日本のBNPL(後払い)決済について
こんにちは。ようた@英語&フィンテック(Fintech)コーチです。今回のエントリーでは最近フィンテック界隈でよく耳にするBNPL(後払い)支払い手段について、ECサイト(加盟店)と消費者(利用者)双方にとってどのようなメリット、デメリットがあるのか(ないのか)などを日本のEC市場や決済業界の特徴などを考慮しながら考察してみたいと思います。
BNPL(後払い)とはなにか?
BNPLとは最近のフィンテック界隈の流行りの支払手段(決済手段)を表す言葉です。Buy Now (今買って)Pay Later (後で払う)という支払い手段のためBNPLと言われています。アパレルサイトのZOZOが2016年に開始した「ツケ払い」(GMOグループが決済代行会社)やネットプロテクションが2017年ころに始めた「atone」といったサービス、PayPalに2021年に3000億円で買収されたPaidyなどが日本での主要BNPLプレーヤーかなと考えています。
一方で後払い決済自体はこれ以外にも多く存在します。もう少し詳しく後述しますが「日本の」「クレジットカード」というのは実質1回払いの後払いだと考えています。また、「メルペイスマート払い」というメルペイが提供する後払いサービスや「FamiPay後払い」、「PayPay後払い」などのサービスが若干乱立しています。
海外では、Square(今はBlockと社名を変えています)が買収したオーストラリアのAfterPay、欧州発のKlarna, Amazon.comが採用したAffirmなどが主要プレーヤで、クレジット業界(特にカード発行会社=イシュアと言います)にどのような影響を与えるのかが注目されています。
BNPL(後払い)の特徴
BNPLプレーヤーの特徴としては以下のような点が挙げられます。
利用までの手続きが簡単
これまでの後払いサービス(主にクレジットカード会社や信販会社が行うリボ払いや分割払い)を利用するにはサービス提供会社との信販契約が必要でした。信販会社からすると「後払い代金を返金してくれるかどうか」の審査が必要という考え方です。この審査を行うには、氏名、住所、生年月日、勤務先、年収、勤続期間などの情報をCICやJICCと呼ばれる指定信用情報機関に問い合わせてその結果を判断するというオペレーションが必要でした。金融の世界でいう与信=信用を供与できるかという考え方です。このプロセスを完了するには、書面を提出、審査に早くて数日というような時間が必要でした。BNPLはこの審査部分を独自の自社審査もしくは既存の信用情報機関からの情報との組み合わせに移行させています。日本では自社審査項目の中に携帯電話番号を組み入れるケースが多いです。日本においては99%の携帯は(プリペイドに対して)ポストペイド(後払い)携帯電話ですので、SMSなどで携帯電話番号の認証を取るというのは、本人確認の有効性にかなり繋がるという背景があります。結果として、氏名、携帯電話番号、メールアドレスなどで、瞬時に本人確認や審査を(少なくとも簡易的に)終わらせられることが最近のBNPL(後払い)決済の特徴です。ECサイトのような加盟店視点でいうと、申込や審査というプロセスに時間をかけず売ることができるメリットがあります。
分割払い機能
分割払いサービスが標準で準備されているケースが多いのもBNPL(後払い)の特徴です。分割払いについては、これまでもカードサービスや信販サービスでもありましたが、BNPLにおいてが分割払いサービスを提供するにもかかわらず、消費者(購入者)に手数料(金利)がかからない設定になっているところあります。(この視点ではメルペイスマート払いなどは、分割払いには基本金利がかかりますので、通常のカードの分割払いなどと変わらないと言えると思います)
BNPL事業者はどのように儲けているのか?
多くの支払い方法と同じく加盟店手数料が主な収益源になります。日本においてはカード決済における(EC)加盟店手数料は概ね2.8%から3.5%前後となるケースが多いと思いますが、日本のBNPL事業者も同様の料率から若干低い料率になるケースが多いと思います。いづれにしても加盟店(利用できるお店)からの手数料からシステム減価償却費、人件費、与信費用、マーケティング費用、その他のコストをカバーした結果がBNPL事業者の利益として残る構図になるかと思います。海外のBNPL事業者ではカードビジネスと同じように利用者(消費者)からも分割払い手数料を徴収しているケースもありますのでこの場合は消費者からの手数料も収益の一部になります。(上記でマーケティング費用と記載しましたが、BNPL事業者の利用者への還元についてはなかなか聞くことがありません。カードの利用者に対しては、国内では0.5%から1.0%のポイント還元が一般的になっていますが、このようなコストをBNPL事業者は少なくとも現時点では考えなくていい点も収益に貢献すると考えています。逆にいうと、ポイント還元をしないといけない状況になるとなかなか厳しいビジネスモデルになってくるかと思います)
利用者はどのように返済するのか?
日本においてはコンビニで月でまとめて返済する、銀行振替(引き落とし)で清算するというのが一般的だと思います。海外のBNPL事業者では、クレカで支払うという選択肢も用意されています。クレカを持っているなら、クレカで最初から買えばいいのに、、、と一般的には思われるかもしれませんが、米国などのクレジットカードは基本的にはリボ払いカード専用カードになっているケースが多く、金利や利用額制限などがあってカードを使うよりも便利と思われているケースもあるようです。
BNPL(後払い)は実質的には後払いのコンビニ支払手段
通常のECにおけるコンビニ払いは、オンラインで注文、コンビニで支払い、商品出荷という流れですので、実質的には前払いのコンビニ支払手段ということができると思います。一方、国内のBNPL(後払い)はオンラインで注文、商品出荷、コンビニで支払いという流れですので後払いのコンビニ支払手段ということができるかと思います。
加盟店のメリット/デメリット
改めて加盟店メリットについてまとめておきます。
後払いコンビニ決済を導入できる(コンビニ決済が日本市場でどのような意味合いを持つのかは別のNoteでまとめたいと思います)
クレジットカードを持っていない人にリーチできる(これはよく聞かれる理由なのですが個人的には違和感があります。これも別のNoteでまとめます)
決済手数料がカード決済手数料よりも安くなる可能性がある(ただし、分割払いサービスを利用すると手数料が高くなる可能性がある)
デメリットと言えるかわかりませんが、各種データから見ると国内ではBNPL市場は緩やかに上昇しているもののカード決済シェアを奪っていると言える状況ではないと思います。ですので、EC加盟店全体の決済シェアでみると5年後の2027年でも、成長して(現在の1-2%程度から)5-7%前後なのではないかと想定しています。
消費者のメリット/デメリット
消費者側のメリットは以下のような点です。
カードをオンラインサイトに登録しなくなくてよい(カードを持っていないというよりこの理由の方が大きいと思います)
カードを持っていなくてもECで買い物ができる
いくつかのBNPLサービスでは、手数料なしで分割払いができる
デメリットは、カード決済だともらえていたポイント還元がないということかと思っています。各種調査でも「クレジットカードで十分」、「(いま使っていない人は)これからも使うつもりはない」という結果が出ていますので、クレカを十分に使っているセグメントにはあまりメリットを現時点では訴求できていないということかと思います。
まとめ
Paidyが3000億円という評価額で買収されたこともあり、BNPL(後払い)サービスはこの数年にわかに注目を集めるようになったサービスです。ただ、そのサービスの定義や特徴はまだまだあやふやなところが多い状況で今後日本で普及するかは不透明であるというのが個人的見解です。よく「カードを持っていない人も買い物できる」というような文脈でValue Propositionを語られることが多いのですが、海外(特に日本よりもカード社会である米国)の事例を見ても、カードをもっていないからというより、「カードよりも使いやすいメリットがある=分割払いでも金利がかからない」というカードの代替となっている側面もあるのかなと思っています。
また、従来の勤務先や勤続年数、年収とは異なる個人の与信の難しさなどもあり今後の収益性も明確に測れないところかと思います。(以下の記事は直近のKlarnaで貸倒費用が増加しているという記事です)
https://hedge.guide/news/klarna-financial-results-202101-09.html
日本の決済市場の動向についてはこれからもアップデートしていきます。
Fintech(フィンテック)コンサルサービス
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