変質する世界(Voice編集部)【書評#121】
雑誌Voiceに投稿された新型コロナ関連の記事をまとめた本。2年前の情勢が記録されていてとても懐かしかった。
アジャイルな仕組みが国を救う(安宅和人)
町の設計に関するプロジェクト「風の谷を創る」のメンバーでもある安宅さんは都市計画の観点から感染対策に述べている。その点が他の論者と差別化されていて面白かった。
また、新型コロナの特徴もうまくまとめられている。
―新型コロナ禍が過去の感染症による危機と比べて特徴的な点は何でしょうか。安宅 大きく四つ挙げられると思います。まずは、新型コロナが襲来したタイミング。(...)生命の多くは助けられるようになりかつてより重い。それは半面、「助けられる命を助けなかった」ならば、殺人に等しいほど問題視されうることを意味します。(...) 二つ目は「ステルス感染」といわれるもので、潜伏期間中に無症状のまま周囲にウイルスをまき散らしうる点です。(...) 三つ目が、今回のウイルスは、肺を集中して攻撃してこれまでにないスピードで破壊すること。(...) 四つ目は、世界がグローバルにつながっていながら、人の流れが止まり、飲食・小売・交通・リゾートに代表されるオフライン側の経済の多くが止まってしまったことです。 p.19-20
日本はすでに「絶滅」状態(養老孟司)
一応、新型コロナの言及もあるが、内容自体は他の本と変わらない。養老先生にとって、あくまで新型コロナウイルスの問題は数ある問題の一つという見方のようだ。
アメリカの歪みが露呈した(ダロン・アセモグル)
国ごとに新型コロナの対策が異なっているがそれぞれの結果が簡単にまとめられている。アメリカなどの資本主義国家より独裁国家の中国の方がうまく新型コロナを封じ込められているところに資本主義の限界を感じる。
人類の団結はSFだけの世界?(劉慈欣)
この新型コロナの問題で、世界が一丸となって取り組むことの難しさが浮き彫りになった。
SF作家は、人類が巨大な災難に直面する物語をよく描きます。人類が団結して立ち向かうパターンもあれば、分裂してしまうパターンもありえます。団結してこそ災難を克服できると信じますが、現実を見る限りそうなる可能性は高くないようです。 今回の疫病は、経済への打撃もさることながら、政治的な影響が大きいと思います。中国と西側諸国との間の矛盾や衝突は冷戦後では最悪です。政府間だけでなく、大衆レベルでも無理解、敵意が深刻になっています。さらに、各国の内部でも分断が深刻化しています。歴史的に見ても人類が団結したことはなく、異なる陣営に分かれてきました。冷静に見れば、それが人間社会の本質なのかもしれません。 (...)現実を直視し、各国が団結できるという楽観論は捨て、国家間や文明間の対立を極力避けながら災難に立ち向かえる新たな政治・経済のメカニズムを構築しなければならないと思います。 p.105-106
(今後、)疫病の重大さが認識され、生物学や医学分野への投資が増し、技術革新が進むのは間違いないと思います。ワクチンを数年以内ではなく1ヶ月以内に開発できるような技術が何としても必要です。また、世界で監視社会化が進むでしょう。プライバシーの保護と公共安全の確保は両立せず、両者のバランスを取って進むしかないと思います。あらゆる災難は社会統制の強化を促します。疫病が続けば、米国も強権国家に変質するかもしれません。また、未来の社会では人類の交流はますますネットを通じて行われ、新たな社会関係が構築されると思います。これは人類の文化に巨大な影響を及ぼすでしょう。 p.108-109
コロナ後のグローバル化を見据えよ(戸堂康之)
論者のグローバル化の予想は的確で実際にそうなりそうだ。
コロナ後には、次の三つの理由からグローバルの衰退、とくに米中経済の分断がさらに進行する可能性が高い。 第一に、グローバル化の進行がパンデミックを引き起こしたことや、コロナの影響によって世界各国で生産が縮小し、海外からの部品の調達に支障が出ていることから、グローバル化の経済的なリスクが再認識されている。(...) 第二に、欧米では発生源の中国に対する不快感が強い。(...) すでにコロナ前に悪化していた日米欧での対中感情が、コロナを機にさらに悪化することは想像に難くない。(...) 第三に、安全保障上の問題もある。(...)今後ITだけではなく、さまざまな産業分野で安全保障面から中国依存の見直しが進むだろう。 p.141-143
コロナの被害に怯えてグローバル化を縮小させるのではなく、むしろグローバル化を拡大していくことが、コロナによる経済縮小からⅤ字回復し、次の経済ショックに対応するために必要なのだ。 p.145
自由と幸福の相克を乗り越えられるか(大屋雄裕)
わが国におけるいくつかの問題点を指摘することができる。第一にそれは、専門性を担当するセクターの不在と呼ぶべきだろう。(...) 第二に、専門的決定を民意から遮断するための機構が十分に整備されていないこと。 第三に、危機を平時から切り離し、例外として例外の地位に押し込めるための法制度が十分に整備されていないこと。 p.162
「自粛の氾濫」は社会に何を残すか(苅谷剛彦)
「自粛」はそもそも自分で主体であり、国家からお願いされるものではない。しかし、実際、コロナ対策としてはこの「自粛」はある程度の効果があると見える。特に誰に強制されるわけでもなく、空気で従ってしまうところは戦前とまったく変わっていない。
経済活動は「1/100作戦」で守れる(宮沢孝幸)
ウイルスの専門家の記事で新型コロナの当時の研究がどこまで進んでいるかが分かった。