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「知らないを好きになる」(前編)ラジオビジネスの現状

先日のラジオリスナーフェスでうまく話せなかったので「知らないを好きになる」について説明したいと思います。まずは、その考えの前段となる話「ラジオビジネスの現状」について僕の考えを書きます。

※既出事項のおさらいなので目新しい話はないです。

インターネット時代になって、テレビ、ラジオ、雑誌(出版)、新聞の4マス媒体以外に、YouTube、TikTok、X(Twitter)、Instagram、LINEなどのSNS、Netflixなどの動画配信プラットフォーム、Spotifyなどの音楽&音声配信プラットフォームなど、いろいろ接触できる、なんなら発信もできる媒体が増えて、エンタメ享受、情報収集&発信、時間つぶし、コミュニケーションが多様な手段でできるようになった中で、従来のメディアは存在意義が問われています。

もともと大きな影響力を持っていた規模の大きなテレビキー局や、取材網を張り巡らせている全国紙などは一朝一夕に追いつけない「障壁」を持っているのでまだ別として、もともと、ニッチな媒体だったラジオや雑誌などは、ミニコミュニティに強い、新しい媒体の登場によって大きく存在意義が揺らいでいるように思います。(容易に代替されうる)


ラジオ局が具体的に突きつけられている事実として「広告収入減少」があります。僕が社会人になった1999年の時点でラジオ広告収入はピークだった1991年の2406億円から大きく減少して2043億円(363億が消失)になっていました。その事はバブル時代との比較、その後の不況の影響もあって、あまりリアルにラジオ媒体自体の価値低下とはとらえられてなかったように思います。

そこから約20年経ってさらに広告収入は減って1260億円(783億が消失)になりました(2019年)。その後、コロナ禍を経て現在は1139億円(2023年)となっています。ピークからは1267億円減っていて半分以下になっています。これは明確にインターネット媒体への評価の拡大と、ラジオ媒体への評価の縮小によるものと思います。

ただラジオもただ手をこまねいていたわけではなくて、ラジオ局、広告代理店の出資により株式会社radikoが設立されて2010年12月にインターネットラジオサイマル放送radikoがスタートしました。2016年10月には聴き逃しサービス「ラジコタイムフリー」もスタート。テレビのTVerよりも圧倒的に早くネット聴取環境が整いました。周辺環境も2008年にスマホが登場し(iPhone2008年7月日本上陸)、同時期にTwitter(現:X)も登場(2008年4月日本上陸)。インターネットを通じたラジオの新しい聴き方ができる環境が、テレビに先駆けて整いました。

しかし、ラジオ局は、その機会をフルに活用できませんでした。

理由としては縮小傾向とはいえ、それなりに売上がある(業界全体として売上1000億円以上)従来のラジオ電波ビジネスから離れられなかったということに尽きると思います。

このようなことは、ラジオに限らず起きています。本来であれば、投資ができる大きな資本(お金)を持っている大企業が、それによって革新的な発明ができて良さそうですが、そうなっていません。理由として大きいのは、過去の成功体験を持つ事業、祖業となった事業から離れられず、それまでの成功を生んだ経験を捨てることができないからではないかと思います。そういうわけでイノベーションは常に外からやってきます。大学生の寮や部室、雑居ビルに中古の机と椅子とインターネット回線だけを引いたベンチャー企業から革新的なものは生まれてきました。

ラジオ局も本来であれば、思い切った新しいチャレンジをすべきだったのですが、(1)radikoが聴かれると従来の電波ラジオが聴かれなくなる
(2)ラジオの主たる聴取者層(中高年層)はインターネットを使わない(使えない)
(3)インターネットで全国に届けられるとなるとラジオ局の全国ネットワークの存在価値が揺らぐ
(4)ネット特有のタイムラグがあるので電波に劣る
といった認識、懸念があり、ビジネス的にはカニバる=自社の既存事業の顧客を新規事業が奪ってしまう、かつ、新規事業であるインターネットは既存事業である電波よりも得られる収入が少ないという認識、懸念になっていて、それがラジオ局が本気でラジコに取り組んで来なかった(取り組めなかった)理由なのかと思います。(※個人の感想です)

とはいえ、ラジオ聴取専用受信機を買う人が減る中で(ラジオ聴取機能付きのCDコンポや再生専用プレイヤーを買う人も減っていると思います)、その受信機がないと聴けないという条件で勝負することの結果は想像に難くないし、シニア層がインターネットを使わないと言っても1995年にWindows95が登場してPCでインターネットを使うようになり、1999年iモードが登場して携帯電話インターネットが普及、2007年iPhone登場。それから10年、20年と経ってくると元々インターネットを仕事、生活で使っていた人が年齢を重ねていくので、シニア=インターネットを使わないという見方はもはや通じないのではと思います。

【参考】ラジオ受信機出荷台数 2023年55,000台(前年比110%)

結果的にpivot(事業転換、方向転換)できないままに今に至っています。
今、この瞬間も主役は電波と思ってビジネスしている局が多いように思います。

電波よりも配信が優位だと認めてしまうと、後発のネットメディアに対して不利になると思っているのかもしれません。

とは言え、社会的に前に進んでいく現実は止めることはできませんし、逆に1人一台スマホを持っていてアプリさえ入れてくれれば、サイトにアクセスさえしてくれればラジオを聴いてもらえる環境になった、同じ土俵で多種多様なメディア、コンテンツと競える環境になったというのはラジオコンテンツにとってラジオ史上過去にない千載一遇のチャンス、状況だとも思います。

本来であれば、radikoが始まった段階で全体的な媒体費の値上げが出来ていたら、もっと本気で各局取り組めたのかもしれません。とは言え、市況的に、メディア環境的にそれは無理でした。

最初は、radiko聴取者というのは当然少ないので広告媒体としての価値を高く評価することはできないし、聴取者が徐々に増えていく中で、それに合わせて徐々に値上げができればよかったのですが、徐々に値上げをしていく習慣、仕組みというのがラジオ局にはありませんでした(従来からの媒体値付けの仕方がかなり昔に決まった形のままで来たので、なぜその金額なのか実は明確に説明できない、インターネット広告のようなデータ的裏付けのあるプログラマティックな販売システムをもっていなかったので)。それを踏まえるとインターネット広告の1impressionで何円というのはわかりやすく、PV(ページビュー、再生数)が増えていくと自動的に広告としての対価(収入)が増えていくので、支払う方も受け取る方も納得しやすい仕組みになっています。

よくも悪くもなし崩し的に電波とインターネットのハイブリッドな媒体になってしまった「ラジオ」は、売り方としては、あくまでも従来の電波を主として、インターネットは補完的なものとして扱ったので、インターネットの市場拡大、ラジコ自体の媒体価値の上昇に合わせてラジオ広告価格を上げていくということができませんでした。

また一般的な認識としても、ラジコによって新規リスナーが一気に増えたというよりも、あくまで既存のラジオリスナーが聴取方法を電波からインターネット経由に乗り換えただけなのでユニークユーザー数はそんなに変わってないでしょという評価になっていたように思います。

あとは、やはり、各局自局のことに必死で、ラジコのことはラジコ社にやってもらおうというマインドだったのかもしれません。

かくして千載一遇のチャンスを活かせず、TVerに追い越され、ポッドキャストも視聴場所(配信プラットフォーム)はSpotifyなどがメインプレイヤーになっています。

参考:TVer 2024年8月 4,100万MUB

ラジオ(電波)とラジコ(配信)は、ずっとハイブリットなものではなくて、いつかはラジコに統合されていく、少なくとも配信が主になっていくと僕は考えています。

これは別にラジオだけの話ではなくて、テレビも新聞も出版も音楽も「個別、フィジカルなもの」から「統合、デジタル」に移行しています。※そんなに過激な予測ではなくて送り手も受け手も皆思っていると思いますが。

転換点は既にいくつも通過してきましたが、今後も権利面、役割面、技術面、営業収支面で変化があると、その都度、更にデジタルシフトしていくと思います。

基本的に電波は配信に置き換わっていくと思いますが、別の可能性があるとすると、ラジオの電波を使ったデータ送信受信の画期的な方法が発明されたら、電波免許をもっているラジオ局がインターネット回線よりも強力なコンテンツデリバリーネットワークを獲得できるかもしれません。

インターネットは届ける先を増やすほど、そのコストが増えていくジレンマを抱えているので、一定コストで無限に情報を届けられる点は電波が優れています。

後編に続く


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