他人のような、家族のような
離れて暮らす父が荷物を取るため、我が家に来た。
前日に「朝10時に取りに行く」と連絡があったが、私はインターホンにも電話にも気がつかず、爆睡。30分ほど外で待たせて、「ああ、もうこの人は許可がなければこの家に入ることができないんだ」と、初めて感じる、名前もわからない感情を知った。
家に上がると、私の近況を聞いてきたりして、父親っぽさを出してくる。
会うのは数ヶ月ぶりだった。
「内定祝い、考えときなね。ハルナ(姉)の時は、入社してから周り見てバッグと服欲しいって言ってたよ。今すぐじゃなくていいけど。」
「あー。うん、ありがと。時計欲しいけどお母さんが買ってくれるかもしれないし、バッグは多分あるし。まあ考えとく。」
「どういう部署に行きたいとかあるの?」
「A&R」
「なにそれ」
「アーティストと一緒に音楽制作するてきな」
一方で、どことなく他人の家に上がっているような雰囲気をイチイチ醸し出す。15年くらい住んでいたくせに。
「失礼しまーす」
「……」
「冷蔵庫なんか変わった?」
「あー、おばちゃんのを引き取ったの」
「ドラム関連ってこの部屋にあるっけ?」
「いや漫画部屋でしょ」
「スポンジってどっち使えばいいの?」
「えーっと、色ついてる方」
ムカつく。いちいち腹が立つ。馴れ馴れしさと他人行儀がぐちゃぐちゃに合わさって、私の神経を逆撫でする。いや、なんかこう、ツンツンしてくる感じ。とにかく嫌。
いつからこんなに距離ができてしまったのか。
小さいころから父を毛嫌いしていたが、それはいわゆる思春期や反抗心だったと今ならわかる。
今はよくわからない。きっと寂しいのだ。いや怒りかもしれない。
だって、この人はもう私に興味がないのか、関わろうとしてこないのはそういうことだ、と思う時があるから。
こっちから連絡しないからか、あまり父も連絡してこない。父親ってそういうもの?暮らす家が違くても娘を気にかけるのでは?
時に友人のように、時に家族のように、自然と父と接することができる日はくると信じている。
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