ロンドンの旅行代理店で、失意のどん底に
友人と英国旅行をした時、ロンドンの旅行代理店で「だまされた、どうしよう」と絶望し途方にくれて自分の愚かさに呆れたことがありました。
まだバブルが弾ける前の1980年代の後半、友人と2人で英国旅行を計画しました。航空券は日本の旅行代理店で手に入れました。まだHISのような代理店の存在は知らなくて、海外旅行慣れした人からの口コミで、航空券を扱う小さいな代理店を訪ねて、格安航空券を手に入れていた時代です。
その時は旅行出発まであまり日数がなかったためか、安い航空券がなかなか見つからず、3〜4カ所目の代理店でやっとロンドン往復を見つけることができました。その代理店の存在は友だちの友だちからの口コミで知ったのですが、早速訪ねてみました。
そのオフィスは小さいビルの地下1階にあり、女性二人が相談にのってくれて、ロンドン往復をなんとか手に入れることができました。
しかし、その航空券の行程は複雑でした。成田からフィリピン航空でマニラへ、マニラからマレーシア航空でクアラルンプールへ、クアラルンプールからシンガポール航空でシンガポール経由でロンドンへ、という3回も乗り換えて、さらに3つの航空会社を使う、というものでした。
ただ旅行開始まで日数が短いので、シンガポールまでの片道航空券のみが渡されて、その後の航空券は、シンガポールで渡されるという代理店の話でした。
私と友人は、手に入れた喜びで航空券そのものにあまり疑問を抱かなかったのです。しかしシンガポールでどのように渡されるのかを確認すると、チャンギ国際空港を降りるとあなたたちの名前を掲げた人が立っていて、渡してくれるとのことでした。
一抹の不安があったのですが、結構安くロンドン往復を手に入れられたので、そのまま出発しました。すると、マニラで次に乗る予定の便が運航中止となりました。幸い代替便に乗ることができたのですが、その座席がなんとファーストクラスでした。
人生最初で最後のファーストクラスで舞い上がってしまいました。CAさんから名前でMr.○○と呼びかけられて、本物のワイングラスで美味しい料理を堪能しました。
果たして、シンガポールのチャンギ国際空港には、我々の名前を札を持った人がいるのでしょうか。
それがちゃんと中年の男が立っていたのです。そしてその男からシンガポールからロンドンまでの航空券を渡されたのです。
でも復路のロンドンから成田への航空券はどうしたのですかと尋ねると、まだ発送が遅れているので、ロンドンでこの旅行代理店に行けば渡してくれると、ロンドンの住所を書いたメモが渡されたました。
帰りの航空券がもらえなかったので、不安になり「本当にロンドンのこの店で渡してもらえるのか」と何度も確認すると、そうだと男は言うのでした。
それ以上はどうしようもないので、チャンギ空港でロンドン行きのシンガポール航空に乗り換えました。チャンギ空港は当時としてもとても広くてお店も豊富にあり、さすがアジアのハブ空港を目指しているだけあるなと感心したのを覚えています。
ロンドンのヒースロー空港には早朝に着いて、宿泊するB&Bに荷物を置いて、早速メモにある旅行代理店に向かいました。当時は地球の歩き方の地図を頼りに、メモの住所を目指しました。
その住所には確かに旅行代理店があったのでした。代理店の看板は、我々が航空券を買った日本の代理店とは全く異なる名前でした。中に入ると英国人らしき男性と日本人らしき女性がいました。
早速私たちの事情を話すと、そんなことは聞いていないとの返事でした。日本の代理店の情報やチャンギ空港の男性の話をしましたが、女性の店員さんは、このトラブルに関わりたくない、関係は全くありません、という冷たい応答でした。
復路の航空券を到着地の都市の代理店に送る、というようなことは普通はない、とのことで、あなたたちはおそらく騙されたのでしょう、という返事でした。
さらに、片道の日本までの航空券を買うなら、いくらですよと、もう諦めてここで買いなさいとまで、やんわりと言われました。
取り敢えずすぐに買うことはせず、落ち込みながらB&Bに戻ったのです。二人で話し合い、日本の代理店に電話をすること、そして明日もう一度あの代理店に行ってみることにしました。
その日の午後、日本の代理店に電話したのですが、留守番電話が出るばかりで、私たちの不安は頂点に達したのでした。
時間を無駄にしたくないので、ロンドン観光をしたわけですが、こんなに落ち込んで見学したことはありませんでした。帰りの航空券を買うお金はなんとかありましたが、かなりの損失であるし、もっと信頼できる旅行店に頼めばよかったと後悔するばかりでした。
帰りの航空券を買うと残りのお金が少なくなり、かなリ制限された貧乏旅行になるなとも考えました。
翌日、なかば帰りの航空券を買うつもりで、同じ旅行代理店に行きました。すると昨日の日本人女性が、昨日とは打って変わって笑顔で、航空券が届きました、というのです。私たちも飛び上がって喜びました。
彼女によると、このように航空券を関係のない代理店に送り付けるということはありえないとのことでした。おそらく本当に調達が間に合わなくて、この代理店を航空券の単なる受け取り先として使ったのではないか、ということでした。
いずれにせよ、今回はまる一日落ち込まされたという心理的なこと以外に、金銭的な実害はなく、事なきを得たわけです。
実はこの先の旅行で、金銭的な実害を被ったトラブルがあったのですが、これはまた別の機会にします。
インターネット社会になった現代では起こり得ないことですが、大きな買い物をするときは実績のあるお店を選ぶことが大切だという教訓を学びました。