【Humankind 希望の歴史】は明るいサピエンス全史
ルトガー・ブレグマン著の「Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章」を読んだ。めちゃくちゃ爽快な読後感。人類の「明るい本性」をさまざまなエビデンスから立証していくスピード感が心地よく、文章も読みやすいため一気読みしてしまった。内容は簡単にいうと「明るいサピエンス全史」だ。
人類は優しいから生き残った
サピエンス全史でハラリは、”われわれホモサピエンスはネアンデルタール人をはじめとした他の全ての人類種を根絶やしにして生き残った。なぜ弱いホモサピエンスが打ち勝てたのかというと虚構を信じ合って大勢で団結できたから”という解釈を展開した。一方Humankindでブレグマンは”他の人類種は氷期に耐えきれずに自然淘汰された、ホモサピエンスは本質的に善良で赤の他人とも助け合える性格だったから協力して生き残れた”と推測する。「ホモサピエンスのみが、他人とも虚構で繋がれた」という解釈はどちらも同じだが、サピエンス全史はそれを戦争に活用したといい、Humankindは共存に活用したという。
ではなぜ人は戦争で殺し合うの?
旧石器時代、狩猟採集民族だったホモサピエンスの世界には戦争は存在しなかった。これは現存する狩猟採集民族の研究からも明らかになっている。日本だと縄文時代だ。人がまだ少なく、資源が豊かで奪い合う必要がなかったので、人類は協力しながら自然の恵みを共有して平和に暮らしていた。戦争がはじまったのは人類史のなかではほんの最後の一瞬で、人類はほとんどの時間を平等に過ごしており、支配されることを極端に嫌うことがDNAに刻まれている。
これまでに、400か所で発掘された約3000のホモ・サピエンスの骨格は、人間の「自然状態」を語れるほど古いものだ。これらの遺跡を調べた科学者たちは、定住や農業が始まる前に戦争が起きたという証拠を見つけていない。
全ては米が悪い
全ての元凶は米や小麦などの穀物の農業がはじまったことだ。これはサピエンス全史でも「人類史上最大の詐欺事件」と酷評されている。現代人の肥満の原因でもあるし、米悪すぎわろた。
農業がはじまったことで人類は定住して爆発的に増えた。結果、文明がはじまり、王が生まれ、国が生まれて戦争がはじまった。すべては米に狂わされただけで、争い合い奪い合うのは決して人間の本能ではなかった。
長い間、文明は災いだった。ほとんどの人にとって、都市、国家、農業、文字の出現は、繁栄をもたらさず、苦しみをもたらした。この二世紀の間──全体から見ればほんの一瞬──状況が急速に改善されたため、かつての生活がどれほどひどかったかをわたしたちは忘れたのだ。仮に文明が始まってから今日までの年月を一日に置き換えてみれば、23時45分まで、人々は実に惨めな暮らしを送っていた。文明化が良いアイデアのように見えるようになったのは、最後の15分間だけだ。
「プラグの抜けた」人が権力にハマってしまった
ほとんどの人は本質的に善良なのだが、まれに例外的な人もいて、そうした人がまず民衆を統制して王になった。狩猟採集時代にはそうした「プラグが抜けた」人は調和を乱すため村を追い出されていたのだが、国家を統べるにはむしろ君主的な性格の人の方が適していた。
独善的な経営者は「全員が社長みたいな人だったら会社は成り立たない」と揶揄されることがしばしばあるが、それは決してうだつの上がらないサラリーマンのなぐさみではなく、まさに言い得て妙だったのだ。ほとんどの人は揉めたくないからみんなで話し合って決めたいし、友人が苦しんだり悲しんだりする決断をひとりで下すことなどしたくない。しかし、冷徹なCEOならできる。そうしないと会社が発展できないからそういうことができる人がトップになるし、よりプラグが鋭く抜けている人が率いる組織が栄えてしまうシステムこそが資本主義の醍醐味なのだが、ブレグマンにしてみたら「そこから、すべてが悪い方向に進みだした」。
定住と私有財産の出現は、人類史に新しい時代をもたらした。その時代には、1パーセントの人が99パーセントの人を抑圧し、口先のうまい人間が指揮官から将軍へ、首長から王へと出世した。こうして人間の自由、平等、友愛の日々は終わった。
人類はイノベーションを起こさない
ほとんどの人は、仲良く協力し合いながらのんびり楽しく生きたいだけで、血の滲むような努力をして誰にもなしとげられないイノベーションを起こし、競合を蹴散らし、利益を独占したいなどとは思っていない。現代では「やりたいことがないやつ無価値論」が跋扈しているが、むしろ夢など持たないのがほとんどの人間の本能なのだ。
そもそも、本来人類はイノベーションなど起こさない。なにごともみんなで話し合って決めてたらiPhoneは生まれなかった。だからこそ、ずっと同じ暮らしが何十万年も持続できたのだ。
明るい気持ちになれるから読んでみて
「狩猟採集サイコー、文明を捨てて野に帰ろう」的なノリが嫌いな人からするとハイハイまたそれね、ワイは資本主義マンセーで部屋でクーラーガンガンにかけてアイス食べながら終末アニメ見るわ、勝手に文明捨てて山に篭れやと思ってしまうところだろうが、Humankindがそうした人にもそこまで嫌らしく感じられないのは、「決して狩猟採集時代が最高だとは言っていない、人類にはもちろん暗い側面もある」というスタンスを冷静に保ちつつも、徹底的にエビデンスを列挙しまくってものすごいスピードで「人類善良説」を証明していくからだ。あくまで客観的なアプローチからの導き出しなので、暑苦しくも押し付けがましくも嘘くさくもないし、ブレグマンは文明の恩恵を否定していない。
思わず「たしかにー!!」と声を上げて納得してしまうシーンが次から次へと展開すること間違いなしなのでもしあなたが人類や将来に夢も希望も持てなくなってしまっていたら、ぜひこれを読んで明るい気持ちを取り戻して欲しい。本書は「なんの能力も夢もないただの人」にこそ希望を与える。
ただし、あなたが「本来の人類側の人間」である場合に限るが。この本は、経営者には人気が出ないかもしれない。
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