
幼なじみのK君に、50年ぶりに会って
私は列車に乗り込んで、さあ、本でも読むかなと本を取り出したところで、隣りに男が来て座った。
福島の実家の片付けを終わって横浜の家に帰ろうと、いつも乗る無人駅から、ローカル列車に乗ったところだった。私は彼を、どんな人なのか横目でちらりと見た。

向こうも気がついたようだ。お互い同時に気がついた。幼なじみのK君だった。私の実家の後ろに住んでいた2つ年下のK君だ。二人とも60歳代だからすっかり老けたけど、彼の人なつっこい笑顔は変わらなかった。

彼には、私より1つ年上のお兄さんがいた。3人とも当然同じ小中学校だったので、一緒によく遊んだ。特にK君のお兄さんからは、悪い遊びを教わった。
夏の暑い日に、畑の真ん中にある農業用水池で、3人とも裸で泳いでいて、通りかかった農家の人に、こっぴどく怒られたり、家の裏で火遊びをして、親に怒られたりした。

お兄さん、元気?
元気だよ。実家に戻って、農業をやっているよ。
いや、久しぶりだね。最後に会ったのいつになるかな、と私。
50年くらい経つよ、と彼。
中学までは同じ学校だったけど、3人とも違う高校に行ったので、そのあとは疎遠になっていた。ただ、K君と私の妹が同級生だったので、妹からクラス会があった時などに、K君の近況は聞いていた。

自分の近況を簡単に話して、彼に、今、何やっているのと聞いてみると、隣町の不動産屋さんで働いているという。60歳過ぎたので、再雇用だという。
ここら辺の景気はどうなの?
私は故郷を離れて久しいので、地元に残っているK君に聞いてみた。
不動産業に関してはけっこう景気がいいそうだ。町への転入者も時々にあるので、アパートやマンションの契約が着実に伸びているという。私の生まれた町も彼の働く隣町も、観光資源もなく、特徴のない準農村地帯だと思っていた。

なぜなの。何か、インバウンド需要? それとも町を活性化させる政策が成功したとか?
K君に言わせると、理由はよくわからない、という。ただ、宅地開発が進んでいるという。地元の大きな商業都市まで車で20〜30分なので、ベッドタウン化しているのかもしれない、といっていた。
小学校5、6年生の頃、K君と二人で将来のことをしみじみと話したことがある。彼は高校を出たら、どこか大きな町の会社にでも就職して、5、6年経ったら、地元に戻ってきて農業でもするかな、と言っていた。
「Y君(私)は、どうするの?」 と聞かれたので、
「オレもそうなるだろうな」 とは答えたが、自分では納得いっていなかった。
ふだんから、突拍子もない遊びをやらかしているK君なのに、将来の夢があまりにも現実的なのに、驚いたというか、ある種ショックを受けた。
K君、あなたの夢は、そんな現実的な夢ではダメでしょ、もっと突拍子もない夢を語りなさいよ、と言いたかったのである。

私自身も、もう少し夢が膨らむことをやりたいなと思っていた。街を出て、少し経ったら地元に戻って家庭をもつ、ではあまりにつまらない人生に思えたのである。そういう歩みをしている人には失礼な話であるが、当時はこう考えていた、若かった。
私には、パイロット、漫画家、作家など、夢だけはいろいろあったが、結果的に夢で終わってしまった。
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K君が私の夢の中に出てきたのである。列車で偶然会ったという部分だけが夢で、それ以外の、子どもの頃のことは全て事実である。夢とは、本当に不思議なものである。半世紀以上会っていない人が、とつぜん夢に登場するのである。