唯一予約できたパリのブルジョア産院
フランスでは、昨日が母の日でした。私が母親になって、2年半。もう2年以上前のことになりますが、パリで出産をしました。そのときの経験を織り交ぜつつ、フランスの出産事情をお話をしたいと思います。
フランスでは出産は、公立の総合病院か、私立の産院という、ふたつの選択肢があります。公立の総合病院であれば、ほぼ無料、私立の産院であっても、産院にもよりますが自己負担額はそれほどかかりません。この2つの大きな違いは、緊急時の対応可能レベルです。フランスで産科は、緊急対応レベル1、2、3と3段階に分けられています。
レベル1は、通常分娩の受け入れ可能。
レベル2は、新生児集中治療があり、33週以降の未熟児の受け入れが可能。
レベル3は、新生児集中治療があり、33週未満の受け入れ可能、疾患がある妊婦の受け入れ可能。
(magic mamanより引用)
公立の総合病院の多くは、医療レベルが一番高い3。産院は、レベル1が多く、時々2があるぐらいです。私の周りのフランス人は、第一子は公立の総合病院で、第二子以降は私立の産院で出産するというケースが多いのです。まず、初めてのお産は不安なので、医療レベルが高いところで、と思うようです。
ですが、総合病院での出産は、あまりいい思いをしない人も。病床数が多く、同日に出産が重なった場合などは、分娩室が渋滞してしまいます。私の友達は、数年前に第一子を満月の日に出産したのですが「もう工場みたいだったわよ!」と、今でも昨日のことのように憤慨しています。彼女に限らず、似たような経験をした人の多いこと。そして、第二子では、病床数の少ない産院で静かに産もうと思うようです。私は、この話を聞いていましたが、やはり不安だったので、総合病院で産みたいと考えていました。
フランスでは、出産予約に、かかりつけの婦人科医の妊娠証明書が必要です。通常、妊娠5、6週あたりから発行されます。私の場合は、階段から落ちて大出血したりしていたので、その分、かかりつけの先生が慎重になり、なかなか証明書をもらえずにいました。結局もらえたのは、妊娠10週目。それからの出産予約になりました。
妊娠証明書をもらったら、すぐに産院に申し込まないといけません。でも妊娠証明書の発行が遅れた分、時既に遅し、周辺の公立の総合病院はどこも予約がいっぱい。3件まわって、全部断られてしまいました。申込みは電話でもできたのですが、病院の雰囲気も知りたかったので、自分で全部見に行きました。フランスでは、電話で断られても、直接行ったら大丈夫だった、ということが多いのですが、このときばかりはダメでした。子どもを産む場所をみつけることが、こんなにも難しいとは…。
そこから、フィガロ紙の産院ランキングを穴があくほどみました。出産の満足度、無痛分娩率、帝王切開率などを、総合的にまとめたフランス全土の産院ランキングが年に1度、発表されているのです。公立病院はもう無理だと諦め、私立の産院に絞り、ランキングの上位から順に、分娩費用を調べ、口コミサイトを読み漁りました。パリの産院御三家ってどこかしら?という好奇心も。
一番の超セレブ産院は、アメリカンホスピタル。通訳が付き添ってくれるサービスがあり、駐在員の奥様や、外国人セレブなどが出産しています。保険適用外の先生も多いため、出産費用は日本円でだいたい100万円ぐらい。入院費なども諸々計算すると、200万円ほどかかりそうでした。ハリウッドスターも出産する場所のわりには、そこまで法外に高いという気もしませんが、タダの公立病院と比べると結構な差です。
次は、パリ高級住宅街16区のラミュエット産院。ここは、フランス人の友達でお金持ちのお嬢様が出産予約をしたのですが、受付の対応がお高く止まっていたとご立腹。入院費用が松竹梅と段階があり、ヒエラルキーを見せつけられます。一番高いお部屋で、一日あたり10万円ほどで、花束、フルーツバスケット、出産祝い付き。お育ちの良いパリジェンヌで、こちらの病院生まれという方、何人かいました。あと、インスタに上がっている、フランス人セレブの出産写真をみると、ここの産院多いですね。
結局、私が分娩予約ができて、出産したのは、パリ15区のサンフェリシテ産院でした。他の産院よりも予約の受付開始が遅かったので、チャンスがあったのです。実は、こちらで予約した後しばらくして、前述の公立の総合病院のひとつから、空きがでたと連絡をもらったのです。空きが出たということは、予約していた人が流産したわけで、それを考えると我が身のように悲しくなりました。こちらの産院の、妊娠が安定するまでは予約を受け付けないという姿勢にも共感しました。
カトリック系で聖堂もあり厳かな雰囲気、どの先生もとても感じが良かったです。その割に、費用の大半が保険でカバーされ、実費は20万程度で済みました。カトリック系のせいで、あまり商売っ気がないのでしょうか。生粋のパリジェンヌな友達に、ここに決めたと話したら、「あのブルジョワ産院!カトリックのシスターに囲まれて出産したいとか、フランスっぽさ狙ってるわね!」と爆笑されました。はい、そうです。選択肢に迷ったときは、よりフランスっぽいものを選ぶようにしておりますので。実は名だたる名家の方々が、こちらで出産していることを後から知り、ミーハーな私は嬉しくてたまりませんでした!
パリに住む日本人で出産される方は、だいたいこの3つのどこかという場合が多いようなので、勝手ながら、パリの産院御三家とさせていただきます。日本人は良いものを見つける嗅覚が鋭いので、フランス人の中でも人気の産院だといえると思います。
フランスらしい出産といえば、無痛分娩。フランス全土の統計をみると、82%の経膣分娩の人が硬膜外麻酔を受けています。(Le Monde)パリだけみれば、9割超えている印象があります。
最近では、ナチュラルなお産を望む自然派の人達が、麻酔なしでの出産を希望するということも。母親教室で、ひとりだけ自然分娩を希望している人がいて、勇敢である!と拍手が巻き起こっていました。日本では自然分娩が主流であるということは、フランスでも広く知られていて、控えめな日本人女性の内なる強さとして語られることも。
ネットの口コミをみていると、産院によっては自然分娩の対応に得意不得意あるようで、日本の無痛分娩と逆転した現象が起きています。自然分娩の方が特殊な出産というイメージすらあり、自然分娩をウリにしている施設では、陣痛がきている間につかる浴槽があったり、つかまるための紐が天井からぶら下がったりしています。
私は無痛分娩で出産しました。実は私自身、アメリカで無痛分娩で生まれました。でも母曰く「全然無痛じゃなかった」と。無痛分娩でも痛いものかと覚悟して望みましたが、さすがに30年以上前の無痛分娩創成期に比べ、格段に進化しています。全く痛みなく出産を終えることができました。出産前に麻酔科医にバースプランを伝える面談があったのですが、そこで「あなたは日本人だけど無痛分娩への抵抗はないか」と聞かれました。自分も無痛分娩で生まれたという話をしたところ、日本人でその時代に無痛分娩!と、非常に驚かれました。
日本では、お腹を痛めて産む美学があったり、無痛分娩の事故が取り上げられたりで、無痛分娩に対して、あまり良いイメージがないかもしれません。
フランスでは、痛みをコントロールできるから安全という考え方でした。出産自体も淡々と、コントロールされている印象を受けました。2時間おきに助産師さんがきて、麻酔を足していくのですが、その都度、子宮口の開きを確認し、また去っていきます。基本、夫と2人、静かにおしゃべりしていました。陣痛がきたかどうかはモニターの波形で確認して、あぁ、今きてるのか、と思うぐらい。無痛分娩って、お産が静かなんですよね。そういえば産院も静かでした。
私の場合は、陣痛・分娩・回復が同じ部屋で行えるLDR室だったのですが、部屋に入ってから6時間での出産でした。2時間おきの確認の、2回目に助産師さんがきたとき、お産の進みが遅いということで「ちょっと、つつきますねー」と人工破水、その次の3回目の確認で先生を呼んで出産になりました。麻酔の度合いを選べたのですが、母の話を聞いていたので、絶対痛くないレベルでお願いしました。そのせいか、いきむ力はなく…。1回いきんだ様子から、自力では産めなさそうとサッサと判断されたようで、2回目のいきみで吸引、3回目のいきみで鉗子を使って生まれました。フランス人、判断早い。
すごい力仕事だったので、若い男の先生で良かったなと思いました。実は、私の担当の先生、ご高齢の女性の先生だったのですが、私のお産の前に別の人の出産に立ち会っていたときに転倒。足を負傷し、急遽違う先生になったのでした。もちろん、新しい先生の名前は、すぐにスマホで検索検索。私の担当の先生よりも更に、とっても評価の良い先生だったので、安心したのでありました。もしあの、おばあちゃん先生だったら、私の出産どうなっていたのか…。これもまた神の思し召し。
そして、「お腹キレイにしますよ〜」と。後産も先生が手で掻き出すのです!事前に説明は受けていたし、麻酔が効いているので痛みは全然ないのですが、それでも軽くショック。痛みのコントロールとは、いざというときに、既に麻酔が効いている状態なので、医師が早く処置できるということなのでしょうね。帝王切開に切り替わる場合とか。あと、無痛分娩は産後の母体の回復が早いともいわれています。
日本では鉗子とか吸引とかに抵抗があるのかもしれないし、いまだに賛否あるようですが、私は無痛分娩オススメします。無痛分娩で生まれた私も娘も健康に育っています。これから機会のある方、いかがでしょうか?
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