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ハゼノキが創り出す灯り② 寄席と和蝋燭の役割

みなさんこんにちは。先週から始まりました「ハゼノキが創り出す灯り」

和蝋燭が日常的に使われている姿を見ることができないため、なかなかピント来ない感じがしますが、和蝋燭は現代の「灯り」である照明器具と同じ役割を果たしていました。そのなかでもとりわけ舞台照明としての側面が現在と通じるものがあり、先週はその点を紹介してみました。

今日は先週の最後に予告していました寄席と和蝋燭について書いていこうと思います。

非常にありがたいことに今年2月、鹿児島県東串良町の山中醤油さんで、江戸落語の再現寄席の照明演出の依頼を頂きました。そこで江戸から明治にかけてのどのように和蝋燭の「灯り」が使われているのか、様々な角度で調べてみました。本日はその調査の過程と照明としての使い方を紹介していこうと思います。


■「真打と芯打」落語と和蝋燭の接点

みなさんは「真打」という言葉を使ったり聞いたことはありますでしょうか?よくあるのは「真打登場!」とかでしょうか。前回も少し書いたのですが、実は「真打」という言葉は、その日最後に話をした落語家が高座を降りる際、和蝋燭の芯を打って(切って)蝋燭を消した動作から生まれたといわれています。

その日寄席の最後を飾る人(その日のメイン)→芯を打つ人→芯打→真打。

普段から使っている言葉が和蝋燭から派生していたと考えると感慨深いものがありますね。この時ご依頼いただいた江戸落語の再現はまさに、そんな真打という言葉が生まれて間もないころの景色を再現する。という聞いただけでもとてもワクワクする依頼でした。

山名醤油さんの3周年記念落語に合わせて、登壇する真打の桂伸衛門さんから、「江戸落語の再現をしたい!」という相談が山中醤油さんにあり、そこから私につないでいただく流れになりました。こんな機会2度とないかもしれない!と思い気合を入れて調査を始めました。

江戸落語の舞台になった山中醤油さん

■意外なほど残っていない資料

調査を開始してみると意外なほど史料がない。。。

落語と寄席は約300年の歴史があり、現代でも寄席は日常的に行われています。特に江戸落語の本場である東京には4つ落語の協会があるため、割とすぐに資料がそろうと思っていたのですが…いくつか協会や博物館にも問い合わせしてみたのですが、意外なほど当時の史料は残っていないようでした。「芯切」の絵は、おすすめ本でも紹介した『自然と文化72号』にも掲載されていたのですぐに見つかったのですが、問題は寄席の絵でした。

『自然と文化2003 72号』より人間万事愛婦美八卦意 辛 蠟燭の夜の雨

持っていそうな場所への問い合わせがうまくいか無かったため、いつも通り国立国会図書館と古本屋をめぐってみました。そこで江戸から明治中期(劇場に照明が入りだす以前)を中心に数点挿絵を含めた図書が見つかりました。

これまで古い資料を探す場合にこれまでは良い資料が少なかったのですが、今回はネットやSNSの情報もとても助けになりました。

SNS経由で教えていただいた情報です。
1つめ、林家彦六(八代目林家正蔵)さんの記事

2つめ、五街道雲助さんが2012年の高座で芯切をされた記事

3つめ、三遊亭圓生さんの死神

五街道雲助さんの芯切は結構最近でしたで、高座の様子がまかる画像が残っているかな?とおもったのですが、映像と画像がなかったので江戸落語の再現は集めた図書の挿絵を参考にすることになりました。

■参考にした図書と和蝋燭の役割

実際に江戸落語の再現をするにあたって、高座の様子や観客の入り方。そして、その際の灯りの配置や取り方はどうなっていたのか?を調べる必要がありました。絵として残っていたのは、文化年代(1804年~)ごろから始まった「三題噺(さんだいばなし)」の挿絵でした。『春色三題噺』や『粋興奇人傳すいきょうきじんでん)』に三題噺の様子が描かれています。

東京都立図書館デジタルミュージアムより三題噺の様子

当時の大衆文化としての寄席の説明が書かれている点から、『江戸の花』と『落語と私』という書籍を参考にしました。ここでも挿絵があるため三題噺の挿絵と併せて全体の組み立てを考えてみました。特に『江戸の花』は1890年に書かれた本のため。まだ江戸時代に名残があり、特に寄席においては照明が導入された初期段階であったため寄席以外のページも興味深いものがありました。

余談になりますが、『東京風俗志』明治30年(1897年)に当時の寄席の風景の挿絵が掲載されていますが、このちらではすでに電灯がともっており、明治中期~後期には寄席で和ろうそくを使う事はなくなってきていたようです。「芯打」もこれと同時に無くなったと推察できます。

『東京風俗志下の巻』より明治30年の寄席の風景。和蝋燭はすでにない

という事で今回の参考図書は『春色三題噺』、『粋興奇人傳』、『江戸と花』、『落語と私』、『東京風俗志』の5冊となりました。SNSでいただいたネットの情報と資料の情報を併せてわかったことは、落語において、和蝋燭は主照明として使われていた。という事でした。残った疑問は歌舞伎がそうであったように和蝋燭だけだと夜暗くない?という点でした。

という事で今週はここまで。来週は実際に舞台照明として和蝋燭を配置していよいよ江戸落語の再現の本番!というところを書いていこうと思います!



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