クリストファー・ノーランとキリアン・マーフィーの対談:2人がたどった歴史と新たな歴史映画を振り返る
「オッペンハイマー」の公開を前に、クリストファー・ノーラン監督と主役のキリアン・マーフィーに2人の映画製作の歴史と最新の歴史映画コラボを振り返ってもらった。
ダークナイト・トリロジー
ノーラン:「バットマン・ビギンズ」の脚本をサンフランシスコで書いているときに、サンフランシスコ・クロニクルに「28日後…」の記事が出てて、君が髪をそって狂った目をしてる写真を見たんだよ。怒らないでね。その1枚の写真を見て文字通り存在感に圧倒されて、君のことを調べ始めたんだ。ぜひ会いたいと思ったね。
キリアン:僕のほうは「メメント」を見てファンになって、「インソムニア」を見て、で「フォロウィング」も見た。そのころにはクリスの完全なファンになってたね。だいたい2003年ごろだから20年も前。2人とも年をとったね!
ノーラン:(笑)ずいぶん前だ。(バットマン・ビギンズのために)君がスクリーンテストのためにロスに来た時に一緒に夕食を食べたんだ。すぐに通じるものを感じたね。物事をクリエイティブにとらえられる人だ、この人と一緒に仕事をしたいと思ったんだ。
キリアン:僕も、自分がバットマン役をできるとは思わなかったけど、バットマンスーツを着てみたり、監督の指示を受けたりしたことを覚えている。すごく価値のあるスクリーンテストだった。
ノーラン:君がバットマンを演じることにはならないとは2人とも分かっていたと思うけど、僕としてはとにかく君を現場に呼んで映画に出演させたかったんだ。スクリーンテストでの君の芝居を見てスタッフもみんな興奮してたよ。だから、キリアンをスケアクロウにしたいと提案したとき誰も反対しなかったね。これまでバットマン・ビランはスター俳優が演じてきていたから、(当時無名の)キリアンをキャスティングしたのはあのテストだけに基づいた判断で、冒険だったけどね。君がスケアクロウ役を射止めたのはそういう経緯だ。
キリアン:あの絶対死ななかった悪役ね!
ノーラン:(笑)死ななかったから君に電話して「また戻ってきてもう1回頭に袋かぶって」ってお願いできたんだ。
キリアン:だね。まだ生きてるよ。
ノーラン:まだ生きてる。頭から袋をかぶってね。僕の好きなスケアクロウのシーンは「ダークナイト・ライジング」の法廷のシーンだね。
キリアン:僕もあのシーンは大好き。監督に「(ダークナイト・ライジングの)脚本読みたい?」と聞かれだけど、「映画を楽しみたいから読みたくない。出演シーンで何やるかだけ教えて」と言ったことを覚えてる。だから1日だけ撮影に参加して、映画の公開を待ったけど、その甲斐があったね。
インセプション
ノーラン:「バットマン・ビギンズ」と「ダークナイト」で仕事をして、また一緒に仕事をしたいと思っていた。(インセプションでは)世界中で撮影をしていろいろな経験をしたね。山でひどい吹雪の中スキーをしたりとか、なかなかの経験だったね。大切な思い出だよ。
キリアン:僕にとっても。レオや素晴らしいキャストと仕事ができて信じられない気持ちだった。
ノーラン:トム(・ハーディ)と仕事したのも初めてだったよね。
キリアン:うん。あのあとトムとは何度か一緒に仕事をしたね。彼はインセプションで素晴らしかったよね。僕にとってはピート・ポスルスウェイトとのシーンがすごく特別だったね。
ノーラン:ピートとキリアンは素晴らしかった。ピートが亡くなる直前で、僕の父親が亡くなる直前でもあった。あのシーンの2人の最後のやり取りは今でもグッとくるね。でトム・ハーディが後ろですべてを見届けた後すべてを操作するんだよね。自分の人生の一時を思い出す感動的なシーン。
キリアン:あの映画についてはいろいろ質問を受けるけど満足する答えは全然返せないね。
ノーラン:(笑)そうだね。みんな君が何かすごいことを知ってるんじゃないかと思うんだろうけど、僕の記憶では、君はただただ役になりきって映画の世界に没入してたからね。
キリアン:うん、それが仕事だから。
ノーラン:素晴らしい仕事ぶりだ(笑)。
ダンケルク
ノーラン:正直に話すよ。はっきり覚えてるんだけど、君に電話して「小さい役だけどとても重要な役だから君が必要なんだ。ボートに乗る人物で、PTSDに苦しむ役。脚本を送るよ」と言ったら、君は電話してきて、「スピットファイアのパイロット役に変えてくれない?」って聞いてきたよね(笑)。
キリアン:その通り。だけど僕が最初に聞いたのは「また頭に袋かぶるの?」だったはずだよ。最初に確認しておかないとだめだからね。
ノーラン:君に送った脚本の草案では君の役はまだ下書き段階で固まってなかったんだよね。だから、とにかく来てくれ、3週間ボートでマーク・ライランスとジャック・ロウデンとバリー・コーガンと過ごしてくれ、役についてはそのあと一緒に考えよう、って話したんだ。
キリアン:そうだね、でその通りにした。役柄のいろいろな心理を考えるのは好きだから、あれは僕にとって大事な役の一つ。兵士たちが実際に経験したことを考えると、あの役を通じて彼らの経験の再現を試みれたのは光栄なことだね。それに監督と信頼関係ができた。だからこそ面白い仕事を続けることができる。僕にとってそれが一番重要なこと。監督を信頼できれば、自分の心を無防備にさらけ出すことができる。
ノーラン:信頼は、クリエイティブに関しては感覚だね。信頼があれば、いろいろ試そう、間違った答えはないはず、非難したり笑ったりする人もいないだろうと感じるからね。深い信頼関係があるからこそ、(ダンケルクで)ボートに乗ってみようかと言える。で、はい次は転覆したボートの船底の上から海に飛び込んでみようか、と言える(笑)。
キリアン:みんなに言っておきたいのは、クリスは僕を船底の上に乗せる前に、自分自身が乗ってみてるんだよね。僕が乗るまではキリアンを乗せないと言ってた。監督がそういうことをやっているということ、みんなは知っておくべきだね。だから俳優は心理的にも物理的にもすごく安心できるんだ。
オッペンハイマー
ノーラン:僕が何をやろうとしているか、何をやってるか、誰も気づいてなかったね。だから君に電話をして「これこそが君が主役として才能を発揮できる映画だ」と話せたことは、これまで仕事をしてきたなかで一番うれしかった瞬間の一つだね。
キリアン:あの電話を受けた日は僕の人生において最良の日の一つだよ(笑)。どんな小さな役でもクリスのためなら出演すると言っているけど、ひそかに主役を演じるのを夢見てた。ただ何の前触れもなく電話が来たからね。信じられないくらい興奮したけど、同時に責任の重さと怖さを感じたよ。
ノーラン:うん。脚本を読む前だったしね。
キリアン:その通り!
ノーラン:脚本を読んでなかったからといって気が楽だったわけではないだろうけどね。
キリアン:これまで読んだ中で一番の脚本だった。それは間違いない。
ノーラン:ダブリンに飛んで君に脚本を手渡しして、君が僕のホテルの部屋でそれを読んでる間フランシス・ベーコンの展示を見に美術館に行ったんだよね。ところで脚本が一人称で書かれていることで、君はより重い責任を感じたのかな。
キリアン:うん、すごくね。一人称で書かれた脚本を読んだのはこれが初めて。理解するのに1分かそこらかかったね。でもそのあと、完全に主観的な話にしたいんだ、すべてがこの人物(オッペンハイマー)の視点で描かれるんだということが分かって、で、またいっそう怖さを感じたね(笑)。だけどクリストファー・ノーランだからね。そういう信頼感があるから。これまでもそうだったように、監督のビジョンは100%信頼してる。だからすごく興奮したよ。
ノーラン:撮影はある意味早く怒涛のように効率的に進んだね。技術的には、ホイテ(・バン・ホイテマ)と2 人である意味初心に戻り、余分なものをそぎ落としたことですごいエネルギーが生まれたね。本作が群像劇であることとうまく合ってると思う。オッペンハイマーが中心にいるけれど、素晴らしい俳優陣にめぐまれていたから、すべてを生かすようにした。
キリアン:毎日あこがれていた素晴らしい名優たちに囲まれ、彼らに見合うよう日々もっと良い芝居をしなければと思いながら過ごしたよ。役の大きさや人物の歴史的な重要性にかかわらず、みんな信じられないくらいよく準備をしていたね。
ノーラン:エキストラもそうだった。実際ロスアラモスで撮影して、本物の科学者たちが大勢エキストラとして出演しているけれど、普通のエキストラと違って、彼らは核兵器の地政学的意味をよく考えよく知ってる。だから、真剣に取り組まなければならない、ここで起こった歴史に忠実でなければならない、何をすべきか理解していなければならないと常に思い出させてくれたね。
(記者に、対談を終わりにしなければならないが、2人の関係はまだ終わらなそうだねと言われ)
ノーラン:全然終わらないね(笑)。もしこれから僕が撮る映画すべてにキリアンが出てくれて僕のこの先の仕事を助けてもらえるなら、そんなうれしいことはないね。
キリアン:クリス、君のためならなんでも。いつでも電話して!
From Batman to Oppenheimer: Christopher Nolan and Cillian Murphy discuss their epic movie partnership (EW.com) by Clark Collisの抄訳
写真:Neil P. Mockford/Getty Images
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