斜陽産業で過去最高益を出すには…タワレコと有隣堂を参考にラジオを考える
前回まで、タワーレコードと有隣堂の話を書きました。
2社には共通点があります。
(A)タワーレコードと有隣堂の共通点
(1)将来的に厳しい見通しの事業を主たる事業として行っている
CDを売ること、本を売ることは、いずれも現状厳しく今後も厳しくなると予想されています。
(2)企業ブランド力
タワーレコード…音楽を売っている。(華、文化、歴史)
洋楽(ロック)流行の発信基地、音楽に詳しい店員のお勧め。NO MUSIC NO LIFEキャンペーン
有隣堂…本を売っている。(華&実、文化、歴史)
創業者の思い、横浜の地。本に詳しい店員のお勧め。115年の伝統、JRアトレといえば有隣堂。
(3)CDショップ、本屋という「場」を再定義
CDショップはCDを買う場所、本屋は本を買う場所、インターネットでいずれも手に入る時代にわざわざお店に足を運ぶ意味とは?その動機の部分まで探ってお店を再定義。
*CDショップ、本屋の店員は音楽、本が好きなので詳しい→まず、店員のキュレーションに期待
↓
タワーレコード…同じ音楽、アーティストが好きなファンが集まる場所。→「応援する人を応援する」場。
有隣堂…本を買うこと、本を読むことには常に理由がある。読むことの先にある動機。(知識を得たい、経験をしたい等)
(4)再定義した「場」、コンセプトに沿って行動
タワーレコード…ショップでイベントを1年に1万件実施(ビヨンセ、ビリーアイリッシュがサイン会希望。聖地化→SMAP香取さん来店)
有隣堂…※まだ「場」の再定義模索中とのことですが…企業キャッチコピー「STAY UNIQUE(ステイ・ユニーク)」→他にない独自性を持つことを目指す…ガラスペンフェア、岡崎百貨店
(5)こだわり、熱量の高い社員の存在
タワーレコード…音楽好きが集まる会社
有隣堂…本好きが集まる会社
↓
「好き」の(過剰な)熱量が武器になっている。
タワーレコード…ガチのファンマインドの店員によるお店作りで特定アーティストの聖地化。(ex.タワレコ大高店はSMAPファン聖地)
有隣堂…社員がYouTubeチャンネルで異常な愛情を発信(文房具、プロレス等)。それが人気コンテンツ化し、チャンネル登録者を30万人以上集める。(人気キャラR.B.ブッコローも社員がデザイン)
(6)ターゲットを「マス」に設定
タワーレコード…マスコア戦略(ファンについてコアもマスも狙う)
有隣堂…YouTubチャンネルの企画についてマスに届く可能性を重視
※「マス」の定義…アイドルファン、SMAPファンはマス。YouTubeで10万〜20万再生。
少しでも多く売るために、多く売れる可能性の高いところを狙っている。
(7)多角的な事業展開(収益ソースの多角化)
タワーレコード…推し活グッズビジネス、アーティストライブ物販、アナログレコード(インバウンド)、タワレコマーケットプレイス(ユーザー同士で売買、廃盤CD売り買い)
有隣堂…文房具、雑貨販売、BtoCのみならずBtoBビジネス(アスクル代理店2〜3位を争うレベル)、飲食事業、YouTubeチャンネル運営
(B)ラジオ局・文化放送はどうなのか
(1)聴取者数、ラジオ広告市場長期縮小傾向。ラジオはこのままでは厳しいという見方が多いと思います。ラジオ局はそのラジオを主たる事業としています。
(2)ラジオ放送100年目(NHK)。文化放送も73年の歴史あり。報道機関のひとつ。エンタメでは人気番組多数誕生。ラジオパーソナリティーやアナウンサーから生まれたテレビスターも誕生。(※NRNキー局だがニッポン放送が主という世間のイメージ)
→関東圏でのブランド力、信頼性は一定程度あり。
(3)「ラジオ」「ラジオという場」を再定義
リスナーが何を求めて聴いているのか?聴く動機は何か?情報、娯楽、ファンが集まる場所 etc…
(1)(2)は割と多数が同意できるのかなと思いますが(3)の「ラジオとは何か?」というのは意見が分かれます。リアルな場(お店)、フィジカルなモノ(CD、書籍)があるタワーレコード、有隣堂と違って、ラジオは手に取れるものでもなくて、まさに「ON AIR」。「空間」に漂っているもの、「空気」のようなものなので、捉え方はより多様です。
いったん(3)と、それを踏まえる必要のある(4)は置いておきます。
(5)ラジオ局も面白い人はいます。
シンプルに「ラジオ」が好きという人も当然います(今の文化放送のコンテンツ局局長(編成局長)は大学時代はコミュニティFMでラジオ番組を作るサークルに在籍)。「音楽」好きも多いです。学生時代は勉強よりもバンド活動に時間を割いていました、レコード会社本命だったけど落ちたのでラジオ局に来ました…みたいな人が結構います。
アイドル、ミュージシャン、声優が好きでコンサート、イベントで全国遠征してきた猛者。アニメやゲームが好きでオタクを自称する人。
野球が好き!駅伝が好き!スポーツ好きでスポーツ実況やりたくてラジオ局に入る人、TVの記者会見で見た「文化放送」の名前の入ったマイクに憧れてニュース報道やるために入社したという人もいます。(僕はスポーツ実況とか大事件を扱うニュースをやるならテレビや新聞社の方が良いのではと思う派です)
趣味人もいて、休みの日には車の上にカヌーを積んで川下りをする人、プロ級の腕前のゴルファーもいますし、野球をプライベートでも楽しむ人やマラソンランナーも多いです。
タワーレコード、有隣堂に負けず劣らず面白い人材はいると思います。
(6)ターゲットはマスに設定することは可能です。ただ、ラジオの「マス」って何人くらいなのでしょうか?これも意見が分かれそうです。タワレコ、有隣堂さんを参考にするのがよいのでしょうか?
(7)(1)を踏まえるとラジオに愛着あってラジオ自体の価値を信じていても今の時代の中で今後もラジオ放送を続けていくためにはラジオ以外の事業もしていく必要があります。
今は、BtoBの広告ビジネスだけではなくて、BtoCのビジネスを文化放送もA&Gを中心に積極的にやっています。有料イベントとグッズ販売、最近は課金型のビジネス(メンバーシップ、サブスク)にも力を入れています。
一見、収益ソースを多角化しているように見えますが、収益を得る方法は複数あるものの収益源となる大元の番組は実は1個。「1コンテンツ・マルチユース」ということで1つの番組の価値というかマネタイズの多角化(複数化)はしているのですが、収益ソースの多角化と呼べるまでには至っていません。またイベントやグッズで従来の広告収入に匹敵する収益を得られている番組はごく一部です。
有隣堂は各事業を分社化できるくらい違う業態、業種を持っていますし、タワーレコードの事業の収益は同じソース(特定の人気アーティスト、楽曲)に依存していないです。(ex.推し活グッズ…色々な音楽ジャンルのファンが手に取れるラインナップになっています。アーティストライブ物販…大小様々な現場があります。アナログレコード…国内アナログレコードファン&海外の音楽愛好家を対象、マーケットプレイス…廃盤CD売買を仲介して手数料収入をタワレコが取る等)
というわけで、(3)ラジオの再定義(4)それに基づくアクション、(6)マスの定義、(7)収益ソースの多角化について、しっかり考えていく必要があります。
個人的には
(3)ラジオは「知らないを好きになる」場
(4)インターネットでもAIでも教えてくれない「好き」を見つけて世の中に提供
(6)マス=1番組で1,000人〜数万人に届けることを目指す
(7)収益ソースの多角化は、人気番組のマルチユースを乱発してコンテンツを痩せさせるのではなくて、人気番組を作る構成要素を分解して別の組み合わせを作ることで実現したいと思います。例えば同じメンバー(出演者、クリエイター)で「ラジオ」ではなくて「ゲーム」や「映画」のような「作品」を作ったり、複数の番組のメンバー、よそのメンバーを掛け合わせてフェス、お祭り的なイベントを作る…など。人は人と組み合わせることで、その人単独では出し得なかった魅力が出るということがままありますが、これは人を扱うプロであるラジオ局の日頃の訓練、継承した伝承の見せ所ではないかと思います。
なので、超個人的内田の今日現在の結論としては、文化放送は面白い社員に喋らせて、文化放送だから見つけられる「知らない」「好き」キュレーターとして熱くリスナーに届ける。それを期待して、日々、リスナーがだんだん集まってくるようなゾーン(居場所)を作るべきと考えています。(タワーレコード、有隣堂を真似ます!)
著名、人気なタレントに放送で喋って頂くことは華も意味もあることだと思いますがタレントの取り合いで勝負がついてしまうような戦い方は資金力に劣る文化放送、ラジオ局には分が悪い。タレントが喋っている番組を無理やり全部なくす必要はないですが、ちょっともう本当に無理になっているところで表面的な帳尻合わせをするよりも、もっと実のある、地に足のついた、踏ん張りのきく体勢で臨むべきではと思います。それが、今の時代の選択と集中なのではと思います。
今が絶好調というオールナイトニッポンも一番最初は音楽好きな社員が喋っていたわけで、セイヤングも社員アナウンサーが厳しいディレクターに鍛えられながらなんとかリスナーを楽しませよう面白いと思ってもらおうと頑張って喋っていたわけで、そこから深夜ラジオの文化が生まれて、その深夜の解放区へのリスペクト、憧れが後のタレントが喋るオールナイトニッポンにつながったわけで。。。と言いつつ、今も佐久間宣行さんのオールナイトニッポンが人気になったりしているのを見ると、意外とラジオの現状打破の手がかりは身近なところにあって、定期的な原点回帰なのではと思います。
今や圧倒的な物量(再生数)だけで言えばメディアの中心はYouTubeかもしれません。そこに出演するYouTuberは従来の定義でタレントか素人かで分けるのであれば大多数は素人になると思います。しかし、そこからゼロイチが生まれて跳ねてタレントを上回る人気者、インフルエンサーになったことを考えると今も昔も一見「素人」だからといって侮ってはいけないと思います。
なので、ぱっと見「素人」だけど、実はタレント(才能)を隠し持っている人を見出すべきではと思います。
従来のラジオ事業が弱くなっていく中での収益ソースの多角化はラジオを切り離して分社化できるような事業を目指したほうが良いということになりますが、この点、ニッポン放送さんはかなり多様な本業と切り離しうる事業を作ることを試みているようにお見受けしています。(AI、ブロックチェーン、WEBメディア、配信プラットフォーム、海外などなど)
文化放送もVoicyに出資しています
文化放送エクステンドがゲームを作っているのも、ラジオで培った声優、声優ファン(≒アニメ&ゲームファン)との繋がりを、分解&再構築して全く別の事業(ゲーム作品、ゲーム事業)を構築している…とも言えます。(元々の動機はちょっと違いますが)
このあたりは、まだ正解は各社模索中…という感じです。
以上、タワーレコードさんと有隣堂さんをモデルに自分たちの業界を考えてみた…でした。