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短編小説「視点」第5章 縁


前回までのあらすじ

初めて一緒に仕事をした、梨花と鈴。
仕事終わりに行ったカフェで、梨花は鋭い観察力で、素晴らしいスタッフのサービス内容を分析する。
驚いて聞く一方だった鈴は、梨花に懐いていた理由を話し始める。

*******

鈴は、梨花のことをなぜ知っていたのかと質問され一瞬、下を向いた。
しかしすぐに顔を上げて、語り始めた。

「私が大学2年の時に、大学で開催されたエアラインセミナーに梨花さんが来られていたんです」

「え、あの女子大・・・」

「そうです。私、カタリナ女子大です」

鈴は、毎年多くの客室乗務員が誕生している女子大の名前を言った。

「確かに、一度行ったわ」

「もちろん300人以上の学生がいたので、梨花さんが覚えていないのは当然なんですけど、私の友人がセミナー参加前に倒れちゃって」

「あ、覚えてる!!そう、セミナー前に講師役の先輩が壇上に立った時、ザワザワってしたからなんだろう、と思って見ていたら、一人の女子学生が座ったまま意識を失って隣の人にもたれかかって」

「その隣の人が、私でした」

「え、そうだったの?」

「はい。その時講師役のベテランの客室乗務員の人が、さっと駆け寄って、『椅子を空けてあげて。横になりましょう。大丈夫ですか』って声をかけながら、脈をとっていました」

「そうそう、私も横でお手伝いしたわ」
「はい、梨花さんは近くの学生の上着を『これ、借りていいですか』って聞いて、その上着をくるくるっと丸めて、友人の足の下に入れ、『大丈夫?わかりますか?』って声をかけてくださいました」

「その後、彼女も意識が戻って担当の先生と医務室に行ったのよね」
「はい。脈をとっていた客室乗務員の方は、『脈は正常だけど、少し弱くなってるから』と担当の先生に言っていて、『この人たちはなんてすごいんだ』って、何もできなかった自分を恥ずかしく思ったし、客室乗務員の凄さを知りました」

「まあ、それが私たちの仕事だから。じゃあ、あれがきっかけでCAを目指したの?」
「はい、そうです」

「でも、よく私のことを覚えていたわね」
「江頭さんっていうお名前は珍しいし、先輩は背が高くて目立つから・・・」

「そうね。私は「デカい」わよね」

はははー、と二人で笑う。

「そうか。あの時の学生の一人だったんだ。それも倒れた友人の隣にいた人だったんだ」
「はい」

「あの後、お友達大丈夫だった?」
「はい。おかげさまで。朝からあまり食事をしてなくて、あの会場の人の多さと緊張で貧血だったみたいです」

「そう、よかった。で、その友人はCAになったの?」
「それが、最終試験で落ちてしまって・・・」

「そうか。でもまた既卒で受けたらいいよね」
「はい。頑張って欲しいです」

客室乗務員になるきっかけは、本当にそれぞれだ。
ほとんどは憧れからスタートするのだが、憧れを現実に変えていくのは
そんなに簡単ではない。
目の前の鈴は、資質は十分持っていたと思うが、努力もきっとたくさん重ねただろう。梨花は、話し終えてほっとし、水を口にしている鈴を見つめていた。

「でも、それだけじゃないんですよ」と、鈴は言う。

「え、まだあるの?よっぽどあなたと私って縁があるのね」
「そうなんですよー。先輩私からは、離れられませんからね。私、先輩にずっとついていくんで、面倒見てくださいね」
「まあ、なんて図々しい」

あはは。
へへへ。

何を言われても憎めない。
「実は・・・」

鈴と梨花との縁の話は、さらに続いた。

続く


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