通りすがりの女子高校生が言った一言
先日待ち合わせをしていた時、通りすがりの高校生が言った一言に、ハッとさせられた。
その女子高校生が言った一言は、
「早く大人になりたい」だった。
女子高校生は制服姿の学校帰りで、友達と2人で歩いていた。
そのうちの一人がそう言った時、もう一人の女子高校生はしばし無言だった。
あくまでも通りすがりなので、それ以降のやり取りを聞くことはできなかった。
ただ、そう言った声が切実で、きっと「早く大人になりたい」と思わせる出来事があったのだろうと、勝手に想像を膨らませた。
思えば私も小学生の頃からずっと「早く大人になりたい」と思っていた。
もっと言えば、小学校高学年くらいの頃から「私は大人なのに」と思っていた節がある。
特に母や先生に注意をされたり、怒られた時、「そんなことわかってる」とか「いや、それは違うと思う」というように、素直には受け入れられないことが多かった。
よく言えば、自立心旺盛、悪く言えば素直ではない、ということなのだろう。
一体いつから人は「大人になる」のだろう。
年齢的に言えば、18歳で選挙権が与えられたり、自動車免許を取れるようになり、20歳になるとお酒やタバコも許されるようになる。
これも、国が違えばその年齢が変わることを、高校留学をした時に知った。
アメリカでは、16歳で免許が取れ、21歳でお酒やタバコが許されるようになる。これも州によっても違いがあるようで、私が滞在していた州ではそうだった。学校の授業の一つに、「Driving class」があり、必要な講習を受け、あとは実際の道路で免許を持つ大人が助手席に座り、車を運転しながら技術を習得する。このシステムに、心底驚いた。
そのため自動車免許取得にかかるお金は、その当時で5ドル程度だけだったと記憶している。
国が違えば、何もかもが違うのだと知ったあの衝撃は今でも忘れない。完全なる価値観の崩壊だった。
さらにアメリカでは、16歳になるとお酒やタバコ以外は親はほとんど子供に何も言わなくなる。
帰宅時間も、アルバイトも子供の自由に任せる。ただし、大学進学時に親は学費の援助をしないことが多く、高校生たちは奨学金(返済の必要がないもの)を借りるために、高校時代あらゆるボランテイアや、生徒会活動、スポーツに取り組む。もちろん子供自体がローンを組み、その返済を社会人になってからも続けていくという人たちもいて、その点は日本と同じだ。
ただその学費は日本とは一桁違うほどなので、多額の学資ローンを抱えている若者は多いらしい。
日本でも同じだが、大人になるということは「自由」を手に入れる代わりに「責任」を持つことだ。子供が犯罪を犯しても、確か18歳まではその被疑者の名前は公開されず、それを過ぎれば実名報道がされる。
「自分がやったことの責任を取る」のが大人だ。
この女子高校生がそこまでわかっていたのかは、わからない。
しかし、そう言った口調には一種の「覚悟」のようなものが見えていた気がした。
つまり「私は精神的に十分大人なのだから、私の自由にさせて欲しいし、親に経済的な負担もかけずに自分で働きたい」と言っているように見えた。
いわば「自立心」をそこに見たような気がしたのだ。
自立すれば自由だ。
私も社会人になった時、そう思った。
何もかもひとりで決めて、ひとりで行動できる。旅行に行くのにも親の許可はいらない。お金をいくら貯めても良い。それを実感した時、「頑張って仕事しよう」と思ったものだ。
年齢的に大人になることと、自立する年齢は必ずしも一致しない。
本人が「自立したい」と願い、働くことで経済的に自立を得て、やがて自分で考え、自分で行動し、その結果もひっくるめて経験とした時初めて、精神的自立を手にするのだろう。
私はいつから大人になったのだろう、と、ふと遠い昔に「大人になった」と少し自分を誇らしく思った時の感動を思い出し、その女子高校生にエールを送りたくなった。
彼女の目の前にある未来を、少しだけうらやましく思いながら。