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酔っ払いおじさんがやって来た!

その伯父は、父の姉の夫にあたる人です。父にとっては義理の兄になるのですが、二人はとても仲良しです。というのも二人とも酒を酌み交わすのが大好きでした。

二人は日本の高度経済成長を支えた世代ですから、普段は真面目に働いていましたが、正月やお盆になると、どちらかの家で酒を飲むことになります。

Y伯父はちょっと細身で眼鏡をかけていました

Y伯父と呼びましょう。私にとって、Y伯父は普段はとても優しくて気前のいい方でした。特にお年玉については、常にその年の最高金額をくれる伯父でした。甥の私のことを特に可愛がってくれました。

でも、酒を飲むと豹変するのです。最初は穏やかに父と世間話をしているのですが、酒がだんだん入ってくると、ある時から突然スイッチが入ったように怒鳴りだすのです。その怒鳴り声は、近所にまで届くほどの大きさでした。

父がY伯父の家に行って酒を酌み交わすこともあったのですが、Y伯父は自分の家だと、怒鳴りだすことはありませんでした。伯母の前では怖くて、思いっきり酒が飲めないのかもしれません。

二人は日本酒しか飲みません

暴力を振るうことはないのですが、会話の中で、突然誰かのことを言葉で攻撃をします。対象は、たいてい父か母か私になります。私が攻撃対象になると、そばに来い、ということになり、お前は性格がおとなし過ぎるとか、もっと勉強頑張らないと、などと大声の説教が始まり、握手をしてくるのです。その握力がものすごく強くて、なかなか手を離してくれませんでした。

まるでエクソシストが突然、Y伯父の体の中に乗り移ったようになり、誰も止めることはできません。私は子どもながらに、大人って酒を飲むと、こんなに豹変するものなんだということを知りました。

Y伯父が父と飲んだ後は、必ず我が家に泊まります。翌朝は、昨夜の大騒ぎはまるでなかったかのように、いつもの穏やかなY伯父に戻っています。

ある日、そのY伯父が、突然我が家にやってきました。どうしたんだろう、お正月でもお盆でもないのに。運悪く、我が家には私しかいません。母は買い物にちょうど出かけたばかりです。私一人でY伯父の相手をしなくてはなりません。

Y伯父がクルマから降りてきました。すると降りた途端に、ふらついています。どうも酔っ払い運転でやって来たようです。よろけながら、我が家の玄関までやっと辿り着きました。

Y伯父は、いつも軽自動車に乗っていました

そこで私は目が覚めました。

久しぶりにY伯父が夢の中に出てきたのです。どうしたのでしょう。Y伯父も私の父も、すでに10年以上前に、黄泉よみの人となっています。あの世で思う存分酒を酌み交わしているはずです。

「どうだ、元気でやっているか。しっかり勉強しているか」と言いにきたのかもしれません。

でも、久しぶりにY伯父に会えてよかった。言葉も交わしたかったな。私は、元気でやっていますから、安心してください。

断っておきますが、Y伯父は私の知る限り、酔っ払い運転はしたことありませんでした。

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