【武士道(新渡戸稲造著/矢内原忠雄訳)】うえこーの書評#63
新渡戸稲造が外国で日本の道徳教育について聞かれたことがきっかけで書かれた本.武士という職業がなくなった現在においてさえ,その心構えは日本で大きな影響を与え続けている.
武士道は仏教と神道からの影響を大きく受けている.
まず仏教から始めよう.運命に任すという平静なる感覚,不可避に対する静かなる服従,危険災禍に直面してのストイック的なる沈着,生を賤しみ死を親しむ心,仏教は武士道に対してこれらを寄与した.
(...)仏教の与え得ざりしものを,神道が豊かに供給した.神道の教義によりて刻みこまれたる主君に対する忠誠,祖先に対する尊敬,ならびに親に対する孝行は,他のいかなる宗教によっても教えられなかったほどのものであった.これによって武士の傲慢なる性格に服従性が賦与せられた.(p.33)
武士道には様々な心構えがあるがその中に「義」がある.
我々の行為,たとえば親に対する行為において,唯一の動機は愛であるべきであるが,それの欠けたる場合,孝を命ずるためには何か他の権威がなければならぬ.そこで人々はこの権威を義理において構成したのである.(p.41)
義理は道徳において愛に次ぐ「第二義的の力」であるらしい.愛は感情で動くが,義理で動くということは理性的に考えた結果の行動であり,愛とは別種のものである.
武士道における「勇」も説明されている.武士道において「死に値せざる事のために死するは,「犬死」と賤しめられた」らしい.「生くべき時は生き死すべき時にのみ死するを真の勇」という.『「勇気」と「無謀」は違う』みたいなセリフをどこかで聞いた気がするが,それらの思想に通ずるものがある.
このように素晴らしい心構えが紹介されているが,中にはマ現代で生きる上でマイナスになるような心構えもある.
武士道は非経済的である.それは,貧困を誇る.(...)黄金と生命を吝[おし]むことは甚しく賤しめられたれ,その濫費は賞揚せられた.(...)この故に児童はまったく経済を無視するように養育せられた.経済のことを口にするは悪趣味であると考えられ,各種貨幣の価値を知らざるは善き教育の記号(しるし)であった.(p.87-88)
江戸時代の身分制度では士農工商と商人が一番下のくらいだったが,商人がお金を扱う「賤しい」仕事をしているということも関係があっただろう.
現在の日本でもお金の話は汚いとされあまり奨励されていない.それによって日本人がお金に疎くなっている.金融リテラシー調査によれば日本の金融リテラシーはアメリカやヨーロッパの国に比べて低い.
現代で生きる上でお金について無知であることは詐欺師のカモになる可能性もあり,危険だ.お金の話は汚いという考えを早急に改めなければならない.
ほかにも,切腹と敵討(あだうち),女性の武士道,武士道の教育など読むに値するテーマが書かれている.
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