【開催レポート】県内市町デジタル人材育成にかかるキックオフミーティング|神奈川県
ベネッセでは2024年6月24日に神奈川県における「県内市町デジタル人材育成にかかるキックオフミーティング」を開催しました。
このイベントは、オンライン学習プラットフォームUdemy Business(以下、Udemy)の共同調達によって学習を進める神奈川県内の11市町にご参加いただき、担当者間で自治体ごとの学習状況や今後の課題について意見交換を行うものです。
今回はイベント開催レポートをお送りします。
イベント開催の背景
神奈川県では、Udemyの共同調達を通して県内全域でのデジタル人材育成を推進しています。昨今の労働力不足により、行政においても職員への負担が増加しており、業務効率化を図るためにもDXを推進するデジタル人材の育成が求められています。
デジタル人材の育成に関しては、職員全体の意識醸成、幅広い知識の習得や高い専門性を持った人材の育成など、県内の自治体で共通した課題が挙げられています。そこで今回、参加団体による情報交換を通して課題解決の糸口をつかむため、県内市町デジタル人材育成にかかるキックオフミーティングを開催しました。
共同調達に関する詳しい情報はこちら
(先日作成した記事「共同調達で加速する県内のDX人材育成~神奈川県の事例~」のnote版のリンク)
参加いただいた自治体
神奈川県内11の市町からご参加いただきました。
共同調達による学びの促進のために重要なこと(Udemy事業本部より)
今回、神奈川県ではUdemyを共同調達し、11市町が同じ学習ツールでデジタル人材育成の取り組みを進めていくこととなりました。このような自治体における情報化・デジタルに関する人材育成は、現在多くの自治体で、広く取り組みが進められています。
共同調達のメリット
一方で課題として浮き彫りになっているのは、「人材育成をしても成果が見えづらい」ということです。特に小さな自治体では職員の全体数が少なく、成果の共有・アウトプットが組織的に難しい部分もあります。神奈川県内でUdemyを共同調達し、人材育成を推進するメリットは次の3つです。
神奈川県が代表となって調達手続きを行ったことで、各自治体の契約業務はかなり簡略化できたと考えます。また導入コストについても、神奈川県全体でボリュームディスカウントを適用してUdemyのサービスを提供することで、負担軽減につながりました。
そして11市町で同じ学習ツールを使用することで、学びのノウハウを共有できる点も大きなメリットです。今回のキックオフ以降は、各自治体が人材育成に関わる悩み・相談・ノウハウ・成功事例など、細かなことも随時共有しながらエリア全体で肩を組み、時には助け合いながら進めていくことが非常に重要となります。
学習意欲を向上させる「学びエンジン」
ベネッセでは先日、Udemyを通じて「学びエンジン診断」という無料診断ツールをリリースしました。10問ほどの選択肢に答えると、学びに対する価値観や目指したい方向性が明らかになるというものです。
診断結果では、8つのタイプ別で「どういう時に学びの意欲に火がつきやすいのか」「リスキリングに対してどういう不満が起こりやすいのか」「どのような声がけが効果的なのか」といった情報も公開しています。
学びの火のつき方は一人ひとり違うこと、そしてそれぞれに効果的な声かけ方法があることも認識したうえで、庁内における学び促進の企画や研修時の発信内容の参考にしていただければ幸いです。
参加者による情報交換会・座談会
イベントでは参加者による情報交換、悩み相談の場として座談会を開催しました。以下では特に議論が活発に交わされたトピックスについてまとめます。
受講者の選定について
デジタル人材育成において、「どの階層の職員に研修を実施するか」は多くの自治体が悩むポイントです。神奈川県内の自治体においても、対象者の選定はいくつかのパターンが見られました。
・係長級以下の若手を中心に学習する
・まずはDX推進に関連する部署の職員のみが学習する
・年齢や階級による制限を設けず、意欲ある職員から優先して学習する
・「DX推進リーダー」の役割を持つ職員を各所属に数名ずつ配置し、その職員が学ぶ
・「DX推進リーダー」は指名制もしくは希望者を募る形式でまだ検討中である
・意欲ある希望者を募る場合、研修で何を学びたいかをエントリー時にヒアリングして選定する自治体もある
ある自治体では、事前にどういった内容を学びたいのかを申請してもらうエントリー方式で、希望者を170人程度募っています。対象者に制限は設けず、管理職・一般職員どちらも応募可能としています。すでに150人ほどから応募があり、リスキリングへの興味がある職員、業務でよく使うExcelのスキルを伸ばしたい職員などが集まりました。
また別の自治体では、Udemy学習の開始にあたって新たに「DX推進リーダー」の枠組みを設定しています。各所属に1名ずつDX推進リーダーが行き渡ることで、全庁的なデジタル化の加速を目指すための工夫がなされています。
研修内容、学習カリキュラムの設定について
学習カリキュラムでどういった内容を扱い、職員にどのようなスキルを身につけてほしいかを整理することは、非常に重要な部分です。Udemyでは、学習カリキュラム(ラーニングパス)の設定が可能で、神奈川県内でも多くの自治体が必修講座や推奨講座といった形で受講者に学んでほしい内容を設定しています。
神奈川県では、デジタル人材育成方針の中で「ICT系デジタル人材」と「事業系デジタル人材」という2種類のデジタル人材を定義しています。「ICT系デジタル人材」は基本情報技術者と同等の知識を得ること、「事業系デジタル人材」は各所属でDXを進める人材としてITパスポート程度の知識を得ることを目標として定めました。
この2つの人材のレベルに沿った講座をラーニングパスに盛り込みながら、DXのトレンドといった基礎知識や担当業務をどのように効率化し、デジタルツールをどう活用するかといった講座も学べる内容を設定しています。
Udemy導入初年度となる自治体では、まずは一般行政職員向けの講座からスタートしています。来年度以降は職員の声をカリキュラムづくりに反映させ、徐々に全体のレベルアップを目指します。
また、ラーニングパス設定の際、Udemy内のレビュー数と評価数が高い講座や、自治体向けの講座をいくつか候補として挙げた自治体もありました。そのうえで研修担当者が実際に講座を受講し、職員目線でわかりやすい・学びやすいものを優先してカリキュラムに組み込んでいます。
デジタル世代の若い職員を中心に「なぜ職場でDXを進めないのだろう」という疑問が広がっている自治体においては、まずは若手からUdemy学習を通したデジタル人材育成をスタートする予定です。
レベル別に2つのコースを設け、一般職員向けの基礎講座と、情報システムの標準化・共通化に関わる職員向けの応用講座を設定します。若手がデジタルの有用性を再認識して実業務に活かすことで、デジタルへ苦手意識を持つ職員にも徐々にその重要性を広め、全体として職場の知識レベルの底上げを図る狙いです。
業務時間内での学習と管理職の理解促進について
Udemyはオンライン学習ツールのため「いつでもどこでも学べる」のがメリットである一方、「職員研修をいつ実施するのか」について悩む自治体は非常に多くあります。業務時間内での受講を推奨するか否か、また管理職に対して業務中の学習をどう理解促進するかについて議論が交わされました。
Udemy受講は基本的に業務時間内としている自治体が多くみられます。受講者としてエントリーする際には、Udemyで学びたい内容などを記載した応募申請書を上長にも共有し、職場内の理解促進、学びやすい雰囲気づくりに努めています。
複数の自治体から投げかけられた「DX推進リーダーが部署内で孤立しないか心配。管理職の適切なサポートを引き出すにはどうすればいいか」というDX推進における課題に対しては「管理職向けのワークショップや研修で定期的にDX推進の重要性を発信している」という工夫が挙げられました。
ある自治体では、管理職に持っていてほしいスタンスとして「部下のDX推進を妨げない」ということを繰り返し伝えています。そのために、今なぜDXが必要なのか、人口減少など将来直面する課題とDXとの関連性などを管理職に理解してもらわなければなりません。管理職が部下のDXの取り組みに適切な関わりをするには、継続的な発信が重要だと言えるでしょう。
学習しやすい環境づくりについて
業務時間内にUdemy受講が推奨されているとはいえ、部署によっては受講が難しい場合もあります。周囲の職員に気兼ねせずに学びに集中するため、各自治体はどのような取り組みをしているのでしょうか。
ある自治体では、Udemy学習のために業務スペースとは別の部屋を用意し、集中して受講できる環境の整備を予定しています。
また別の自治体の取り組みでは、会議室を学習用に使ってもよいと職員に周知することに加え、庁内がフリーアドレスであることを利用して、静かに学べるスペースへ一定時間移動して学習を進められる環境を用意しています。
さらに「受講者が孤独感を抱いてしまう」というオンライン受講ならではのデメリットについては、集合研修とUdemy学習を組み合わせた学びの形態を構築予定という自治体もありました。学ぶスキルにあわせ、予習・復習と受講者同士が交流できる場を設けることで、孤独感を軽減しさらなる学びの加速につなげます。
さいごに
今回のキックオフイベントでは、神奈川県内の各市町からそれぞれの取り組み状況や、悩み・課題・疑問などが多く寄せられ、活発な議論となりました。神奈川県のUdemy共同調達による学習はまだ始まったばかり。キックオフをきっかけに構築した担当者同士のつながりを軸に、今後は意見や情報の交換がますます交わされることでしょう。