「守りのDX」推進で業務改善を~小さな成功体験から当事者意識を醸成~
AIの活用やEBPMの推進など各自治体では、DXを機会点に新しい施策が展開されています。
一方で「守りのDX」として、職員の意識改革を通して業務の見直しや効率化を進めている自治体も増えています。
今回は、「守りのDX」推進において先進的な取り組みを行っており、ベネッセの「DX人材育成プログラム実証研究」にも参画いただいた世田谷区の取り組みをご紹介いたします。
今回はデジタル改革担当課長の松永さんと、経営改革・官民連携担当課の牛嶋さんにお伺いしました。
世田谷区の現状
松永:世田谷区では、デジタル戦略プロジェクトチームを中心に、世田谷のDXをどのように捉え、推進していくかを考え、「DX推進方針」を2021年3月に策定しています。
「DX推進方針」 の中では、以下3つの方針を掲げています。
行政サービスのRe・Design
参加と協働のRe・Design
区役所のRe・Design
具体的な施策として、オンライン手続きの拡充やオンライン 会議の導入、LINEでの行政サービス情報の提供などを進めています。
牛嶋:その中でも、区役所のRe・Designとして掲げられている業務改善については、2018年から取り組みをはじめています。
当初は働き方改革の文脈の中で、業務改善の推進を提案し、人員やノウハウが不足し効率化が進まない業務に対し、改善ツールの導入や支援を行う役割 を担っていました。
これまで、多くの業務改善を所管課とともに実行することができており、庁内からも業務改善の動きが注目されていると感じています。
業務改善の取り組み
牛嶋:業務改善担当として特に注力して取り組んでいるのが、所管課への伴走型支援です。
具体的には、業務プロセスの見直しや改善の提案、実際に改善施策を実行するときの支援など、庁内コンサルのような立ち位置で支援しています。
改善の実感を醸成するためにも単なるツールの導入ではなく、仕組みの内製を中心に取り組んでいます。
その中で、実際にうまくいった事例の紹介や自ら改善した人のインタビューなどを「業務改善レポート」という庁内広報誌を通して共有し ています。
「業務改善レポート」発行をきっかけに、業務改善について庁内からの問い合わせも増加傾向にあります。
一方で、こちらからの伴走型支援をベースにしてしまうと人員が限られているため、限界があると考えています。
過去に取り組んだ支援施策の一部は庁内で横展開ができるものも多いです。
知見として庁内にたまっているノウハウをまとめ、庁内で活用できる業務改善のフレームワークとして可能な限り落としこんだ「業務改善マニュアル」を作成することで、所管課が直接的な支援なしで改善施策を実行できる環境を整えようと思っています。
業務改善推進のポイント
牛嶋:「攻めのDX」が新しい価値の創造をしていくための取り組みだとすると、業務改善は「守りのDX」にあたると考えてい ます。
「守りのDX」は、コストや時間の削減、「攻めのDX」で推進する施策の陳腐化を防ぐなど現状の業務を前提に取り組みます。
現状の業務から発想していくため、所管課から問い合わせがある場合は、どちらかというと部分最適でDXを捉えているケースが多く、全体最適で考えられていないことがあります。
ただ、いきなり大きな変更を提案しても受け入れられないことが多いので、小さな改善を繰り返しながら職員に改善の手ごたえを感じてもらい、「業務改善は楽しいこと」という認識をもってもらうことが大切だと考えます。
また、OCRや RPAの勉強会や研修を定期的に実施し、なるべく所管課の職員と接点を増やすように普段から心がけています。
DX推進のための人材育成
松永:業務改善の推進に限らず、Re・Designを支える人材の確保に向けて、庁内からDXマインドを持った人材を育成していく必要があります。
そのためにもまずは、職員がICTツールを活用できる環境を整え、業務改善やDXにおける小さな成功体験を積めるような状態を構築していかなければいけません。
加えて、 組織としてDXの成功体験を得るためには、DX人材の育成、活用に向けた管理職の意識改革もポイントになります。
こうした環境下において、小さな成功体験が積み重なることによって、業務プロセスの変革をリードする強い当事者意識をもった職員を育成することが可能だと考えています。
また、DXに関わるスキル習得については、オンライン動画学習サービスの「Udemy Business」を一部活用しています。
世田谷区がDXでめざすこと
松永:来年度からの2年間は、「DX推進方針」のもと、「2年間の重点取組」として変革(Re・Design)への基盤づくりを重点的に取り組んでいこうと考えています。
また、これまでの「行政が区民サービスを提供する」という考えだけでは、ミスマッチが起こるケースもあったと思います。
これからは区民に対しても、職員に対しても、利用者目線で何が求められていて、どういうものが必要なのかを、デザイン思考や蓄積されたデータなどを用いて考えていく必要があります。
こうした検討の中で、ミスマッチの少ない施策を策定し、職員にも区民にも選ばれる世田谷区をめざしていきたいです。
※こちらの記事は2022年3月に発刊した行政DX通信vol.3を基に、一部内容を補足した記事になります。