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私がただのおせっかいおばさんになった時
先日、ある土地で乗っていたバスから降りた。
立っている人がいたほどのバスから降りた後は、全員もれなく駅の改札口に向かうので、通りは同じ方向に向かう人の行列となった。
ふと前を見ると、一人の背の高い中年女性が小さめのリュックを背負って歩いているのが見えた。ブランド物のレザーのリュックは、彼女が歩くたびに揺れる。
ん?
何かが変だ。
よくよく見れば、揺れているリュックの上部が、パカーンと開いている。
少しだけではなく、リュックの半分以上が開いていて、ほぼ全開だった。
当の本人は全く気づいていない。
ここで葛藤が始まる。
声をかけるべきか、どうしようか。
しばらく見ていたが、私と彼女との距離が近くなり、ついに並んだときリュックの中身が丸見えになった。リュックの一番上には、長財布が見えた。
ああ、これはまずい。
そう思った2秒後、さらに彼女との距離を縮めると「リュックが開いていますよ」と声をかけた。どんな反応が返ってくるかは、全くわからないが財布を狙う人がいるかもしれない、と思うと、声をかけずにはいられなかった。
女性は、キョトン、とした後、「え、あ」と言って、リュックを下ろし胸に抱えると「あー、バスの中で財布を出したとき、そのままでした!あー、ありがとうございます!!」
と、大きな声で感動したように言ってくれた。
少しホッとした私は彼女を追い越しながら、「いえ、長財布が見えたので危ないなと思って」と、怪しまれないように満面の笑顔で言う、
「全然気が付かなかった。ありがとうございます!」ととても明るく言ってくれた。
言ってよかった、と思った。
別にこちらが悪いことをしているわけではないのに、赤の他人に、通りすがりに何かを教えることは、結構勇気がいる。別に私が言わなくても、他の誰かが言うかもしれないし、言ったところで不審者を見るかのような目で見られるかもしれない。
そう思うと、勇気が出ない。
ある駅の電車のホームに上がったとき、若い女性が一人立っていた。
背が高く、髪の長いその女性は、耳にはイヤホンをして、線路側を向いて、スマホの画面を見ていた。
彼女の至近距離まで来たとき、ギョッとした。
彼女の後ろを通り過ぎようとした、その数秒で私は決心した。
「あのー」と、彼女の顔の近くで声をかけると、私の声ではなく、近づいた姿に一瞬驚いたが、イヤホンをしている人に気づいてもらうためには、多少近づくしかない。
「スカートが上がっています」と、彼女の後ろ姿を私が隠すようにして言うと、一瞬意味がわからないようだったが、ハッと顔色が変わると、腰まで上がっているスカートを慌てて下ろした。
「あ、ありがとうございます!」と、おそらく普段はそんな大きな声を出さないであろうその若い女性は言った。
どのくらいそこに立っていたのかは知らないが、誰も彼女に教えていないのだ。
彼女は知らずにその下着とストッキングだけの後ろ姿を、晒していたことになる。
自分にも娘がいるから、「もし娘がこんなふうだったら」と想像した瞬間に声をかけていた。
いずれの場合も、相手が感謝をしてくれたのでよかったが、そうでなければただのおせっかいおばさんだ。
そのおせっかいを焼くかどうするか、を決めるのはなかなか難しい。
それでも、相手がきっと困るだろう、と想像するとつい声をかけてしまっている。
ハンカチを落とした人を追いかけて行ったり、忘れ物を駅の案内所まで届けたり、思い出せば「やらなくてもいいこと」をやっている。その逆に、私がバス車内にPASMOの入ったパスケースを忘れたとき、誰かが気づいてくれバス会社の遺失物コーナーにあったし、免許証を落とした時も、ちゃんと警察署に届けられていた。(結構、色々と落としていますね・・・)
やらなくてもいいけど、してあげたら親切かもしれない、ということの決断は、なかなか難しい。ほんの少しの勇気があれば、「ああ、言ってよかった、やってよかった」と思うことだが、私の場合は、9割はおせっかいを焼いている気がした。
記憶の限り、ほぼ全員が感謝をしてくれたので、言ってよかったのだろう。
「人は一人では生きていけない」
普段忘れてしまっていることを、思い出させてくれたのかもしれない、と思えた。
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