良い接客の条件
元客室乗務員という経験上、あらゆる場面で接客が気になってしまう。
先日空港で地上職員の方に質問をし、お手伝いをお願いした。
そこでは解決しなかったので、電話で問い合わせ、航空会社のオペレーターの人に聞いて、最終的にその問題は解決した。
同じ会社に勤める地上職員の方とオペレーターの方は、どちらも女性で、年齢はおそらく地上職員の方が20代後半。オペレーターの方は30代後半くらいではないか、と想像した。
職種は違うが、お客様への対応、という点では同じだ。
その二人の対応の仕方をどうしても比べてしまう自分がいた。
結論から言えば、オペレーターの人の方が遥かに気が利く人だった。
地上職員の人は、とても綺麗な人で落ち着いているのだが、残念ながら満足のいく接客ではなかった。
では、この二人は何が違ったのだろうか。
それはおそらく「共感力」の違いではないか、と思った。
どちらの仕事の人たちも、この仕事に就きたいと思って就いている。しかし、その理由がおそらく違うのではないか、と勝手な想像をした。
地上職員の人は、制服を綺麗に着こなし、スカーフの結び方にも工夫があった。この仕事にとても満足しているように見えた。そして私が問い合わせた内容について、iPadを持ってきて調べてくれたり、必要な電話番号を教えてくれた。この人はこの人なりに、お客様の役に立とうという気持ちは伝わってきた。しかし、あまりにも淡々としすぎていて、こちらが困っている様子を見せてもマイペース。急いで何かを調べたり、自社のサイトの不具合について謝罪をすることなどは一切なく、淡々と聞かれたことだけやっていく、というタイプのように見えた。
多分この仕事に就いている自分に満足しているのだろう。
一方で顔が見えないオペレーターの方は、すぐに事情を察知し、折々で「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」とか、「大変恐れ入りますが」など、こちらに共感した上での言葉が出てくる。その声には、顔が見えない分、感情がしっかりと込められていて、こちらの気持ちをしっかりと汲み取りながらも、仕事をテキパキと片付けてくれた。
オペレーターの人の方が少し年上だろう、と感じたので、年齢やキャリアの差なのかもしれないが、それ以上に資質の差を感じた。
この人は「お客様の役に立ちたい」という気持ちでこの仕事に就いたのだろう。
客室乗務員時代、滑走路に向かっている時、一人の中年男性の方から「手荷物検査場に手荷物を忘れてきてしまった」というお申し出があった。
貴重品も入っていたらしく、顔は真っ青になり、慌てているというより、絶望感でいっぱいの様子だった。半ば諦めているようにも見えた。
私は以前財布を忘れたことがある人に話を聞いたことがあり、その時客室乗務員の人が「私も財布を忘れたことがあるからお客様の気持ちはわかります。すぐに連絡して探してもらいます。状況が分かりましたら、すぐにお知らせいたします」と言われたらしく、「気持ちがわかる」と言われたことで、なんか嬉しかったし、ほっとしたよ、という話を聞いていた。
そのため、私も忘れ物をしたことがあるので、「貴重品を忘れられたお気持ちはわかります。私にも同じような経験がありますから」と言って、やるべきことを次々に行い、地上職員の方々の協力でこの方の荷物が見つかり、次便に乗せ、到着地の空港で受け取ることまでが決まった。
諦めていたお客様は、大変喜ばれ、感謝された。
仕事をする、ということは、知識と技術を使うことで完遂する。
しかし、接客というのはそれだけでは完遂しない。なぜなら、相手には感情があり、要望を叶えてもらっても、それだけではどこかモヤモヤ感が残るものだからだ。
まあ、めんどくさい客だよ言われればそれまでだし、そこまでを接客に求めない人もいるだろう。
それでも、仕事だけを完遂する人と、そのさらに上のレベルまで提供できる人は、結局「どこまで相手の立場に立てるのか」にかかっている。相手の立場に立つことができる人は、「共感力」が強く、お客様の心に残る接客ができる。
つまり、良い接客とはどこまでお客様に共感できるのかなのだろう。
今回のケースでは、地上職員の方は「仕事」をしていて、オペレーターの方は「接客」をしてくださったのだ。
私はこの同じ会社に勤務する二人があまりにも違うことに少々驚いたが、それも個人の資質の差だと思うと、納得ができる。
以前、接客について書いた記事があるので、ご興味がある方はこちらもご覧ください。
私自身は接客の仕事を離れて久しいが、教える仕事をしていても、結局は同じだと思っている。
どこまで相手の立場に立つことができるか。共感できるか。そして共感した言葉を良いタイミングで発することができるか。
共感することで、「私のことをわかってくれた」と相手が思い、信頼関係が生まれる。信頼は目に見えないが、実は誰もが求め、欲しているものなのだ。
知識と技術だけで終わるのか。
そこに、共感力をプラスできるのか。
それが良い接客か、何か足りない接客になるのか、の違いであり、接客する人自身も、仕事が面白くなるかならないか、の違いではないか、と思った出来事だった。
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