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『わが青春に悔なし』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜61本目〜

   戦後の新しい女性像のあり方を伝えるプロパガンダ要素はあるかもしれないが、それを抜きにしても清々しい終わり方であったのでとても好感をもてる作品であった。

   「今この瞬間、自分のやりたいことを思う存分自由にやってみなさい」というメッセージ性がひしひしと伝わってきて、戦後すぐの作品にふさわしい作品だなと思わされたものだ。原節子の魅力がたっぷりとつまった贅沢な作品でもあるのも見所である。

61本目 : 『わが青春に悔なし』(1946)

            『わが青春に悔なし』(1946)

         脚本 : 久坂栄二郎 / 監督 : 黒澤明

「野毛さんについて行けば、何かこうギラギラした目の眩むような生活がありそうだわ」

物語のあらすじ

   この映画の舞台は、軍閥・財閥・官僚たちが国内の思想統一を目論見、帝国主義的侵略の野望(侵略主義)に反する一切の思想を「赤」なりとして厳しく取り締まっていた時代の日本。

   映画の前半は、そんな帝国主義的考えをおかしいと主張し、学生運動のリーダー的存在であった京都帝國大学学生の野毛隆吉(藤田進)という男の物語である。

   野毛は「京大事件」が起こってからしばらく経つと、大学を辞めて左翼運動にまで足を踏み込み、遂には常に国に目を付けられる存在へとなっていくのだ。いつ捕まるかわからないまさに綱渡りの人生である。

   そして映画の後半は、こうした野毛の生き方に魅了された1人の女性八木原幸枝(原節子)の物語である。彼女は野毛のように自分自身の何もかもを投げ出せるような仕事をするために東京への自活を決意する。そして東京で憧れの野毛に出会ってしまう

   果たして2人の結末は。

   このように、この2人を主軸にストーリーは展開していく。特に原節子の表情が素晴らしく、それだけでも見る価値は充分ある。

野毛の生き方を実践する幸枝

   本作品の野毛の生き方はかっこいい。自分には野毛の真似が出来そうにないからこそ一層そう思うのかもしれない。

   しかし本作で1番カッコいい生き方をしているのは、間違いなく幸枝であろう。なぜなら、幸枝は野毛が生前言っていた「かえりみて悔いのない生活」を実践するからだ。

   終盤の幸枝を観ていて完全に燃え尽きて死んでしまうのではないか、とハラハラしたことをよく覚えている。それぐらい鬼気迫った演技で観客を魅了する原節子には脱帽した。

   小津映画での原節子にすっかり慣れていた私にとってこの映画は衝撃的であった。黒澤映画に出ると、彼女はこんなにも力強くてたくましい演技も出来るのかと。

私の1番好きな場面

   私の1番好きな場面は、東京で初めて野毛と幸枝が出会い、2人が野毛の事務所の中で話す場面である。

   野毛の影と幸枝が話しているといったような構図が特に印象に残っている。影を用いて野毛の今後の人生の暗さを表現し、逆に幸枝は今後の人生についてまだ何にも決まってないことを暗に示しているのだろうか。白黒映画ならではの美しい表現方法だったと思う。

   また2人で映画を観に行った場面もお気に入りだ。

   映画を観にいった野毛と幸枝であったが、野毛がいつ警察に捕まるかわからない幸枝はスクリーンよりも野毛の顔ばかり観ていた。

   そして、それに気が付いた野毛が「大丈夫だよっ」という感じでさりげなく幸枝の手を両手で握ったシーンは良かったなあ。

最後に

   黒澤明監督が主人公を女の人にしていたのも新鮮で楽しめた見所であったと思う。黒澤明×原節子もなかなかいいじゃないか、と単純に思える作品であった。

   原節子の演技から女性のたくましさや生命力の強さを感じ取ることができ、観た人に勇気と元気を与えてくれる作品になっているはずだ。きっと、原節子が魅せる迫真の演技にあなたも目を奪われてしまうことだろう。

   黒澤明監督の映画は、まだ観ていない作品が結構あるのでこれからもどんどん観ていきたい。 次は超人気作品である『隠し砦の三悪人』でも観ようかな。

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