【読感】土・牛・微生物

『土・牛・微生物』デイビッド・モンゴメリー著を読みました。面白いです。昨年からマザーツリーの本を読んで、森の地下に植物の根と菌類(菌根菌)のネットワークがあることに衝撃を受けて、菌類の世界にハマり込みました。これで地衣類との出会いもあって、菌根菌には関心を持ち続けています。

で、身近な話になりますが、我が家の庭の樹木が元気がないのは、菌根菌のネットワークが作れていないのではないかと考えたり、化学肥料や農薬を使う近代農業では菌根菌の知見が活かされているのかという疑問(医療でも腸内細菌が注目されています)がありまして、その問題意識にドンピシャの本です。

著者は地質学者ですが、「土と内臓ー微生物がつくる世界」で奥さんの闘病や庭づくりから微生物の世界にも造詣を広げて、優れた論考を発表しています。この本では、アメリカからアフリカ、南米、日本の、過去の農業や最新の不耕起農業をリポートして、土壌の健康維持による食糧生産性の向上や地球温暖化対策に資する炭素同化など環境保全型農業の素晴らしさを示しています。

著者の別の本「土の文明史」では、土壌侵食による土壌の劣化が文明の衰退を決めていたという論考を発表しており、不耕起栽培を中心とする環境保全農業が描く未来が、その方向に取り組む研究者兼農業実践者が、魅力的に描かれています。

内容としては

1.不耕起(菌根菌を守る)
2.マルチ(土を枯れた草などで覆う)
3.輪作(豆科植物で窒素同化を行い、不規則がよい)

の3条件が揃うと、土壌が健康になって、作物の生産量が上がり、農業経営としても利益が上がる結果が出てくると述べています。

それと、動物や人間の糞を土地に戻す循環があればなおよいというのが主な結論です。炭素を地中に戻すので地球温暖化対策としても有望とのこと。

で、表題に「牛」があるのも重要なんです。アフリカなどで家畜が植物の芽を食べ尽くして、土地の生産性を下げたり、牛のゲップがメタンを大気中に放出するために、温室効果を促進するため、オランダなどでは、畜産業を抑制する政策を進めていると言われます。ところが、家畜の放牧の方法が間違っていて、放牧する地域を限定して、同じ場所には1年に1度程度放牧して、ローテーションをすれば家畜による植物の食害による土地の疲弊を防ぐことができる。この放牧方法はあまりメディアでも触れられていない情報です。

雑草対策をマルチなどで行いますが、多年草は除草剤も使う場合もあり否定しません。害虫対策は輪作ですが、殺虫剤も少量なら使います。化学肥料も少量は可ですが、過剰にやると植物の根から菌根菌への栄養供給をやめてしまうのでよくない。なので、経済性も重視しつつ土の健康を増大するなら、多少の妥協はOKなんですね。

著者は、農業は気候や地質など、その地域に合わせないと成果が上がらないことを認識していて、その土地ごとに、不耕起栽培を基本として環境保全型農業を追求していけば、食糧生産や地球温暖化対策にも有効だと述べていて、これは試す価値のある論考でしょう。

私は小さな農地を持っていてますので、環境保全型農業を試してみたいと思います。

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