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柿の種(寺田寅彦)【書評#176】

寺田寅彦が俳句雑誌『渋柿』などに掲載した短文を集めた本。寺田が日々過ごしている中で、ふと考えたことや疑問に思ったことがそのまま書きつなれられている。それぞれが独立して書かれているので、著者自身がいうように「なるべく心の忙しくない、ゆっくりとした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読」めるようになっている。

生来の盲人は眼の用を知らない。
始めから眼がないのだから。
眼明きは眼の用を知らない。
生まれた時から眼をもっているのだから。(大正十年三月、渋柿)

p.26

眼は、いつでも思った時にすぐ閉じることができるようにできている。
しかし、耳のほうは、自分では自分を閉じることができないようにできている。
なぜだろう。   (大正十年三月、渋柿)

p.28

 古典的物理学の自然観はすべての現象を広義における物質とその運動との二つの観念によって表現するものである。
 しかし、物質をはなれて運動はなく、運動を離れて物質は存在しないのである。
 自分の近ごろ学んだ芭蕉のいわゆる「不易流行」の説には、おのずからこれに相通ずるものがある。 (昭和二年五月、渋柿)

p.90


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