2025年の抱負(あるいは40代以降のキャリアの谷の歩き方)
明けましておめでとうございます。今年も人材育成・組織開発をやっていくうえむらです。2024年があっという間に過ぎていき2025年に突入しました。正月三が日の最終日を余韻を味わいつつ、本記事では今年の抱負を書いていきます。
人生の谷底を意識しはじめた40代
人生の谷底は48.3歳に訪れる。日経記事で書かれた幸福度に関する記事の見出しです。なかなか衝撃的なタイトルですよね。。内容については家計や子育て、介護など、プライベート面での負荷が高まる点が書かれています。仕事面でも責任が増える人、責任の大きな仕事を諦めざるを得ない人、様々な背景が重なることが要因となっていそうです。
翻って私は現在41歳。ここ数年の変化に目を向けると、子どもの成長、親の他界、自身の健康課題など、20代や30代には思いもしなかった出来事に遭遇する機会が増えてきました。記事に書かれたことは他人事には感じられません。残念ながら私にも訪れる近未来なのでしょう。
人生の谷底が来ることは避けられないとしても、谷底に突き落とされるのは避けたいものです。できれば自分の足で谷を下っていきたい。地続きであれば、そこからまた上っていくこともできるのではないか。湿っぽくなってしまいましたが、現実的な数年後の未来を思い浮かべながら抱負と向き合いました。
道しるべとしての書籍
2024年はいくつかの書籍に影響を受けたことがきっかけで転機を得た1年でした。一言で言えば、年間を通じて大きな目標を手放し、小さな行動を見つめ続けたように思います。転職のような大きな転機はありませんでしたが、小さな行動を見つめたりルーティンを変えることが、私にとって前述の「谷底」をポジティブに捉える大きな兆しとなっています。今年の抱負を語る前に、それらの書籍を紹介させてください。
人生後半の戦略書
「キャリアの下降と向き合う」という第一章から始まる本書。人生後半に訪れる変化にどう対処すればよいかを様々な視点で教えてくれます。
1971年、レイモンド・キャッテルは『Abilities: Their Structure, Growth, and Action(能力:その構造と成長と作用)』を出版し、「人には2種類の知能が備わっているものの、各知能がピークを迎える時期は異なる」と提唱しました。それが「流動性知能」と「結晶性知能」です。
流動性知能は推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決を指します。革新的なアイデアや製品を生み出す人はこの知能が豊かであるとされています。流動性知能は30代から40代に急速に低下しはじめることから、キャリアの下降という現象にも大きく影響しています。
一方で結晶性知能は過去に学んだ知識の蓄えを活用する能力です。この能力は「人が生きるなかで文化的適応と学習によって獲得した知識に相当する」とされています。結晶性知能は知識の蓄えに依存するため40代、50代、60代と年齢を経るほど向上します。この2つの能力を図示したものが以下になります。
本書では徐々に下降していく流動性知能だけに頼るのではなく、結晶性知能を必要とする経験を積むことでキャリアの落ち込みを遅らせることができると書かれています。
ではどうすれば結晶性知能を活かせるのか。それは結晶性知能を活かす仕事や習慣を持つことです。その最たる例として「教師」という職業が挙げられています。教師は大量に蓄積された情報を説明する才能が求められる職業です。教師に限らず、人に教える技術は経験を蓄積することで磨かれる部分が大きいでしょう。年を取ったら知恵を提供することで他者を豊かにすることに奉仕せよと本書は言います。
人生のレールを外れる衝動のみつけかた
「人生のレールを外れる」という言葉からはこれまでのキャリアを踏み外す、あるいは世捨て人となるかのような印象を受けます。しかし本書ではそこにレールがあるかどうかを気にせず走っていく力のことが書かれています。メリデメやコスパ・タイパとは関係なく内側から衝き動かされるような体験のことが深掘りされています。
哲学者のジョン・デューイは『経験としての芸術』という本の中で、何かに夢中になっている人は、その対象が日常の些細な出来事であったとしても、「芸術」に相当する性質の経験をしていると考えました。そのような経験を掘り下げる目を持つ人物の具体例を挙げています。
他者からの賞賛や自身の欲望の大きさ、モチベーションとは無関係に衝動は「幽霊のように憑依」する。衝動は人生を劇的に変えるだけの力を持っている。にも関わらず、自分の衝動を理解することがいかに難しいか。私たちはすでにそのことをよく知っています。
また本書では様々な角度から衝動に気づき、育てていく方法の解読を試みています。その中で特に印象的なのが「ダークホース・プロジェクト」です。これは回り道や型破りに見える独特な道を歩み成功した人々に共通する点を掘り下げる研究です。その研究結果として個人的かつこれ以上細分化できないほど個別化された欲望こそが自分を突き動かしているということが書かれています。この細分化された欲望を「偏愛」と呼び、偏愛を解釈していった先に衝動が見えてくるのではないかという論が展開されていきます。
私が本書に影響を受けた理由は、社会的地位や収入の向上といった「自分が望むかどうかに関わらず、それが叶えばとりあえず安心できたもの」が40代を境に姿を消していくことを予知したからです。そのようなものに頼らず、私が私の物語を生きるためには、私が暗黙的に持っている衝動をより深く理解する必要がある。本書を通じて人生のレールを外れていくための良質な道しるべを得ることができたように思います。
Dark Horse 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代
先般の『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』に登場した「ダークホース・プロジェクト」をテーマとした書籍。サブタイトルから受ける「好きなことが見つかったら苦労しないよ…」という第一印象を見事に裏切ってくれた一冊でもありました。
本書では目的地を定め、階段を上るかのようにその到達を目指してきた従来のキャリア・アプローチではなく「出現し続ける今」に絶えずフォーカスし、自らを没頭させることで勾配上昇を続けることが重要であると書かれています。具体的には以下のような点に意識を向けることで、自らを没頭に導くことができると言います。
大きな情熱よりも小さなモチベーションを重要視する
目的地のことは忘れて、今、充足感を抱いているか自問する
個性から出現した直接的・具体的に達成可能な目標に集中する
また、個人が持つ潜在能力を解き放つためには従来の「標準化された考え方」に縛られていることに気づくことも重要とされています。標準化された考え方とダークホース的な考え方の違いは以下のように示されています。
本書で語られている多くのことは40代以降のキャリアや人生を豊かなものにする上で役立つように思われます。目的地を目指すのではなく、変化に適応しながらキャリアを探索する点については計画的偶発性理論にも通ずる点があるかもしれません。
ダークホース的な考え方が計画的偶発性理論と異なるのは、出発点を個人の衝動に置いている点です。これ以上細分化できないほどの極小的な行動にどういうわけか没頭してしまう「偏愛」を見出し育むことが充足感を生み、やがて自らの世界を広げていく。なかなかユニークな、そして魅力的な考え方だと思います。
これらの書籍を通じて学んだことをまとめると「40代以降の新たな強みに目を向け、大きな目標を手放して小さな行動にフォーカスする」ということになります。さて、、ようやく抱負を語るところまでやって来ました。
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2025年の抱負
単刀直入に言えば、2025年は40代後半~50代にかけて迎えるであろう人生の谷底に向けて着実に前進する一年とします。もしかしたらネガティブなニュアンスに映るかもしれませんが、見るべきものを見て、そこに備えるという点で私はこの抱負をとても前向きに捉えています。
その歩みを着実に進めるべく「健康」「没頭」「繋がり」という3つの重点項目を掲げ、それぞれについて達成可能な目標を定めていきます。
①健康
兎にも角にも健康が重要だと思い至ったのは30代後半の頃でした。体調のベースラインが下がっていく。体調が崩れるとパフォーマンスが落ちる。自信も失う。健康を損ねて良いことは何もありません。健康こそ最優先事項です。
健康維持のために3年前から朝ランを始めました。一昨年は年間1000km、昨年は1200kmを走りました。もうすっかり習慣化しています。朝ランのおかげで生活習慣が朝型に変わったり、飲酒量が減ったりしており、副次的な恩恵を受けることにも繋がりました。朝ランは健康のレバレッジ・アクションであるという持論に至っています。
平日は朝6時頃に走るため冬になると日の出前になることもあります。手がかじかむので軍手は必需品。それでも朝ランを続けられているのは『ダークホース』に登場した充足感が大きく影響しています。朝走ると一日を通じて集中力が持続し、難しい判断にも自信を持って向き合えます。ベストコンディションの自分でいられることに大きな充足感を覚えています。この習慣は今年も継続したいですし、強化していく所存です。
昨年8月から始めた上半身(主に腹筋)の筋トレも継続します。デスクワーク中心で姿勢が悪くなりがちだったり、腰回りへの負担が将来的な負債となる恐れがあるためです。年末に痛めてしまった腰をリハビリしつつ、プッシュアップも加えてバランス良く鍛えていこうと思います。
また昨年は未達だった項目に「定期歯科検診」があります。朝ランと筋トレでは歯の健康は維持できません。歯は一生もの。今後もなるべく長く食を楽しみたいという思いもあります。予約の面倒さと多忙時の心理的ハードルさえ乗り越えれば必ず達成できるため、今年は年4回必ず行くようにします。
🐍 健康目標まとめ 🐍
朝ラン 年間1300km走破+年間200日
上半身の筋力トレーニング継続(腹筋・背筋・腕立て)
3ヵ月おきに定期歯科検診に行く
②没頭
『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』に登場した偏愛、あるいは没頭体験については今年も追い求めていきます。没頭は谷底に向けて歩む中で灯火のような心強い味方です。実は2024年の抱負でも同様の宣言をしていました。
昨年「没頭」と意識的に向き合ってきたことで、自分が何をしているときに没頭しやすいか、徐々に分かってきました。キーポイントは「読む」「書く」「聴く」の3つの核となる行動です。
読む --- 本や記事などの文章を読む
書く --- 記事や企画を文章に書き起こす
聴く --- 1対1で相手の話を深く聴く
読む、書くについては普段からnoteやTwitterで発信しているので割愛しますが、聴くについては昨年から副業でYeLLという1on1サービスのサポーターをはじめたことが影響しています。スキル・ビリーフ・コンディションという3つの要素を磨き、相手の肯定的意図に注意を向けて、聴く。しっかり聴けているときは、自分の没頭スイッチがONになっていることに気づきました。今年も継続していきたいですし、チャンスがあればYeLLの他にも聴く場を増やしていきたいところです。
自分が没頭するだけでなく、他者の没頭についても支援していきたいと思っています。今年は最も身近な他者のひとりである小4娘の没頭を支援する試みにチャレンジします。昨年一緒に取り組んだ水泳練習で娘は驚くほどの速さで25mプールを泳げるようになりました。今思えば娘は練習に没頭していたのだと思います。
娘が昨年末あたりから「ギターを弾けるようになりたい」と言っているため、表向きはギターの練習に付き合い、裏目的として娘の没頭を引き出す働きかけを試行錯誤していければと思います。『人生後半の戦略書』に書かれている通り、教えることを通じて結晶性知能を活用することができるのではないかと期待しています。
🐍 没頭目標まとめ 🐍
読書 --- 年間70冊読了
記事執筆 --- 年間20記事公開(目安:合計10万字)
YeLLサポーター継続+α(1対1で聴く機会を増やす)
ギター練習を通じて小4娘の没頭を引き出す支援を継続する
③繋がり
2024年は「社外の繋がりを増やす」というテーマを掲げて活動した1年でした。その象徴となったのが人事図書館との出会いです。リアルの場は月1~2回の参加頻度でしたが、参加回数を超えて多くの人事パーソンと繋がりを育めたように思います。12月にはラーニングバーへの登壇機会を頂きました。私自身のこれまでの取り組みを内省するきっかけにもなりました。
人事図書館の他にもnoteやTwitterをきっかけに直接声をかけてくれた方とオンラインで1on1をしたりスペースでトークする機会を頂くなど、一昨年と比較して着実に社外の繋がりを増やすことができました。
2025年は昨年までのアクションに加えて世代別の繋がりを増やしていきたいと考えています。「世代」の括りはあまり厳密に捉えてはいませんが、主に20代 / 30~40代 / 50~60代の3世代を意識していくつもりです。世代別に捉えることで、自分が各世代の方々にどのような貢献ができるかを見極めたいと考えています。
また今年もうひとつ大事にしたいことがあります。英語との繋がりです。正直に言うと私は英語を避けてきました。しかし繋がりを育てる、あるいはインプットを豊かにする上で英語が使える方が良いことは明白です。最終的には英語話者の方と繋がることを意識しつつ、今年は英語力を高めることや英語の書籍を読むことに挑戦していきます。
🐍 繋がり目標まとめ 🐍
発信を通じた繋がりを育てる(継続)
社外での登壇機会を増やす(年4回目標)
世代別の繋がりを意図的に増やす(各世代5人ずつと繋がりを持つ)
英語力を高める(TOEIC ???点 ⇒ 700点、英語文献3冊読了)
おまけ: 2025年に辞めること
ここまでは2025年に「行動すること」を中心に抱負を掲げてきましたが、直近で聴いたMIMIGURI安斎さんのVoicyでなるほどーと思ったことがありました。この放送では「ずっとやっていた魅惑的なルーティンを辞めてみる」という点が挙げられています。メリットや快楽を伴うルーティンには依存が働きやすい。これをあえて断つことで暗黙的な思考や行動の枠組みから外れ、自分の才能仮説をアップデートすることにも繋がるというお話でした。
私もこのお題について考えてみたところ、非常に些細な、しかし割とクリティカルになっていそうな点に思い至りました。それは通知欄を見るためにSNSを開くのをやめるということ。
「自分が得意とするポジティブなルーティン」というお題からずれていますし、そんなことをやっていたのかと思われる恥ずかしさもあるのですが、、一日の中で無意識に何度も見ていることや、意識しないとやめるのが難しそうだなと思ったので、敢えて掲げてみようかなと。
ありがたいことにSNSのフォロワーが少しずつ増えてきた結果、以前よりも通知欄が賑わいを見せるようになりました。当初は新鮮な気持ちでそれを眺めていました。しかしいつしか通知欄を見ることが自分にとって魅惑的なルーティンになっていきました。より多くの通知を期待するようになったり、いつもより多くのいいねがついた投稿を何度も眺めてしまったり。
通知に意識を持っていかれることの副作用は他にもあります。それは発信内容を考える際の思考にも影響を及ぼす点です。より多くの通知を得るためには自身の発信内容もそこに引っ張られていくことになります。発信したい内容よりも、どうすればより多くの人の目を引くことができるかを考えてしまう。それでは本末転倒です。
私がSNSに期待しているのは自身の学びを通じた繋がりを育むことや、自分にとって望ましい行動継続の強化といった点です。これらの点を見つめ続けるためにも、通知欄を見るためにSNSを開くというルーティンを強い気持ちで断っていこうと思います。南無三🙏
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おわりに: 抱負に対する憂鬱とどう向き合うか
実は、数年前までは抱負を考えることを億劫で憂鬱なものと思っていました。年初に頑張って立てた抱負を仕事に追われているうちにいつの間にか忘れてしまったり、およそ達成不可能な高い目標を立てて後から頭を抱えたり、周りがやってるからという義務感に駆り立てられたり。抱負と向き合うのは正直あまり楽しい体験ではありませんでした。
今思えば抱負との向き合い方が下手だったのだなと分かりますが、当時はそこに気づいていませんでした。とはいえ面倒さが完全に消えることはありません。私と同じように憂鬱さを感じる方もいるのではないでしょうか。
そうした方におすすめしたいのは大きな目標を手放し、自分にとって重要な小さな行動に着目することです。そうすることで抱負と向き合う義務感から解放され、大切にすべきことを確実に前進することができます。小さな行動であれば、仮に忙しい日々のなかで忘れてしまっても、思い出した日から再開することができます。SNS上でよく見かける「50個のやりたいことリスト」といった手法でマイクロな行動を見つけるのも良いかもしれません。
行動したことを小さく発信することもおすすめです。ログが残るので振り返りやすくなりますし、発信へのリアクションが次の行動を励ましてくれる効果もあります。また小さな発信の積み重ねを年末に整理して再発信することが大きな学びに繋がることもあるかもしれません。私は昨年末に読んだ本を分野別にまとめてツイートしていたのですが、そのうちの一つの投稿に多くのブックマークが集まり驚きました。
1年の抱負を「やるべきもの」「やらねばならぬもの」から「自分にとって重要な道しるべ」に変えられると人生はより面白くなりそうです。私もまだまだ道半ばですが、1年の抱負づくりを楽しめるよう、この先も向き合い続けていきます。
それでは、本年もどうぞよろしくお願いいたします🎍
うえむら(@Uemura_HR)