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「愚行」 、ただし世界一の「愚行」。
「雲の上へ」
著/キリアン・ジョルネ 訳/岩崎晋也 刊/(株)エイアンドエフ 2300円
2008年。まだ大学生だったキリアンがUTMBデビュー、2位ダワ・シェルパに1時間の大差をつけて優勝。翌09年もぶっちぎりの優勝、お目当ての日本人選手は3位、それは大したもんだけど、キリアンの1時間15分あとだ。その後2011年にも彼はモンブラン一周160kmを制覇している。キリアン・ジョルネUTMB3勝。
2011年には、37年間門外不出だったアメリカの誇りWSERタイトルを新記録のおまけつきでスペインに持ち帰り、そしてきっついハードロックが好きなんだろう、4勝してる。
ほんとは2週間で2.9往復
そんな話がごろごろ出てくるのかと思ったら、ちょっと違う。母親に森の中に置き去りにされたり、パートナーのエミリーとの暮らし(たいていは山行かランニングだけど)、数少ない友人のひとりとグランドジョラスのてっぺんでウンコしたり、を語りながらのキリアン・ジョルネの自己分析 & 自己紹介が9割。商業化すぎる山岳スポーツとの折り合いのつけ方など、彼の葛藤と行動の矛盾にうなずけることが多い。
そして最後の最後にお待たせ、世界一の愚行(*)エベレスト2(じゃないよ、ほんとは2週間で2.9)往復が怒涛の勢いで描かれる。
なぜ2回目を上がったんだよ? キリアンらしい理由だし、その2回目はエベレストのてっぺんで(もちろん真っ暗闇、吹雪の中で)ロストしちゃう、下りのルートを見失うんだぜ。「どうするんだ、おい、キリアン、しっかりしろ!」「ソレがあるだろ、ソレ使えよ」
登山家、山岳関係者は驚くだろうし、多くは反対意見をまくしたてるだろうが(炎上ってやつだ)、キリアン・ジョルネは本書の頭でこう語る。
「ぼくには登山を英雄的な行為とは考えられない。・・・超人的な身体能力と神のような勇気を必要とする偉業なのだと人に思わせるのはたやすいことだ。・・・がっかりさせることになるが、実際にはそうではない」
「登山とはただ、命を危険にさらして頂に到達し、そのあと降りてくるというだけのことだ。どう考えても英雄的行為とはみなせない。これはただの愚行だ」
*この本の宣伝文句に「偉業」や「成し遂げた」があるけど、本人に言わせれば「愚行」だ。ただし世界一の「愚行」だけど。