この国を守る決意(安倍晋三/岡崎久彦)【書評#122】

 安倍元首相が何を目的として政治家活動を行ってきたかを理解しようと読んみた。この本が出版された2004年はイラク戦争が始まったばかりで、大量破壊兵器がまだどこかに隠されていると考えられていた。安倍さん、岡崎さんは当時イラク戦争に日本が協力することに賛成だったが、大量破壊兵器はなかったという結論になった現在、両者がどのような考えを持っているのか気になる。

岡崎 先の大戦までは日本は世界の趨勢を変える実力や国際的な発言権がありましたが、大戦に負けて以来、日本が何をどう発言したからといって、世界はほとんど変わりません。 むしろ日本のすべきことは、今後、国際情勢がどう動くかということを冷静、客観的に判断して、その方向を見極めて、そのなかで日本国民の利益を最大限に守るということでしょう。変化の意味するところを直視しないで、変化が良いか悪いかだけ言っていると、その分だけ将来を正確に見通す目が曇ります。 p.30-31

 安倍さんの日米同盟、集団的自衛権の考えが以下の文章にまとめられている。

安倍 われわれには新たな責任というものがあるわけです。新たな責任というのは、この日米安保条約を堂々たる双務性にしていくということです。この責任を果たすために。われわれも祖父たちの世代がそうであったように、たじろがずに堂々とその責任を果たすべきである、とわたしは考えています。 (...)日米安保をより持続可能なものとし、双務性を高めるということは、具体的には集団的自衛権の行使だと思いますね。この問題から目をそむけていて、ただ、アメリカに文句を言っていても物事は前進しませんし、われわれの安全保障にとっても有益ではないと思います。 p.63

岡崎 (...)まず集団的自衛権があることは間違いないんですよ。日本が憲法を施行した後に、国連憲章を批准し、日米安保条約を批准しました。そのすべてに「日本は集団的及び個別的自衛権を有する」と書いてあるのです。憲法には条約遵守義務もちゃんと書いてあるから憲法上集団的自衛権があるのです。 ところが国会の答弁で、「わが国には集団的自衛権はあるけれども、行使することはできない」ということになっているのです。そんな解釈は裁判所が決めたわけでもないし、憲法に書いてあるわけでもありません。単に、役人が言っただけですから、総務大臣が「権利があるから行使できる」と国会で答弁すればいいのです。 p.74-75

 実際、第2次安倍政権では集団的自衛権の行使は憲法違反にならないと閣議決定された。

岡崎 理論的な整合性は全くないのですが、感情的に左翼に味方をする、あるいは保守の働きに生理的な拒否反応を示す日本人は多いのです。日教組教育で教え込まれてきた条件反射ですね。理論的ならば、理論で説得できるのですが、そうではないだけに、厄介な抵抗といえます。 p.108

 私の政治思想は左翼に近い。実際、上の文章のように保守的な政策は基本賛同できないことが多い。おそらく今までの読書経験からだろう。左翼の考えを一概に感情的なもので、非論理的なものと言われるのはいい気がしない。しかし、論理的に反論できる自信もない。今まで日米同盟は強化すべきでなく、集団的自衛権を行使することも反対だった。だが、この本を読むと一概にそうとも言い切れなくなった。

 中国との関わり方にも議論が及んでいる。

日中記者交換協定一九六四(昭和三十九)年、親中派の自民党代議士が訪中して、中国共産党との間に結んだ協定。(...)この協定によって、事実上、日本の主要紙では、中国共産党のチベットなど周辺諸民族に対する侵略行為や圧政、中国共産党の腐敗・汚職、中国軍の軍拡や日本に対する領海侵犯行為、中国共産党の人権軽視、反日政策などを批判することはできなくなった。 p.169

このような協定があったことを初めて知った。現在では失効されているが、一つの国が他国に向かってここまで強く打って出られたのが驚きだ。

岡崎 中国の経済成長が止まったり分裂したりすることは、中国にとってはもちろん問題です、日本の安全保障にとっての問題ではない、それはそうなったときに考えればいい。 日本としては、日本の安全保障にとっては、中国の経済力と軍事力がいまのままどんどん増強されていくという懸念に対処すべきなのです。中国の軍拡によって東アジアのバランスが崩れた場合、大きな視点から言えば、これに対処する策は日米同盟強化しかありません。 (...) 東アジアの安定は、日米同盟対中国という図式で軍事バランスを考えれば達成できます。その日米同盟が遺憾なく機能するためには、集団的自衛権の行使が必要です。日米同盟対中国というバランスで東アジアの安定を考えていけば、これは今後、半世紀ぐらいは大丈夫でしょう。 p.176

 最後に憲法改正についても述べている。

安倍 憲法を不磨の大典のごとく祀りあげて指一本触れてはいけない、というのは一種のマインドコントロールだと思います。 私は、三つの理由で憲法を改正すべきと考えています。まず現行憲法は、GHQが短期間で書きあげ、それを日本に押し付けたものであること、次に昭和から平成へ、二十世紀から二十一世紀へと時は移り、九条等、現実にそぐわない条文もあります。そして第三には、新しい時代にふさわしい新しい憲法を私たちの手で作ろうというクリエイティブな精神によってこそ、われわれは未来を切り拓いていくことができると思うからです。 もちろん政治家として、私には憲法の遵守義務があります。ただ憲法を遵守することと、憲法の内容を論じることは次元の違うことであり、決して矛盾することではないと思います。 p.217

 最後まで読んで、安倍さんは左翼、特に朝日新聞と日教組が大嫌いだということがひしひしと伝わってきた。


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