共同調達で加速する県内のデジタル人材育成~神奈川県の事例~
神奈川県では、2023年度からUdemy Business(以下、Udemy)を導入し、庁内のデジタル人材を育成しています。
2024年度からは、Udemyについて県内市町との共同調達を実施し、利用する市町と一体でデジタル人材育成を開始しました。
県では、育成対象の職員を2つの区分に分類し、それぞれのレベルに合わせた独自のカリキュラムを実施しています。
県総務局デジタル戦略本部室の須藤氏に、デジタル人材育成の取り組みを始めた背景と課題、今後の展望について伺いました。
デジタル人材育成方針の策定と対象職員
神奈川県では、2022年3月に「神奈川県デジタル人材育成方針」を策定しました。
その中で以下の職員を育成対象として定め、研修を実施しています。
① キャリア選択型人事制度における職務選択において「情報・データ利活用」分野を選択している職員
② コンピュータ、ネットワークおよび情報システムの整備・開発・ 運用を担当する職員
③ ICTやデータを利活用した業務改善やDXを担当する職員
④ ①~③を目指す職員
日々進化するデジタル技術を活用して、業務効率化や県民サービスの向上を実現するために、神奈川県のDXに関する取り組みを牽引・推進する人材の育成を目的としています。
神奈川県が育成をめざす「2種類のデジタル人材」
さらに、対象職員の区分ごとにデジタル人材を下記の2種類に分類し、それぞれ職場で期待する役割や到達すべきレベルを定めています。
2023年度からはUdemyを導入した研修を開始し、研修カリキュラムを設定しました。
「ICT系デジタル人材」は基本情報技術者試験の対策講座、「事業系デジタル人材」はITパスポート試験の対策講座を必修として設定しつつ、共通の推奨講座として業務フローを可視化できる講座や、業務効率化の意識醸成につながる講座、要求事項を仕様に落とし込むためのノウハウが学べる講座も設定しています。
「業務改善とデジタル技術をひとつなぎにできる人材」を育てたい
こうしたカリキュラムを元にデジタル人材を育成してきましたが、研修を進めていくにあたり、いくつかの課題が見つかりました。
1.目標値の設定
人材の到達レベル及び講義内容をそれぞれ「ITパスポート試験」「基本情報技術者試験」合格レベルとしているが、資格取得までは求めておらず、目標設定・効果測定が難しい
2.庁内への浸透
デジタルへの苦手意識がある職員が依然として多く、「研修受講後にどのように業務へ活かすのか」という道筋が明確でない
3「. デジタル人材」の定義
行政職員としての「デジタル人材」に求めるスキルをしっかり定義し、庁内にも共通認識として浸透させる必要がある
神奈川県では、まずは基礎の底上げとして業務改善意識の醸成から取り組んでいます。
その次の段階として、DXの推進やデジタル技術について学び、業務活用の具体的な手段へとつなげる「二段階での育成」が重要だと考えます。この流れが定着すれば、庁内のデジタル人材の育成に拍車がかかるのではと期待しています。
Udemy共同調達を活用した神奈川県全域のデジタル人材育成
2024年度からは県内市町村に呼びかけ、Udemyの共同調達を開始しました。これまでも庁内で使用するITツールなどの共同調達や共同利用を実施してきましたが、人材育成においては初めて実施するものです。
Udemyの共同調達に至った背景としては、一つ目に総務省が示す「自治体DX推進計画」や「自治体DX推進手順書」を元に、県として市町村のデジタル化を支援する必要がありました。
二つ目に、システムの標準化や行政手続きのオンライン化等を進めるにあたっては、デジタル人材の育成と確保が不可欠なことです。
市町村と共同開催する県市町村デジタル推進会議を通してそれらの課題について対話を重ねる中で、多くの自治体がデジタル人材育成にかかるコスト負担や事務負担で悩んでいる現状を知りました。
そこで、神奈川県が先頭に立ってUdemyを共同調達することにより、市町村の負担軽減を図りました。2024年度参加団体の利用者数は390名で、県の利用者と合わせると1,000人を超える人数となります。各団体からは「単独ではできない取り組みのため、県と一緒に進められて良かった」「コスト削減できた」といった声が寄せられています。
共同調達を通じて神奈川県が達成したい「DXの未来」
市町村では1人の職員が抱える業務が多く、例えば、システムの開発・運用、DX推進にデジタル人材育成も加わるなど、負担が大きくなっています。
共同調達においては、独自に調達するよりも費用が少なくなるだけでなく、入札や契約などの事務負担も軽減できるというメリットもあります。
また、この度の共同調達では意見交換の場や、研修カリキュラムの横展開など参加団体の情報共有できる体制をベネッセと共に整えました。
今後は、参加団体を対象とした定期的な情報交換の場も利用しながら、デジタル人材の育成をさらに進めていきたいと考えています。
この取り組みの輪が広がり、共同調達の参加団体が増え、神奈川県内の行政のDX推進がますます広がることを期待します。