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伊藤詩織さんの『ブラックボックス』A刑事の行動時系列は破綻している


印象操作に嵌るブラックボックの世界〜

人は机の上に置いてあるオレンジ色のボールを見せられて「あれはミカンかも知れない」「ミカンだろう」「ミカンだ」と囁き続けられると、ついにそのボールを「ミカンだ」と思い込いこむようになる。この行為を「印象操作」という。

実は世に騒がれている告発本・伊藤詩織さんの『Black Box』にはいくつかの印象操作がある。

◆デートレイプドラックを使われ、ホテルに連れ込まれた
・本人の記憶・感想だけ(非検査)

◆山口氏から卑猥なことを言われた
・録音なし

◆山口氏が上司になる予定だった
・山口氏は検討する〜等で確約ではない。

◆逮捕に向かった捜査員の目の前で山口氏は通過した
・詩織さんに山口氏の逮捕は準備中に中止になったとA刑事は告げている。p133〜しかし、同頁p133「私も行くつもりでした」p248には「捜査員が待ち受ける最中、逮捕状の執行が止められた」など矛盾する記述が多い。
◆A刑事は逮捕中止をどこで聞いたのか?高輪署か、成田か?現場に向かう途中の捜査車両でか?謎が多い。逮捕中止でも現認する刑事?

捜査員A氏(A刑事)の行動時系列を整理してみよう

『Black Box』で伊藤詩織さんの捜査を担当する高輪署の捜査員A氏を、A刑事と表記します。伊藤詩織さんは詩織さん、詩織さんから性被害を受けたと告発されたTBSワシントン支局長(当時)の山口敬之さんを山口氏と統一して表記します。詩織さん事件クラスターの慣例にしたがって、『Black Box』を『BB』と表記します。

詩織さんは山口氏から就職の相談のために会食したところ、酒を勧められ、その後記憶がなくなり、ホテルで気がついた時には山口氏からレイプされていた、事件は警察上層部によってもみ消されたと『Black Box』を出版しました。

より〜「就職相談のため元TBS記者の男性と食事をした夜に「お酒などを飲まされて、望まない性交渉をされた」と記者会見で訴えてからおよそ5ヶ月。」

◆この頁では上記記事の内容を受けて山口氏逮捕のために奔走するA刑事の不審な行動について抽出して懐疑点をまとめました。

難航した捜査から逮捕〜一転中止へ

p132でA刑事は詩織さんに6月8日、山口氏を逮捕する予定と報告。

『BB』8日月曜日に(山口氏が)アメリカから帰国します。入国して来たところを空港で逮捕する事になりました。第4章 攻防より(p132)

P133で逮捕を断念。

『BB』A刑事:伊藤さん実は、逮捕できませんでした。逮捕の準備はできておりました。私も行く気でした、しかしその寸前で待ったがかかりました。私の力不足で本当にごめんなさい。第4章 攻防より(p133)

「私も行く気だったがその寸前で待ったがかかった」成田に行く寸前なのか、成田空港での逮捕の寸前なのか非常にわかり辛い描写。

しかしA刑事は逮捕予定現場に急行しています。

それでもA氏は、自分の目で山口氏を確認しようと、目の前を通過するところを見届けたという。第4章 攻防より(p135)

A刑事は成田にいた

「それでも」、は「逮捕が中止になったのに」、という書かれていない主語が元になっていると思われます。逮捕はできないが山口氏を確認するために臨場したことを詩織さんに告げるA刑事。何のために?

そして『BB』の終盤ではこうなっています。

「逮捕の当日、捜査員が現場の空港で山口氏の到着を待ち受ける最中、中村格警視庁刑事部長の判断によって、逮捕状の執行が突然止められた。」  「第8章 伝えるより」(p249)


A刑事「私も」行くつもりでした

この「現場の空港で山口氏を待ち受ける捜査員」は実はA刑事ではない。

「私も行くつもりでした」の「も」は複数形で高輪署の他の捜査員の誰かが逮捕状を手に成田に向かった事になります。

⑴逮捕状の執行停止は「逮捕の準備」の段階でA刑事ら捜査員に告げられている。

⑵『BB』「逮捕の当日、捜査員が現場の空港で山口氏の到着を待ち受ける最中、中村格警視庁刑事部長の判断によって、逮捕状の執行が突然止められた。」

⑶A刑事は「それでも」逮捕できないことを予め知りながら現場に向かい山口氏を確認した。ということは、逮捕状を手に成田で山口氏を待ち受けていた捜査員はA刑事ではない。

⑷『BB』「捜査員が成田空港で山口氏の到着を待ち受ける最中、逮捕状の執行が突然止められた」〜で、あれば、成田の逮捕予定現場では「逮捕の準備をした、逮捕状を手に持つ捜査員」と「(逮捕できないが)それでも現認A刑事」と「空港に到着し逮捕を免れた山口氏」が同時に存在したことになる。

A刑事は逮捕のために臨場していない

『BB』をよく読むと、ずっと詩織さんの事件を担当していたA刑事が実は逮捕状を手に現場に向かったわけではないことが分かります。逮捕の準備で逮捕中止になり、「それでも」山口氏を確認しようと現場確認したA刑事。

まとめると、A刑事は『BB』で詩織さんに「私も(逮捕のために成田に)行く気でした。しかし待ったがかかりました、それでも山口氏を確認しようと目の前を通過するところを見ました」と、報告しています。

すると⑵の「逮捕の当日、捜査員が現場の空港で山口氏の到着を待ち受ける最中、中村格警視庁刑事部長の判断によって、逮捕状の執行が突然止められた。」の、「(逮捕状を手に)山口氏を逮捕しようと現場で待ち受けていた捜査員」とは誰なのか。

中村格警視庁刑事部長の逮捕見送りはいつ現場の捜査員に伝えられたのか。逮捕準備をしていたのは高輪署か成田でか。成田に臨場する前に逮捕の中止を告げられていたら、捜査員は成田に行かない。上司への命令違反になります。だから成田で待ち伏せしていた時に逮捕中止の連絡が来た。しかし、逮捕できないことをわかっていながら「それでも」A刑事は臨場した。これは独自判断、単独行動なのか。

この時、逮捕状は誰が持っていたのか?


より〜

(5)警視庁は逮捕状を取ったが執行しなかった。
 成田空港で待ち伏せていた高輪署の刑事から逮捕見送りの連絡が来た。「ストップをかけたのは警視庁のトップ。まれにあるケースだ」と言われた。「納得いきません」と抗議すると、刑事も「私もです」。全身から力が抜けてしまった。

東京新聞Web版の望月衣塑子記者の記事です。上記の書き出しを見ると、この記事、どうも納得いきません。

『BB』では「逮捕の見送り」の連絡をしたのはA刑事。しかしA刑事は「私も行くつもりだった」と現場に臨場していない。しかし逮捕できないことをわかっていながら、「それでも」(逮捕が中止になったのに)山口氏を確認したとあります。行くつもりの時に逮捕中止を告げられたので、この描写だと彼は逮捕状は手にしていない。持っていたらおかしい。(この描写自体、何だかおかしいですし)

では望月記者の記事「成田空港で待ち伏せていた高輪署の刑事から逮捕見送りの連絡が来た。」の「逮捕状を手に待ち伏せしていた刑事」とは誰なのか。

A刑事の行動時系列 

【高輪署員、山口氏逮捕のために成田にいく→逮捕のためにまちぶせる(望月記者記事)最中→逮捕中止連絡→山口氏成田に到着→それでもA刑事は山口氏の姿を確認した】

『 BB』は⑷のパラレルワールドが存在して、A刑事の行動時系列が破綻しています。大手メディアの記者もそれを疑う事なく踏襲しています。

『BB』ではA刑事から何時に連絡があったのか書いてない。大事な事なのに。(早朝なら上層部から逮捕中止命令が来る可能性はかなり低くなります)

すでに『 BB』は聖書のような扱いになっていて、異論をさしはさめる雰囲気ではなくなってきました。

詩織さんも山口氏もただの民事の原告被告なのに、何か文明の転換期に登場するシンボライズされたキャクターのようになっていて危険だな、と思いました。

いつのまにか、「A刑事ら捜査員が権力からの圧力により、逮捕状を握りつぶされ、山口氏を逮捕しようと成田に臨場していたが、「その場」で待ったがかかり、目の前で取り逃がした。」という劇的なストーリーが出来上がっています。

A刑事は『BB』では「逮捕の準備はできていました、私も行く気でした。直前で(逮捕に)待ったがかかりました」と説明しながら「それでも、山口氏が目の前を通過するところを確認し」(何故か成田に臨場した)

A刑事が刑事魂を発揮して逮捕中止になっても山口氏の姿を現認した行動の描写は読者に「性被害が権力者によってもみ消され、逮捕状までもが握りつぶされた」と詩織さんの告発を鮮烈に印象づけるのに成功しています。

オレンジ色のボールがみかんになったのです。

『BB』の会話からすると望月記者の記事での「成田空港で待ち伏せていた高輪署の刑事から直前で逮捕見送りの連絡が来た。」の連絡してきた刑事はA刑事になります。

しかし、BBでは「逮捕の準備はできていたが、直前で待ったがかかりました」「私も行く気でした」と報告していますのでその場にいなかった可能性が高い。成田の逮捕現場にいたらA刑事は「私もその場にいました」というはずです。

A刑事はどこにいたのか?

それでもA氏は、自分の目で山口氏を確認しようと、目の前を通過するところを見届けたという。第4章 攻防より((p135)

この場面の描写は何回読み直しても、A刑事の行動時系列が綺麗にまとまらない。

まず、望月記者の記事を引用してみましょう。

(5)警視庁は逮捕状を取ったが執行しなかった。
 成田空港で待ち伏せていた高輪署の刑事から逮捕見送りの連絡が来た。「ストップをかけたのは警視庁のトップ。まれにあるケースだ」と言われた。「納得いきません」と抗議すると、刑事も「私もです」。全身から力が抜けてしまった。

『BB』から事件の時系列として同じ場面を引用します。 A刑事との会話シーンです。p134〜

(6)すると驚くべき答えが(A刑事から)返ってきた。「ストップをかけたのは警視庁のトップです」そんなはずがない。何故、事件の司令塔である検察の決めた動きを捜査機関の警察が止める事ができるのだろうか?

だから(5)の「成田空港で「待ち伏せていた」高輪署の刑事から逮捕見送りの連絡が来た。」の「ストップをかけたのは警視庁のトップ」と連絡した「高輪署の刑事」はA刑事のはずです。そうなると(3)の描写と繋がらない。待ち伏せをA刑事はしてないからです。「私(も)行く気でした」なので。

やはり、詩織さんの主張には多くの破綻があります。また望月記者の記事と合わせて読むと、『BB』でのA刑事の行動描写は物語を劇的に盛り上げる創作だと断じる事ができます。

(了)

(下書きの部分が残っていましたので、削除しました)

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