きじゃない」
「はは、そうじゃなきゃこの時間に来ないよね。あと二人は来てないけど」
それはお互いの友達の問題で、しかも双方ともそれに慣れている。つまり僕にとってのあいつと、彼女にとってのあの子の関係は似てるってことだ。似た者同士ってよく言うけど、僕らはちょっと似ているのかもしれない。自分は遅れないけど、誰かが遅れるのには慣れてる。別に怒るのでもなく、でも自分は時間をちゃんと守る。そういえば彼女はサークルの時も遅れてきたことがない。気付いたらいて、誰かと楽しそうに喋ってる。そんな彼女を横目で見ながら、だらだらしているのが僕。こんな構図。
「いいよ、多分10分以内には来るから」
「あ、同じかも。いつもそうなんよねあの娘。でも悪いやつじゃないからね」
「それはわかってる。とりあえず待ってようか」