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人事・労務担当者のための情報セキュリティ対策-第1回
基本的な脅威と対策
2024年、中小企業の情報セキュリティリスクが急速に高まっています。特に人事・労務部門は、マイナンバーや給与情報など、機密性の高い個人情報を日常的に扱うため、サイバー攻撃の標的となるリスクが増大しています。
実際、2023年の調査では
中小企業の44%がサイバー攻撃を経験
被害額は1社あたり平均450万円
人事データを狙った攻撃が前年比32%増加
最近の人事部門における被害事例
給与明細の誤送信による個人情報漏洩
人事データベースへのランサムウェア攻撃
採用管理システムからの情報流出
現場からの課題
多くの人事・労務担当者から、以下のような切実な声が寄せられています
「マイナンバーや給与情報の取り扱いに不安を感じる」
「限られた予算でどこまで対策すべきか分からない」
「日々の業務に追われ、対策の優先順位が付けられない」
本連載では、これらの課題に対する具体的な解決策を、以下の3つの観点から解説します
✓ サイバー攻撃の最新動向と実例
✓ 法令遵守とリスク管理の基礎知識
✓ すぐに始められる基本的な対策
ここで紹介する対策は、いずれも限られた予算と人員でも実施可能な内容です。まずは自社の状況を正しく理解し、優先度の高いものから段階的に実施していきましょう。
サイバー攻撃の最新動向
中小企業を狙ったサイバー攻撃が急増しています。2024年の調査によると、中小企業の44%が何らかのサイバー犯罪被害を経験しており、特に九州・沖縄地方(56%)、近畿地方(55%)、東海地方(52%)では被害が深刻化しています。
被害の実態
マルウェア感染が26%と最多
システム・サービス障害が20%
個人情報漏洩が15%の企業で発生
経済的損失の具体例
ランサムウェア被害の平均損害額は2,386万円
システム復旧や事故対応に平均27.7人月の工数が必要
小規模企業でも情報漏洩時の対応費用だけで数千万円規模の損失が発生
取引先経由の攻撃事例
製造業では、取引先企業へのサイバー攻撃により部品調達が不可能となり、複数工場が停止。数万個以上の生産が見送られる事態が発生しました。特に中小企業は大企業と比較してセキュリティ対策が不十分なケースが多く、取引先への攻撃の踏み台として狙われています。
このように、中小企業は「狙われにくい」という認識は完全な誤りであり、むしろ攻撃者にとって「手軽な標的」となっています。セキュリティ対策の遅れは、自社だけでなく取引先を含むサプライチェーン全体にも重大な影響を及ぼす可能性があります。
法令遵守とリスク管理
個人情報保護法の基礎知識
個人情報漏えい時の報告義務(3-5日以内)
漏えい時の本人への通知・公表義務
罰則規定:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
情報セキュリティ保険の種類
主に2種類の保険が提供されています:
情報漏えい保険
個人情報や企業秘密の漏えいに特化
損害賠償と対応費用を補償[3]
サイバー保険(包括型)
情報漏えいを含む幅広いサイバーリスクを補償
主な補償内容:
損害賠償責任(訴訟費用含む)
事故対応費用(調査、コールセンター設置等)
システム停止による利益損失
インシデント発生時の対応と責任
法的責任の範囲:
取引先への損害賠償責任
顧客への補償責任
監督官庁への報告義務
想定される損失規模:
システム復旧:平均27.7人月の工数が必要
調査・復旧費用:500万円~1,650万円
訴訟対応:300万円以上
基本的な対策フレームワーク
技術的対策の基礎
基本的な防御策:
OSやソフトウェアの定期的な更新
ウイルス対策ソフトの導入と定期スキャン
強固なパスワードポリシーの設定
データ保護:
重要データの暗号化
定期的なバックアップ(3-2-1ルール)
アクセス権限の適切な設定
物理的セキュリティの重要性
オフィスセキュリティ:
入退室管理の徹底
重要書類の施錠保管
クリアデスクポリシーの実施
機器管理:
モバイル機器の紛失防止対策
記録媒体の適切な廃棄
私物デバイスの業務利用ルール
人的セキュリティの基本
従業員教育:
セキュリティ研修の定期実施
インシデント報告体制の確立
ヒヤリハット事例の共有
基本的な行動規範:
業務用PCの私的利用禁止
不審なメール対応の手順確立
SNS利用ガイドラインの策定
このフレームワークは、技術・物理・人的の3つの側面からバランスの取れた対策を実現します。特に中小企業では、コストと効果のバランスを考慮しながら、段階的に実施することが重要です。