縁側で「りんごの皮むいたの、食べなさい」
私が小学校の3、4年生の頃の話です。近所に住む同級生のA君とB君と私の三人で、少し離れたところに住む、同級生のC君の家に遊びに行こうということになりました。
C君の家は、私たちの近所から1キロ近く離れている集落にありました。だいたいあの辺の近所だろうという程度にしか、彼の家の正確な位置はわかっていませんでした。
A君かB君は、C君の家をわかっているのかなと思っていましたが、二人とも知らなかったのです。この付近だろうと思う辺りで、庭先で何にか手仕事をしているおばあさんがいたので、「C君の家は、どこですか」と聞いてみた。
おばあさんは、「C君の同級生かい?」「どこから来たの」というように、私たち三人に、根掘り葉掘り質問してきました。
私たちは一連の質問に答えれば、教えてくれるかなと思って、矢継ぎ早の質問に答えていましたが、「りんごの皮むいたのがあるから、食べなさい」と、縁側でりんごを勧めてくれました。
私たちはまだ小学生だったので、遠慮するという社交技術もなく、縁側に座ってりんごを食べ始めました。
そのうち、おじいさんもやって来て、二人で私たちに、親の名前や、学校のことなど、あれこれ、どんどんと聞いてきたのです。私たちが答えると、二人はとても感心してうなづいたり、面白がったりしてくれたので、私たちもだんだん快く答えるようになりました。
結局、おじいさんとおばあさんには、お昼ご飯までご馳走になってしまったのです。さすがに昼食を、知らない人の家でご馳走になるのは、よくないと思いましたが、おばあさんが私たちの家に連絡しておくから、ゆっくり食べていきなさい、と言ってくれたので少し気持ちが楽になりました。
その日の午後、自宅に帰ると、ずいぶん遅かったねと母に軽く叱られましたが、知らない家でお昼をご馳走になった話をすると、まあ、それは仕方がなかったかのかな、ということでそれ以上のお咎めはなかったので、私はほっとしたのを覚えています。
結局その日は、C君の家には行かずに終わってしまいました。おばあさんから家への連絡もありませんでした。
あれから、半世紀以上が経ちますが、あのおばあさん夫婦はおそらく二人暮らしで、普段寂しかったのではないか、小学生が三人も家に来て歓待できたので、とても嬉しかったのではないかと思います。
今では、あれはちょっと良いことしたのではないかと、思っています。高齢者と子どもたちの交流は大切にしたいですね。
見ず知らずの家で、ご飯をいただいたことありますか。めったにできる経験ではないですよね。