社会生活上のヴィルツ
深夜のマクドナルド。へ向かう道中でモバイルオーダーのwebページをSafariで開く。ビッグマックとミルクを1つずつ。
フロリアン・ヴィルツというドイツのサッカー選手がいる。2003年生まれの20歳だ。
ヴィルツはフォワードの1列下、いわゆるシャドウというポジションの選手。シャドウ、影と称されるこのポジションで彼は光の輝きを放つ。
相手選手たちの間でボールを受けたヴィルツはすぐさまゴール方向へ身体を向け、パス、ドリブル、シュート、様々な選択肢が可能な体勢への移行を瞬きの隙にやってのけてしまう。
ボールを味方に渡し、そして相手ディフェンダーの背後へ走り込む。ボールは来ない。来なければ、またフィールド中盤まで落ちてきてボールを受ける。どこにでも現れて、チームを活性化し、決定的な仕事をして去っていく。
彼は現時点で今季44戦無敗継続中という空前絶後の偉業を成し遂げるチームを、前線で牽引する存在。
そんな存在と自分を重ねるのもおこがましいと思いますが。
ヴィルツになりてぇ。
どこにでも顔を出して、いつの間にかそこにいて、知らぬ間に決定的で重大な仕事を軽々しくこなしていく。
目指すはヴィルツ。社会生活上のヴィルツ。
モバイルオーダーをした店舗に到着し、「M278」が呼ばれるのを待つ。呼ばれた。
ビッグマック1つとミルクのパックが2つ。
店員も困惑しながら「ミルク2つでよろしかったですか」
ミルク2つも頼んだつもりはなかったけれど、よろしくはないけれど、もうモバイルで決済はしてしまっているし「よろしくありませんわ」と言うのもよろしくないような気がしたので、「あっそっすか、間違えました、あざっす」と言ってトレーを掴んで2階フロアへ上がる。
ヴィルツ、ヴィルツ。