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非支配持分から親子上場問題について考えてみる

1. 非支配持分って知ってますか?

非支配持分とは、いわゆる少数株主持分のことで、子会社の資本のうち親会社の持分以外の部分のことをいいます。

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上記は一連の連結の会計処理になりますが、B社株式、資本金10,000、利益剰余金5,000を80%保有しているケースを考えましょう。

(借)資本10,000 (貸)B社株式 12,000
  利益剰余金5,000  非支配株主持分 3,000


非支配持分(B社の資本金10,000+利益剰余金5,000)×非支配株主の持分比率20%=3,000、となります。

2.ソフトバンクグループの非支配持分をみてみる

では具体的な事例から見ていきましょう。

こちらソフトバンクグループの貸借対照表です。非支配持分と書かれているのが、子会社のうち親会社以外の持っている保有分であることが分かります。

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ソフトバンクの非支配持分の割合が多いのか、少ないのか?資本合計の2割ぐらいが、非支配持分です。

結構多いな、と思うわけです。他社はどうでしょうか?例えば、日本電産(IFRS適用)を見てみましょう。

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非支配持分20,287と、資本合計2,114,045に対する1%の水準です。

これと比較するとソフトバンクの非支配持分が異常に多いことがわかると思います。

3.なぜ非支配持分が発生する?

なぜ、非支配持分が発生するのでしょうか?海外の事業を行う際に海外子会社の一部を現地の協力企業が持つ、ということもありますね。

合弁で行うケースもありますが、新興国における法律では、一定程度の株式を現地企業に拠出することが少なからずあります。つまり、100%海外の資本による現地法人の設立が規制されています。

これは分かる気がしますよね?たとえば、親会社が100%出資している海外子会社が、現地で好き放題して富を母国に吸い上げてしまう・・・・などされると、これから開発を進めていこうとする新興国はたまったもんではありません。なので、その場合、海外の子会社の株式を現地のパートナー企業が持っているというケースが少なからずあります。

もう一つのケースは、「親子上場」しているケースです。親子上場とは、親会社も上場していて、さらに子会社も上場することです。

東京証券取引所の上場規定においては、65%未満であれば、親子上場をすることができます。つまり、親会社が子会社の保有株式を35%手放して、証券取引所に上場させることができます。

4.問題が多すぎる親子会社の上場

親子上場には直感的に考えてみて問題点は多いです。特に子会社の非支配持分の説明がつきにくくなります。

子会社で上場するとなるとそれなりの規模をもっています。なので、親会社の資本に含まれる非支配持分の割合は、子会社上場により大きくなります。

グループ企業の中で、非支配持分の資本の割合が大きいということは、グループ一体の経営とは程遠いことを意味しています。なぜならば、子会社は自分の株主への貢献を第一に考えて行動していかなければならないため、です。もちろんグループとしての行動=親会社の行動=子会社の行動、であれば問題はありません。

しかし、時にこうしたケースも考えられます。親会社が経営不振で、子会社の経営は絶好調、そうした場合、子会社の株主はどう思うでしょうか?親会社が、子会社の足を引っ張ってるのではないか?子会社の株主が不利益を被っているのでないか?と感じるかもしれません。

また子会社のやっている事業が親会社の事業と対立している(親子間で喰い合ってしまっている)という事態も考えられます。親会社だからといって、子会社の事業を潰してしまうことはできますが、そうすると、子会社の少数株主は不利益をこうむります。

こうしたことが問題視され、日本取引所において規則改定が進められてます。

そうした中で飛び個々んできたニュースがソニーによるソニーファイナンシャルグループの完全子会社化です。


ソニーは14日、金融事業を手がける上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングスへのTOB(株式公開買い付け)が完了したと発表した。約4000億円でソニーフィナンシャルを完全子会社化する。親子上場の解消で、ソニーは迅速な経営判断を下しやすくなる。安定収益を見込める金融を中核事業と位置づけ、外部環境の変化に対する耐性を強める。

投資家からは実は本業と直接関係なさそうなソニーファイナンシャルグループ(いわゆるソニー生命、銀行の部分)を分離せよ、という圧力は投資家からありました。このタイミングで逆に分離するのではなく、買い取ってしまうとは少々驚きました。とはいえ、これで親子上場の問題は解消されることになります。

親子会社間の株主の対立は起きない事態になりましたので、より望ましい状況になったといえます。



親子上場というレベルではなく多層的に子会社を上場しているケースとしては先ほど取り上げたソフトバンクグループがあります。

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(出所)日本取引所(https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/study-group/nlsgeu000004acah-att/nlsgeu000004hgbp.pdf

ソフトバンクのように多層的に上場しているケースは、子会社の少数株主にとっては問題あると感じる人も多いかもしれません。ただ、ソフトバンクグループの傘下であるということは承知したい上で、投資家は、子会社の株式を購入しているでしょうから、それも織り込み済みの意思決定で問題はない、との見方もできるかもしれません。

とはいえ、こうした問題もありました。実はこの問題が発端となり、親子上場の規定について整備が進められることになりました。


ヤフーがアスクルに対して、議決権を行使しして現社長を解任する、ということをしました。親会社だから子会社の社長の解任しても問題ない、と思われますが、業績不振という理由ではありません。

アクスルのメイン事業であるロハコの事業譲渡を要求することに端を発し、それを前社長が拒否したことによるものです(ヤフー側はそれを否定)。

拒否したアスクルの社長の岩田氏の再任が否決され、解任される!という事態が起きました。

仮に、ヤフー(現在のZホールディングス)が、ロハコの事業を譲渡することを要求していたのならば、その要求はアスクルの少数株主にとっては不利益以外のなにものでもありません。なぜならば、ヤフーのビジネスにとってはプラスでも、アスクルにとってはマイナスに他ならないからです。その結果、損をするのがアスクルの少数株主であるということは明らかでしょう。

アスクルは資本提携を発展して、子会社になったのですが、独立性を担保してもらえる(経営はある程度自由にしてよいよ)という申し合わせの上で経営を行っていたようでした。

四半期報告書においても資本提携とは書かれていてもZホールディングス(ヤフー)のことを親会社である、とは一言も書かれていません。

(1)Zホールディングス株式会社(2019年10月にヤフー株式会社から商号変更)との業務・資本提携契約について
当社およびZホールディングス株式会社は、2012年4月27日付けで業務・資本提携契約を締結して以降、両社は事業運営の独立性をお互いに尊重し、イコールパートナーシップの精神の下、それぞれが有する集客能力、顧客、仕入先、決済システム、インターネットサービスに係るシステムおよびデザイン技術、物流・配送設備および物流・配送のオペレーション能力、ならびに、それらに関するノウハウ、人材その他のリソースを相互に提供し合い、「お客様に最高のeコマースを提供する」という壮大な目標を実現すべく、当社が運営する「LOHACO」をeコマース史上最も早い成長速度で立ち上げてまいりました。
両社は「LOHACO」をさらに大きく成長させるとともに収益性の向上を図るために、3年間培ってきた信頼関係をベースにさらなる発展および連携の強化を図ることが最善であると判断し、2015年5月19日付けで、業務・資本提携契約を更改いたしました。

つまりイコールのパートナーである(子会社であっても対等な関係である)ということが明記されています。そのうえで、今回の事態について以下のように説明しています。

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ロハコ事業の事業譲渡は一先ずはなかったことになり、騒動の責任をとって岩田氏が解任されて新しい社長の下で行うということで落ち着いたようです。

Zホールディングス、もといい、ソフトバンク、その親会社のソフトバンクグループの行動は結果としてグループ内における多層上場の問題点をあぶりだす形になったと言えます。おそらく今後は親子上場に関する規制は厳しくなるものと予想されます(少なくとも海外ではかなり厳しい規制が行われ、少数株主保護が厳格化されています)。

以前はこうしたこともありましたね。スズキが資本提携をしているVWと対立した件です。これはVWがスズキを資本提携から子会社化しようとしたことに端を発した企業間の紛争でした。

出資比率の割合こそ違え、資本提携からこうした企業間対立というのはしばしば起こり得る、ということですね。






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