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「ひたすら面白い映画に会いたくて」31本目『台風クラブ』

 中学生。彼らは子どもでもあり、大人でもある、何とも不安定な存在だ。そんな彼らの前に「台風」が訪れる。本作では、この「台風」が引き金となり、彼らの心の中にある「狂気の風」が暴走してしまうのだ。「台風」が来ると、ついこの映画のことを思い出してしまう。

31本目:『台風クラブ』

           『台風クラブ』(1985)

       脚本:加藤裕司 / 監督:相米慎二

 「台風が来る! 中学生が内に秘めた狂気の風」

物語のあらすじ

 物語の舞台は中学校。受験シーズン真っ盛りな中学3年生の生徒たちが主役だ。そして本作は、中学3年生の生徒数名が、「台風」という力を借りて、自らの内に秘めた感情を一気に吐き出してしまう、そんな物語である。

 中学生の情緒不安定さを見事に表現できている。これにより、等身大の中学生の生々しさが嫌というほど伝わってくるのだ。一歩間違えれば、取り返しのつかない行動を平気でしかねない。そういった中学生の「狂気」をも物語に上手く落とし込んでいるのである。

 要するに本作は、若さゆえの恐ろしさを見事に描いているのだ。

本作の見所

 「台風」、そして「夜の学校」という非日常の連続により、徐々にテンションが高くなっていく生徒たち。時間が経つにつれ、そうしたテンションは狂ったようなハイテンションへと移行していく。遂にそのみんなのテンションは、常にクールな三上恭一(三上祐一)にまで伝染してしまう。

   この場面での、生徒たち全員が下着姿で踊り狂うシーンは、本作最大の見所であろう。特に台風の中、彼らが歌いながら踊り狂う場面は忘れられない。中学生たちが、普段自身の中に隠しもっている訳の分からない感情。それを全力で発散するかのようなこの場面は、観ていてとても清々しいシーンであった。長回しであったのも印象的である。

本作の特徴

 本作の特徴としては、他にカメラワークが挙げられる。本作のカメラの視点は、独特だ。カメラは生徒たちと一定の距離を保っている。彼らに歩み寄ることを一切しないのだ。遠くから彼らを映していることが多い。彼らの表情がよく見えない時すらあるぐらいだ。

 だが、私たちはこのカメラワークのおかげで客観的に彼らの行動を観ることができる。まさに大人の視点なのである。中学生の行動を客観的に観ることで、観る者は冷静に彼らの行動について考えさせられるのだ。きっと、観る者に鑑賞後の余韻を残してくれるはずだ。

印象的なシーン

   清水健(紅林茂)が大町美智子(大西結花)を学校で執拗に追いかける場面は、まるでホラー映画の1シーンを観ているかのようであり、非常に印象的なシーンであった。理科室での事件といい、この台風の日での襲撃といい、健の行動が恐ろしい。

   中でも次のシーンが1番恐ろしい場面であった。それは美智子が職員室に隠れ、入口の扉を自分の体で開かないように押さえていたところを健が足でガンガン蹴る。その彼の蹴りにより、職員室の扉がどんどん壊れていくシーン。このシーンは、和製『シャイニング』ではないかと思ってしまったほど怖かった。

   健が無言で蹴っているのではなく、「ただいま、おかえり」と繰り返し呟きながら扉をガンガン蹴るので恐ろしさに拍車がかかる。もう、サイコスリラー劇のようにしか見えなかった。

   「好き」という気持ちがゆがんだものに変わってしまうと、健のようになってしまうのか。若いって怖い。そう思わされる場面であった。

最後に

 中学生の「狂気さ」に、観る者は飲み込まれてしまう危険がある。彼らの迫力に圧倒されてしまうのだ。このように本作は、そんな彼らの全力青春ロックを感じることのできる日本映画の名作の1つである。

   中学生を子供だと勝手に決めつけてしまってはいけない。子供としてではなく、1人の人間としてぶつかり合うことの重要さを本作を通して学ばされたものだ。

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