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日曜日のクルーメイト #0034 The Unfettered Mind-不動智-

今週も、〆切が丘を登り切るのがギリギリでありましたため、当記事もやや遅れてお送りしております。

気づけば冬! Winter is coming!!(ゲーム・オブ・スローンズ)というわけで、先週は札幌で寒さを味わってきましたが、東京も寒い!
皆様におかれましては、季節の変わり目で、体調を崩されませぬようお気をつけて! 
冲方はだいたい、4月と10月が絶不調期になりがち。そういうときはローギアで、じりじり〆切と体調の峠を越しつつ、好転を待つことになります。

今週は、心身も〆切もだいぶ落ち着き、ようやく元気に冬を乗り切れそうな予感がしております。

どうぞ、皆様もごきげよう!
おっと、終わってしまう。
さっそく、元気で参りましょう!

今週の宣伝 『剣樹抄 不動智の章』

カバー出ました! 
今巻から始まるのが、敵を追って日光道をゆく、了助の旅路

怨みに苦しむ心の旅であり、しっかり生きようとする体の旅でもあります。
賊と仇を追う戦いの旅であり、さらに了助にとっては、江戸とその近郊の歴史を知ることで、今の世がどこから来たかを知る旅ともなります。

全てが了助にとっては学びの旅。果たして無事に江戸に戻れるのか。戻れたとき、どのような成長を遂げているか。書いていて、とても楽しみ。

旅路を先導するのは、柳生家の列堂義仙
悪役として描かれがちな人物ですが、本作ではそれとは異なる顔を見せております。
剣の師、禅の師、旅の師として了助を導く、義仙の活躍もお楽しみに。

他方、逃走しつつも、新たな企みを実現せんとする「賊」の側の物語、そしてむろん、江戸に残って務めに励む光國たちの物語も、乞うご期待!

ちなみに。
「不動智」は、品川東海寺の始祖・沢庵禅師が、柳生家当主にあてて書いた手紙が、のちに「不動智神妙録」という教えとして広まったもの。
「間一髪」「石火」など、今でもその喩えが使われていますね。

また、現代語訳だけでなく、英訳も面白い。英語の勉強にもなります。
不動智とは何にもとらわれない心のことですが、「unfettered mind」の語が当てられています。これは、足かせをはめられた奴隷的な状態からの解放の意で、転じて、思想的な制限が課せられない、心の状態のこと。

あくまで束縛から解き放たれることであり、単なる自由「free」についてではないところが、なるほどと思わされます。

さて。
そのような解放へと導かれゆく、了助の旅や、いかに。
第二巻となる『剣樹抄 不動智の章』は、ドラマの開始日と同じ、11月5日となっております!
なんとまたしても見事に重ねてきました! どれだけこの日に発表が重なるのか。
いずれの作品も、ぜひともよろしくお願いいたします!

今週の宣伝 『マイ・リトル・ジェダイ』と江尻勝さんとの対談!

続きましては、別冊文藝春秋にて『マイ・リトル・ジェダイ』第2話の掲載のお知らせ!
あらゆる面で、ダメっぷり全開の主人公・暢光(のぶみつ)の七転八倒は、果たして眠れる息子の光明となるのか。

そんな本編とともに、プロゲーミングチームDeTonator代表の江尻勝さんとの対談が載っております。
個人的に大変興味深く、刺激を受け、示唆を得た対談でした。

一大エンタメとして急激に成長した、コンピューターゲーム。
人々の生活の一部となったそれが、スポーツのように、社会的教育をも担うようになっていったのは、必然であったでしょう。

江尻さんの言葉を通して、現代のゲームを取り巻く状況から、それを生業とする人々の活躍、そしてまた、世界中の人々のつながりが日々、生まれている様子を、知ることができるでしょう。

ぜひ、御覧下さい!

今週の宣伝 『マルドゥック・アノニマス』

さて三つ目は、SFマガジン掲載『マルドゥック・アノニマス』第39話!

いよいよ今シリーズのテーマの一つである「社会と個」へのクローズアップがじわじわ進展。

「スクランブル」「ヴェロシティ」を経て、登場人物も主題も一挙に多様化した今シリーズ。ハンターが体現せんとする主題が、バロットの眼差しで語られ、そのカウンターとしてウフコックが位置するという、「社会と個」を描く上で必要不可欠な、理想的な構図へようよう突入です。長かった!

それにしても。
連載開始当初は、どのように主題を多様化させ、そして人物同士の対決へと収束していくか、大まかに想像しておりました。
きっと、仮想社会の思考実験みたいな物語になるだろう、と思っていたら、五年以上経て、意外にも現代社会のほうが近づいてきた、という気分です。

とりわけ今話で書いたのは、「公平と平等」について。
「Equity」と「Equality」は、それぞれどのように「公正 Justice」と適合し、また矛盾するか? なんてこと、5年前は大した問題ではないとされていたように思います。

しかし明らかに5年かそこらで、現実の福祉や正当な報酬のシステムが麻痺し始め、貧困層に落ち込まなくていいはずの人々がどんどん貧しくなる一方、超富裕層だけが法の制限すらをも出し抜く世界が明らかとなりました。

マルドゥック市や、多くのアメコミやSFで描かれてきた、嫌な世界観そのものが出現してゆくかのような世において、いっそう、何を書くべきかが問われつつも、本来の主題を見失わないよう地に足をつけ、現実のカオスに巻き込まれないよう、備える必要があると肝に銘じている次第。

一匹のネズミと、かつて少女であった女性の物語。
どうぞお楽しみ下さい!

今週の宣伝 『骨灰』

さて四つ目! 野性時代誌にて『骨灰』第3話が掲載予定!
今月は札幌行きもあってギリギリでしたが、無事に脱稿いたしました。よかった!

東京の超高層ビルの真下には何があるのか? などと、いろんな会社から怒られそうなテーマでお送りしております。
今回またもや主人公が、別の地下空間へと入り込んでゆきます。ぜひお楽しみ下さい。

ちなみにこちらは、舞台が2015年の東京。
オリンピックの開催が決まり、再開発がいっそう本格化するなど、華やかな話題が見られる一方で、ちょうど2014年の衆院選の影響が、じわじわ現れてきた時期です。

顕著であるのが、貧富の格差の拡大というより、低所得層の拡大とともに貧困がさらに悪化して全年齢へ広がっていったこと。

東京でも、貧困病とでもいうべき梅毒が、急激に蔓延したのもこの時期。
お金と引き替えに、ろくな知識もないまま、健康リスクにさらされた人々が急増したといえます。
今のパンデミックに比べて全然目立っていませんが、ここ数年でようやく減少に向かっていることが報告されているものの、2020年は、まだ2013年の3倍の感染者数であることがわかります。

あと10年か20年もすれば、こうした各方面の詳細な調査がまとめられ、総合的に論じられることで、史料となしうる成果がもたらされるでしょう。

まだ日の浅い歴史を掘り返しているため、多くの点はフィクションとして描かれるべき推論に過ぎません。

とはいえ。
先の選挙を機に、制度見直しと救済否定が唱えられる一方、貧困の負の連鎖が顕在化するさまは、それ自体がホラーだと思わされ、ぞっとします。

月末は、いよいよ衆院選。
今回の選挙で、国民は何を選ぶのか?
自分も選挙へ足を運びつつ、世の推移を注視したいと思います。

オンラインでの無料試し読みはこちら!

華やかな東京の地の底で遭遇する怪異を、超乾燥した空気で、ひりひりとお届けしております。
どうぞお楽しみ下さい!

コメント・トーク

さてここからはクルーメイトのコメントご紹介!

森人さんのコメントです。
五稜郭、確かに! あの地での戦いは、内容の悲惨さはさておき、絵面として島原の乱とまた違うインパクトがあるでしょう。
ちなみに五稜郭周辺は銭湯がいっぱいあるらしいので、取材にはもってこいですね。

個人的には榎本武揚のほうに心のスポットが行きがちですが(戊辰戦争後の活躍もふくめて)、陸軍奉行の活躍も無視できません。
ただ今は、全てを見守った明治天皇に興味津々なのです。

kei.さんからのコメントです。

そう思うじゃないですか。
冲方も札幌はすぐいけると思ってましたよ。
しかし十勝におりましたので、札幌まで、列車で三時間くらいかかるねえ、と言われた記憶があります。
レンタカーで飛ばしても、一泊の旅程。
関東でいえば、東京から宇都宮に行くより時間がかかりますからね。でっかい道、でっかすぎです。

空港も帯広空港を利用していましたので、今回初めて千歳空港に降りましたが、広い! 
シアターがあるどころか、イベントまで催しているのですから、千歳空港の複合施設ぶりに目をみはりました。

再び森人さんからのコメント。
冲方はですね、最近、わからなくていいんじゃないか、と思っております。
とりわけ個人の感性というものは、本人にも将来どうなるか、わからないですからね。

ある人が、どんな自分と表現に目覚めるかが問題であって、それがわからないからといって、第三者が否定する必要はないでしょう。

「僕にはよくわからないけど、あなたが自分と表現を手に入れたことは素晴らしいことだ」という以上のことは何も言えません。
それが、今のところのスタンスですねえ。

薔薇肉船舶さんからのコメントです。

ありがとうございます! フォトナこと『フォートナイト』は、冲方も完敗です。
『コール・オブ・デューティ』系とはハードさが別種ですね。どれだけ練習すれば中学生に勝てるのかと思うと気が遠くなります。

FPS(一人称)、TPS(三人称)という用語もだいぶ広まりました。携帯電話でゲームがより一般化したこともあるのかもしれませんね。

『マイ・リトル・ジェダイ』、ぜひ今号も御覧下さい!
ノブのしゃかりきは、書いていて妙に楽しいくせに、泣けてきます。

いつもコメントありがとうございます! ぜひ皆様の、ご感想、ご意見、リクエスト、ちょっと思ったこと、飯テロ、大喜利など、ふと思いついたことを遠慮なく、
#日曜日のクルーメイト
のハッシュタグをつけて、ツイートして頂くか、当記事のコメント欄に書き込んで頂ければと思います!

あとがき

今週も予定より数時間遅れでお送りしております。
ゲラ作業の合間の記事作りでありましたが、翌日に押されずによかった。

秋が深まるにつれて体調も思わしくありませんでしたが、冬に突入してのちは妙に元気が出て参りました。

着々と執筆を進めてのちは、また皆様のアイディアをもとに、当記事で何かのコーナーをやりたいものですね。

ではでは。
素敵な日曜日をお送り下さい!
冲方丁でした。














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