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自分のデータを自分のために活用できることが当たり前の社会に―「次期消費者基本計画」への期待(パブリック・コメント実施中!1/23〆切)

年末ですね。私個人としては、結果的に消費者政策の記事ばかり書いた1年でした。最近の消費者政策の議論が、まさにマネーフォワードのValuesである「User Focus」「Tech & Design」「Fairness」を反映しているところがあり、強く共感していることがその背景です。今年最後となるこの記事では、12/25にパブリック・コメント(意見募集)が開始された「第5期消費者基本計画案」について、ご紹介します。


この記事でお伝えしたいこと(サマリー)

  • 2025年4月からの5年間の消費者行政の指針となる「第5期消費者基本計画」へのパブリック・コメント(意見募集)が開始されています(1月23日 〆切)。

  • デジタル、キャッシュレスが当たり前になる中、自分の金融・決済データに利便性高くアクセスでき、活用できる権利は、消費者被害の最小化や、日々の家計管理・資産形成を円滑に行う上でとても重要です。

  • 政府の第三者機関である消費者委員会は、消費者の金融・決済関連データのアクセス権の明確化に関する法整備等の検討の必要性を明確に指摘しています。

  • しかしながら、現状の基本計画案には関連する記載がありません。この記事をご覧いただき、共感いただける方は、パブリック・コメントへの参加を検討してみていただきたいと思っています(パブリック・コメントは個人でも出せます)。


私たちが消費者政策に注目している理由

私たちが提供するお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」は、金融機関や決済サービス、ECサイトなどの情報を連携し、1つにまとめる「アカウントアグリゲーション技術」によって、ユーザーの皆様の家計管理や資産形成、日々の意思決定などをサポートしてきました。

データやテクノロジーを、ユーザー(消費者)が自分のために適切に活用し、身に覚えのない利用履歴がないか確かめたり、日々の行動や意思決定に活かすことがデジタル化やキャッシュレス化が急速に進展する社会においてはとても重要です。最近の消費者政策の議論では、こうした私たちが提供してきた価値を、デジタルが当たり前になっているこれからの時代に重要な要素の1つとして明確に捉えています。

これまで、日本では「自分のデータに対して、利便性高くアクセスできる権利」(データアクセス権)の議論が進展していませんでした。私たちが提供しているサービスは、ユーザーの皆様からの信頼や金融機関など関係先の皆様のご協力によって成り立っているものの、制度的な後ろ盾は限定的です。諸外国では、金融・決済領域を中心に法制度によってデータアクセス権を担保することが当たり前になっているにもかかわらず、日本ではほとんど議論にすらなっていません。

銀行などの預金取扱金融機関については、データアクセス確保の努力義務が銀行法で課されていますが、経済条件については規制をしていないため、一部金融機関へのデータアクセスは有償になってしまっています。諸外国では基本的なデータへのアクセスを無償とすることまでも法制度により担保していますので、このギャップは大きいと感じています。

さらに、クレジットカードや電子マネーなど、銀行法の枠外の決済手段については、データアクセスに関連した制度がそもそも日本にはありません。このため、私たちのサービスでも一部連携が難しかったり、データ取得が安定しないサービスがあるのが実情です。

(諸外国の動向についてはこちらも参照下さい)

最近の一連の消費者政策の議論は、データアクセス権にも光を当てるものになっており、私たちはそこに強く期待しています

「消費者基本計画」への期待

こうした中で、「次期(第5期)消費者基本計画」へのパブリック・コメントが開始されました。12月25日~1月23日まで、法人・団体だけでなく、個人も意見を出すことができます。

消費者基本計画は、消費者基本法に基づく政府横断的な消費者行政に関する5年間の計画で、現在は第4期(2020年4月~2025年3月)です。第5期が来年(2025年)4月にスタートする予定になっており、現在、最終決定(3月)に向けた政府の検討が佳境に入っているという状況です。これまで消費者委員会などで議論されていた内容が、実際の行政施策にどこまで反映されるか。この基本計画がポイントになります

こちらが、次期消費者基本計画案の概要です。

内閣府消費者委員会(第450回)資料1-1 「消費者基本計画の検討状況について」
(2024年12月25日)より画像引用

パブリックコメントの対象となっている「第5期消費者基本計画(素案)」の本文は全部で50ページほどありますので、すべてをご紹介することはできませんが、気になったポイントをいくつか。

第2章より>消費者政策の基本的な方向性 ~求められるパラダイムシフト~

「第2章 1.」の見出しに、「パラダイムシフト」が明記されています。「本計画においては、消費者基本法に定める基本理念を尊重しつつ、消費者政策の価値規範に関する考え方の転換(パラダイムシフト)を図るとともに、施策への反映を通じて具現化を目指す。」(P.12)ということで、その意味するところが1ページ以上にわたって記載されています。ぜひ本文の該当箇所をご覧ください。まず、総論としては最近の議論がしっかり反映されていることが確認できます。

また、本文をご覧いただいた方がむしろコンパクトではあるのですが、私なりに「パラダイムシフト」の議論の紹介を試みてますので、こちらのシリーズもあわせてご覧いただけるとうれしいです。

第4章より>デジタル技術の飛躍への対応

デジタル化の進展に関連して、P.29から5ページにわたって、プラットフォーマー対策、AI活用、キャッシュレス、さらに自動運転にまで言及をしており、最先端の技術トレンドにしっかり対応していこうという方針が窺えます。他方で、残念なのは、消費者法制度のパラダイムシフトと並行して議論がなされ、すでに報告書も出ている「消費者をエンパワーするデジタル技術」という観点への言及が見られないことです。デジタル化から生じる様々な課題について、制度面などで対応を進めていくことも当然重要ではあるのですが、デジタル技術やデータを消費者の立場で活用することで、消費者自身をエンパワーする、という今回の検討内容をぜひ基本計画にも反映いただきたいと思っています。

また、消費者基本計画の策定にあたっては、政府の第三者機関である消費者委員会がすでに2度にわたって意見書を出しています。


2024年4月22日 次期消費者基本計画策定に向けた消費者委員会意見 PDF
2024年9月27日 
次期消費者基本計画策定に向けた消費者委員会意見(第2回)PDF


この第2回の意見書において、

決済制度の安全性の確保に向けて、デジタル技術を活用することも考えられる。関係行政機関は、消費者の金融・決済関連データのアクセス権の明確化に関する法整備等こうした技術が普及促進されるよう検討することも重要である。

内閣府消費者委員会「次期消費者基本計画策定に向けた消費者委員会意見(第2回)」
(2024年9月27日)※太字は筆者

と、金融・決済関連データへのアクセス権を明確にすべく、法整備等を検討する必要性を明確に指摘しています。しかし、残念ながら基本計画案にはこの点が反映されていません。ようやく、諸外国の議論・制度に日本も追いつけるか、という期待があっただけに、率直に残念です。

消費者基本計画の実効性確保に向けて

また、全体を通してですが、KPIや進捗管理の方法についての記載があまりないなという印象も拭えません。消費者基本計画の達成度合いや進捗をどのように評価するのか。この視点を欠いてしまうとせっかくの計画が意味をなさないのではないかという懸念もあります。

さいごに

この記事を最後まで読んでいただいた方は、消費者政策や金融・決済データへのアクセスのあり方について多かれ少なかれ関心を持っているのではないかと思います。みなさまのその想いを可視化することが政策を推進する力になるはずですので、もしよければ消費者基本計画案の本文にも目を通していただき、パブリック・コメントへの参加を検討いただきたいと思っています。

(再掲)


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